2026年1月、名古屋市南区で85歳のアルバイト運転手がマイクロバスで信号を無視し、歩行者2人が亡くなる事故が起きました。(出典:Yahoo!ニュース)
痛ましい事故です。そして、運転していた本人もまた一人の労働者でした。会社の送迎業務という「仕事」の最中に起きた事故だからです。
結論から言います。業務中の交通事故は、原則として労災です。そして、高齢の運転手をそのまま働かせていた会社の責任も、当然問われます。
現役の社労士として、このニュースを入り口に「業務中の事故と労災」「高齢労働者の安全管理」を、労働者側の目線で解説します。会社の言い分ではなく、あなたを守る側の話です。
- 業務中の交通事故は労災になるのか
- 会社の安全管理義務はどこまで及ぶのか
- 高齢で働くとき、自分を守るために何を確認すべきか
業務中の交通事故は労災になるか
なります。今回のような送迎業務中の事故は、原則として労災認定の対象です。
理由は単純で、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの条件を両方満たすからです。難しい言葉ですが、中身はそう難しくありません。
労災認定の2つの条件
業務遂行性とは、会社の指示で仕事をしている最中だったか、ということ。業務起因性とは、その仕事が原因で事故が起きたか、ということです。
今回はスイミングスクールの送迎中でした。会社の指示で運転していて、その運転中に事故が起きている。
つまり、2つとも満たしています。労災と認められる可能性は高い。「業務中だったのに自己責任で片づけられる」という話ではありません。
故意・重過失があると除外されることも
ただし、例外はあります。本人にわざと、あるいは重大な過失があった場合は、労災から外れることがあるのです。
信号無視は、たしかに重過失とみなされる余地があります。ここだけ見れば不利に思えるかもしれません。
でも、待ってください。85歳という年齢を考えると、「わざと無視した」のではなく、認知機能や体調の低下で判断が追いつかなかった、という見方も十分に成り立ちます。そうであれば、評価はまるで変わります。一律に「本人が悪い」で終わらせるべきではありません。
会社の安全管理義務と使用者責任
ここからが本題です。事故を「運転手個人の問題」にしてはいけません。85歳の人にハンドルを握らせ続けたのは、会社だからです。
会社には、働く人の安全を守る義務があります。とくに運転を任せるなら、健康状態の確認と運転適性のチェックは欠かせません。
安全配慮義務という壁
労働契約法第5条。ここに、使用者は労働者の安全に配慮しなければならない、と定められています。これを安全配慮義務といいます。
85歳の運転手を、何のチェックもせず運転に就かせていたなら。それは義務違反を問われる可能性があります。会社が「本人が勝手にやった」で逃げられる話ではありません。
会社がやるべきことを並べてみます。
- 定期的な健康診断の実施
- 運転適性検査の実施
- 安全運転教育の実施
- 労働時間の適切な管理
会社が負う損害賠償の責任
民法第715条には、使用者責任が定められています。従業員が仕事中に起こした事故について、会社が賠償責任を負う、という規定です。
今回も、被害者の遺族から会社へ高額な賠償請求が向かう可能性があります。会社が責任を逃れるのは、簡単ではありません。次の2つを会社の側で証明しなければならないからです。
- 従業員の選任・監督に相当の注意を払ったこと
- 相当の注意を払っても損害を防げなかったこと
85歳に運転を任せ続けていて、この2つを証明する。かなり高いハードルです。
高齢で働くとき、自分を守るために
70歳までの就業確保が会社の努力義務になり、高齢になっても働く人はこれからも増えます。それ自体は悪いことではありません。
でも、安全の面では別の配慮が要ります。とくに運転のような、一瞬の判断が命に関わる仕事ならなおさらです。
運転業務に年齢の上限はあるのか
法律上、運転業務に年齢の上限はありません。85歳でも違法ではない。これは事実です。
ただし、会社が安全のために「何歳まで」と社内基準を設けることは認められています。年齢で線を引くこと自体が悪、というわけではないのです。
働く側ができる自衛
会社に守ってもらうのが筋です。でも、現実には会社が動かないこともある。だから、自分でも自分を守る視点を持っておきたいのです。
体調や認知機能に少しでも不安があるなら、我慢せず会社に伝えてください。言いにくいのは分かります。それでも、事故が起きてからでは遅すぎます。
運転を続ける前に、こんな点を一度確かめてみてください。
- 視力・聴力が落ちていないか
- とっさの反応が遅くなっていないか
- 飲んでいる薬で眠気が出ていないか
- 運転に支障が出る持病はないか
よくある疑問 Q&A
- Q: 85歳で運転業務につくのは違法ですか?
- A: 法的な年齢制限はありません。ただし、会社は安全配慮義務を果たす必要があります。定期的な適性検査や健康チェックが必要です。
- Q: 業務中の事故で刑事責任を問われても労災は出ますか?
- A: 刑事責任と労災は別の問題です。故意や重大な過失がない限り、労災認定は可能です。ただし、個別の事情により判断が分かれることがあります。
- Q: 会社から「年齢を理由に退職してほしい」と言われました
- A: 年齢のみを理由とした退職強要は違法です。ただし、業務遂行能力に問題がある場合は別です。まず会社と話し合い、必要に応じて専門家に相談してください。
すぐやること 3つ
- 運転業務に従事している方は健康状態をチェック – 定期的な健康診断を受け、運転に支障がないか確認する
- 会社の安全管理体制を確認 – 適性検査や安全教育が実施されているかチェックする
- 不安があれば早めに相談 – 体調や運転能力に不安がある場合は会社や専門家に相談する
まとめ
- 業務中の交通事故は、原則として労災になる
- 会社には、高齢の労働者に対する重い安全配慮義務がある
- 働く側も自分の状態を客観視し、不安があれば早めに相談する
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