残業100時間。週4回の飲み会。これが海外駐在員の「普通」だとしたら、どう思うだろうか。深刻な過労の実態が報じられた。
出典:Yahoo!ニュースによれば、日立造船の27歳社員がタイで過労自死した事件を受け、遺族と企業が共同で海外派遣者の健康管理マニュアルを策定したという。
結論から言う。海外駐在中でも、日本の労働基準法は適用される。
現役の社会保険労務士として、この問題を労働法の視点で解説する。あなたの健康を守る権利は、国境を越えても消えない。
- 海外駐在員の労働時間管理の実態と、どこに法的な問題があるのか
- 36協定や労働基準法は海外でどこまで及ぶのか
- 企業の安全配慮義務と、過労死を防ぐために自分でできること
海外駐在でも日本の労働法は適用される
よくある誤解がある。「海外で働いているのだから、日本の労働基準法は関係ない」というものだ。違う。
日本企業と雇用契約を結び、その指揮命令のもとで働いている限り、日本の労働基準法は適用される。働く場所がバンコクでもニューヨークでも、雇用関係の中身が変わるわけではないからだ。出張の延長線上にある海外勤務であればなおさらだ。
「現地採用なら別では」と思うかもしれない。確かに、現地法人に直接雇われた純粋な現地採用の場合は事情が変わる。だが、日本本社から派遣された駐在員であれば、日本法が原則として付いてくる。
36協定の上限も海外で適用される
36協定で定められた時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間。これは海外駐在員にも及ぶ。
報道にあった「残業100時間」は、特別条項を結んでいたとしても看過できない水準だ。労働基準法では、特別条項があっても単月100時間未満、複数月平均80時間以内という絶対的な上限が定められている。月100時間という数字は、まさにその境界線上にある危険な働き方だ。
週4回の飲み会も見過ごせない。業務性があれば、それは労働時間になる。例えば、現地スタッフとの懇親や取引先の接待で、上司から参加を事実上求められているようなケースだ。「自由参加」という建前でも、断れない空気があるなら実態は業務だ。
企業の安全配慮義務は、海外でも変わらない
会社には、海外駐在員の命と健康を守る義務がある。
根拠は労働契約法第5条。使用者は、労働者がその生命・身体の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をしなければならない。この義務に「ただし海外勤務を除く」という例外はない。
日立造船の事例が示すもの
27歳の社員がタイで命を絶った。働き盛りどころか、これからという年齢だ。この事件のあと、遺族と企業が手を組んで健康管理マニュアルをつくった。
これは異例のことだ。過労死をめぐる多くのケースでは、会社と遺族は法廷で激しく対立する。責任の所在を争い、何年もかかる。その構図の中で、共同でルールづくりに動いたという事実は、再発防止に本気で向き合った証だと言っていい。
企業が取るべき対策
海外駐在員の健康を守るために、企業が整えるべき体制はこうだ。
- 定期的な健康診断の実施
- 労働時間の適切な把握と管理
- 現地での相談窓口の設置
- メンタルヘルス対策
- 緊急時に頼れる医療体制の確保
駐在員が自分でできる対策
会社任せにしない。自分の身は、自分でも守る。
海外は日本より孤立しやすい。相談できる同僚も家族も近くにいない。言葉の壁もある。ストレスが静かに積み上がり、気づいたときには限界、ということが起きやすい環境だ。だからこそ、次の点を意識してほしい。
労働時間の記録を必ずつける
記録がすべてを左右する。いざというとき、あなたを守るのは記憶ではなく記録だ。タイムカードがない職場でも、次の方法で痕跡を残せる。
- 手帳やスマホアプリでの出退勤時刻の記録
- メールの送信時刻
- 現地スタッフとのやり取りの履歴
- 接待や飲み会の記録(業務性を証明するため)
よくある疑問 Q&A
- Q: 現地の労働法と日本の労働法、どちらが適用される?
- A: 日本企業との雇用契約であれば、原則として日本の労働法が適用されます。ただし、現地法で日本法より労働者に有利な規定があれば、その部分は現地法が適用される場合もあります。
- Q: 海外で過労死した場合、労災認定は受けられる?
- A: はい、受けられます。海外での業務上災害も労災保険の対象です。ただし、因果関係の立証が困難な場合があるため、日頃からの健康管理記録が重要になります。
- Q: 現地の慣習で長時間労働が当たり前と言われました
- A: 現地の慣習は日本の労働法に優先しません。むしろ、日本企業として現地でも適切な労働環境を作ることが求められています。
すぐやること 3つ
- 労働時間の記録開始 – 今日から出退勤時刻とメール送信時刻を残す
- 会社の健康管理体制確認 – 人事に海外駐在員向けの健康管理制度があるか問い合わせる
- 相談窓口の確認 – 労働問題や健康問題を相談できる窓口を、社内外問わず確認しておく
まとめ
- 海外駐在員にも日本の労働基準法が適用され、36協定の上限も過労死ラインも同じ基準で及ぶ
- 企業には海外駐在員の健康と安全を守る安全配慮義務があり、海外勤務でも例外はない
- 労働時間の記録と健康管理は、駐在員自身でも必ず行う
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