カナデビア(旧日立造船)の27歳社員がタイ赴任中に過労自死した事件で、遺族と企業が共同で「海外派遣者健康管理マニュアル」を策定しました。出典:Yahoo!ニュース
初めての海外勤務。慣れない土地、専門外の仕事、相談できる相手もいない。そんな状況で、若い命が失われました。
言っておきます。海外赴任でも、あなたは日本の労働法に守られています。
「海外だから日本の法律は関係ない」——これは会社側に都合のいい誤解です。現役の社労士として、この事件から見える海外派遣の落とし穴と、労働者が握っておくべき権利を整理します。これから海外に出る人、すでに現地で働いている人に、ぜひ知っておいてほしい話です。
- 海外赴任でも労働基準法が効く場面はどこか
- 過労死認定の基準は、海外勤務でも変わるのか
- 赴任前に必ず確認すべき3つのポイント
事件の概要と、労働法から見た問題点
今回の事件では、3つの過酷さが同時に重なりました。初めての海外勤務。本来の専門ではない業務。そして、長すぎる労働時間です。
注目すべき点があります。宿舎での作業や移動中の時間まで、労働時間として算入されたことです。
海外勤務だと、仕事とプライベートの線引きが一気に曖昧になります。同じ建物に住み込みで働く、休日も呼び出される、現地スタッフとの連絡が深夜に及ぶ。こうした時間を「勤務外」と片付けてはいけません。会社の指示で動いている時間は、原則として労働時間です。
川崎重工の中国出向事例との共通点
少し前に和解が成立した川崎重工の中国出向事例も、根っこは同じでした。
海外に人を出すときの健康管理体制が、現地任せで不十分だった。ここが共通の問題です。会社は社員を海外に送り出す以上、国内と同じか、それ以上の配慮義務を負います。距離が遠いから免除される、なんてことはありません。
海外赴任者が持っている労働法上の権利
労働基準法はどこまで適用されるか
結論から言います。次のようなケースでは、海外勤務でも日本の労働基準法が適用されます。
- 日本企業との雇用契約がそのまま続いている場合
- 出向の形でも、実質的に日本企業の指揮命令下にある場合
- 一時的な海外派遣の場合
つまり、多くの海外赴任者は日本の労働法の傘の下にいる、ということです。
「現地採用に切り替わった」のか「日本の籍を残したまま出向しているのか」。ここで適用される法律が変わります。自分がどちらなのか、曖昧なまま赴任してはいけません。
過労死認定の基準
海外だからといって、過労死認定のものさしが甘くなることはありません。基準は国内と同じです。
目安は時間外労働。発症前1か月に100時間、または発症前2〜6か月で平均月80時間を超える残業が続いていれば、業務との関連が強いと判断されやすくなります。いわゆる「過労死ライン」です。
今回の事件では、宿舎での業務時間まで労働時間に数えられました。これは大きい。海外赴任者の労働時間をどう数えるかについて、一つの前例になります。
企業の安全配慮義務と、これからの対策
会社は、海外に出した社員に対して特別な安全配慮義務を負います。国内と同じ感覚で「現地に任せた」では済みません。
遺族と企業が一緒に「海外派遣者健康管理マニュアル」を作ったのは、踏み込んだ取り組みだと思います。本来なら、誰かが亡くなる前に整えておくべきものでした。
マニュアルに盛り込むべき中身
- 労働時間をきちんと記録・管理する仕組み
- 定期的な健康チェックの体制
- 現地で気軽に使える相談窓口
- 緊急時に本社へつながる連絡ルート
よくある疑問 Q&A
- Q: 海外赴任を断ることはできますか?
- A: 雇用契約書に海外勤務の可能性が書かれていない場合は、断る余地があります。ただし、転勤命令権の範囲内と判断されれば、応じる義務が出てきます。まずは契約書の記載を確認してください。
- Q: 海外での残業代は日本の基準で計算されますか?
- A: 日本企業との雇用関係が続いているなら、原則として日本の労働基準法で計算されます。現地法のほうが労働者に有利な場合は、そちらが適用されることもあります。
- Q: 海外勤務中に体調を崩した場合の補償は?
- A: 業務が原因と認められれば、労災保険の対象です。海外勤務でも労災認定は可能です。あきらめないでください。
すぐやること 3つ
- 雇用契約書を確認する:海外勤務の記載があるか、適用される法律はどの国かをチェック
- 労働時間を記録する:移動時間や宿舎での業務時間も含めて、細かく残す
- 健康管理体制を確認する:現地での健康診断や相談窓口について、会社に直接聞く
まとめ
- 海外赴任でも、労働基準法の保護を受けられるケースは多い
- 宿舎での業務や移動時間も、労働時間に算入される可能性がある
- 会社には、海外派遣者への特別な安全配慮義務がある
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