メンタル不調で欠勤が続いても解雇は有効?休職制度と権利を社労士が解説

メンタル不調






メンタル不調で欠勤が続いても解雇は有効?休職制度と労働者の権利

心の不調が続いて、仕事を休みがちになっている。そんな状況で「このまま解雇されるのでは」と不安になっていませんか?

結論からお伝えします。メンタル不調による欠勤を理由に、会社がいきなり解雇や懲戒処分を行うことは、無効になる可能性が高いです。

現役の社会保険労務士として、このテーマは多くの相談を受けます。この記事では、あなたの権利と会社が守らなければならないルールを、わかりやすく解説します。

この記事では、メンタル不調での欠勤・解雇が無効になる法的根拠、会社が踏むべき手順とそれがあなたの権利になる理由、そして受診命令が来たときの対処法を順に説明します。

いきなり解雇は「無効」になる可能性が高い

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メンタル不調で欠勤が増えると、会社から「このまま続くなら解雇だ」と言われることがあります。

しかし、最高裁判所はこのような解雇を「無効」と判断しています。日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日・労判1055号5頁)という重要な判例があります。この裁判では、精神的な不調を抱えた社員に対して、適切なサポートを行わないまま懲戒処分を下した会社の行為が問われました。最高裁は、メンタル不調の状態にある社員には、医師への受診を促し、診断結果に応じて休職などを検討するという手順が必要だと判断しました。その手順を踏まずに行われた処分は、無効です。

📌 ポイント:最高裁の判断は「メンタル不調の社員を、適切なサポートなしに処分することは認めない」というものです。これは経営者ではなく、あなたを守るためのルールです。

会社がすぐに処分できない理由

会社には、あなたをすぐに処分する前にやるべきことがあります。それをやっていない会社の解雇は、争えば無効になる可能性があります。

【実践メモ】

会社から「欠勤が多い。このままでは解雇だ」と言われたら、日付・場所・言った人の名前・内容を記録しておきましょう。後で法的な確認を行う際の記録になります。

会社が踏むべき手順=あなたが持てる権利

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最高裁判決が示したルールは、労働者にとって「会社に要求できる権利」でもあります。会社が守るべき手順を知ることで、あなたは自分の立場を守れます。

医師への受診を促すこと

会社はまず、あなたに医師の診察を受けるよう求める必要があります。いきなり「明日から来なくていい」は許されません。「まず病院に行ってください」がルールの出発点です。

⚠️ 注意:受診命令自体は会社が持つ正当な権限です。受診を求められた段階で「もうすぐ解雇が決まった」わけではありません。受診後の対応にこそ、会社の義務があります。

診断結果に応じた対応をとること

受診後は、診断結果を見て次の対応を考える義務が会社にあります。治療が必要なら、治療を勧めることが求められます。休職制度がある会社では、その適用を検討することが必要です。検討すらしないで解雇した場合、その解雇は無効になる可能性が高まります。

経過を見守る期間をとること

休職に入った後も、すぐに解雇できるわけではありません。休職期間を経て、回復状況を確認する期間が設けられています。これらの手順を踏まずに行われた解雇は、法的に無効になる可能性が高いです。

✅ やること:会社に休職制度があるか今すぐ確認しましょう。就業規則や社内規程に載っています。「私に休職制度は適用されますか?」と人事担当者に尋ねることは、あなたの正当な権利の確認です。

受診命令が来たときの対処法

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会社から「病院に行って診断書を持ってきなさい」と言われたら、どう対応すればよいでしょうか。

基本的には応じるのが得策

受診命令には、一定の条件を満たす場合、従う義務があるとされています。電電公社帯広局事件(最一小判昭和61年3月13日・労判470号6頁)では、治療・回復という目的に照らして合理的な範囲の受診指示には従う義務があると判断されています。ただし、「受診義務がある=あなたが不利になる」ではありません。むしろ、診断を受けることであなたの状況が正式な記録として残ります。

かかりつけ医も活用できる

会社が「指定の医師に診てもらえ」と言ってくる場合があります。しかし、あなた自身のかかりつけ医や信頼できる医師の意見も重要です。複数の医師の見解を持つことで、あなたの実情をより正確に記録できます。

【実践メモ】

受診の際は、症状が出始めた時期・職場での出来事・業務上の負担についてメモして持参しましょう。診断書に業務との関連性が記載されると、後の確認で根拠になります。

休職制度を活用する

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(調査シリーズNo.240・2024年3月)によると、約7割の企業が傷病休職制度を設けているとされています。休職制度は、病気で働けない期間に「解雇を猶予してもらえる制度」です。休職は会社からの恩恵ではなく、あなたが活用できる正当な制度です。

休職中にやるべきこと

まずは回復に専念することが最優先です。同時に、休職期間がいつまでなのかを就業規則で確認しておきましょう。期間満了前に医師と相談しながら、復職の見通しを立てることができます。

休職中の収入を守る「傷病手当金」

休職中は給与が出ないことが一般的です。ただし、健康保険から「傷病手当金」が支給される場合があります。標準報酬日額の3分の2が、最長1年6カ月間受け取れる制度です。加入している健康保険組合や協会けんぽに問い合わせてみてください。

📌 ポイント:傷病手当金は、休業して4日目以降が支給対象です。申請書類は会社の人事部門または健康保険組合から入手できます。早めに確認しておくことが収入を守るために役立ちます。

よくある疑問

メンタル不調で休みがちでも、有給休暇は使えますか?
使えます。有給休暇は理由を問わず取得できる権利です。有給を使い切った後に欠勤・休職という流れになるのが一般的です。有給休暇を活用することで、休職前の準備期間を作ることができます。
「診断書がないと欠勤を認めない」と言われました。どうすれば?
診断書の提出を求めること自体は、多くの場合で会社に認められた権限です。できるだけ早く、かかりつけ医かメンタルクリニックを受診して診断書を取りましょう。初診でも診断書を発行してもらえる医療機関はあります。
休職期間が終わったら、必ず解雇されますか?
休職期間満了=即解雇ではありません。回復の程度や復職の可能性を総合的に考慮する必要があります。退職勧奨には応じる義務もなく、交渉の余地があります。不安な場合は社労士や弁護士に相談することをおすすめします。
会社から懲戒処分の手続きを始めると言われました。
メンタル不調が原因の欠勤の場合、適切な手順(受診を促す・休職検討)を踏まずに行われた懲戒処分は、無効になる可能性があります。最高裁の判例があります。早めに専門家に相談することをおすすめします。

チェックリスト

確認項目 チェック
会社の就業規則に休職制度があるか確認した
休職期間・条件の条文を読んだ
会社から言われたことを日時・内容ともに記録している
医師(かかりつけ医・メンタルクリニック)に相談した
傷病手当金の申請方法を確認した
有給休暇の残日数を確認した
社労士・弁護士への相談を検討した

今日からできること

まず、記録をつけ始めましょう。会社から言われたこと・欠勤の状況・体調の変化を日付と一緒にメモしておきましょう。

次に、就業規則を確認してください。休職制度・休職期間・解雇事由の条文を読みましょう。会社は従業員に就業規則を開示する義務があります。

そして、医療機関に相談することが大切です。できるだけ早く、かかりつけ医かメンタルクリニックに現状を相談してみてください。

まとめ

メンタル不調による欠勤を理由に会社がいきなり解雇・懲戒処分をすることは、法的に許されない場合があります。日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日・労判1055号5頁)において、最高裁は適切な手順なしの処分は無効と明確に判断しています。会社は「受診を促す→診断結果を確認する→休職を検討する」という手順を踏まなければならず、休職中は傷病手当金による収入補填も利用できます。

正しい知識を持つことで、メンタル不調を抱えながらも適切な対応を取ることができます。会社から不当な対応を受けたと感じたら、記録を残して社労士・弁護士に相談してください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Brett Jordan on Unsplash


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