面接担当者から、性的な冗談を言われた。
OB訪問の帰り際、プライベートな誘いを受けた。
でも内定がほしくて、誰にも言えなかった——。
それはセクハラです。あなたが我慢する話ではありません。
現役の社会保険労務士として、就職活動中のハラスメントに悩む相談者と向き合ってきました。厚生労働省の調査では、就職活動中にセクハラを経験したと答えた求職者は約30%にのぼります。あなただけの問題ではない。
この記事で書くのは3つです。就活セクハラとは何で、どんな場面で起きるのか。2026年10月から始まる新制度がなぜあなたを守るのか。そして被害を受けたときに証拠をどう残し、どこに相談すればいいのか。順に説明します。
就活セクハラとは何か
「冗談」「普通の会話」では言い訳にならない
就活セクハラとは、求職活動の場で受ける性的な言動のうち、活動を妨げるものを指します。
相手が「冗談のつもり」だったかどうかは関係ありません。あなたが不快に感じ、就職活動に支障が出たなら、それはセクハラです。
具体的にはこんな言動が該当します。
- 性的な冗談・からかい・品定めするような発言
- 外見・体型・性別に関する不適切なコメント
- プライベートな交際や食事への執拗な誘い
- 身体への不必要な接触
- 採用と引き換えに性的な関係を求めるような言動
厚生労働省の調査では、最も多いのが「性的な冗談やからかい」で、全体の約45%を占めます。一番ありふれた形が、一番ごまかされやすい。
どんな場所で起きるか
起きる場所は会社の中だけではありません。採用面接や会社説明会はもちろん、OB・OG訪問(飲食店などの社外も含む)、インターンシップ・実習期間中、SNSや個人LINEでのやり取り、オンライン説明会・オンライン面接まで、幅広い場面が対象です(男女雇用機会均等法13条・就活等セクハラ指針〔令和8年2月26日厚生労働省告示第52号〕)。
とくに危ないのはOB・OG訪問です。
「先輩として話を聞くだけ」という非公式な空気のせいで、加害者の側が「仕事とは関係ない」と勝手に思い込みやすい。だから歯止めがかからない。
夜間・個室・二人きり——この条件を出された時点で、断っていい。それがあなたの権利です。
【実践メモ】
採用担当者から個人SNSへの接続を求められたら、「公式の連絡はメールか採用システムにしたい」と伝えて断れます。それを理由に選考で不利益を受けることは許されません。2026年10月以降は、個人SNSでの接触を強いること自体がルール違反になりえます。
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2026年10月から、あなたの立場が大きく強くなる
企業に「義務」が課される新制度
2025年6月、男女雇用機会均等法が改正されました(13条・14条新設)。
この改正で、就活セクハラへの対応が「努力義務」から「義務」へ格上げされます。施行日は2026年10月1日です。
企業はこれまで「できれば対策してね」という立場でした。これからは違う。やらなければ違法です。
新制度で企業に求められるのは、就活セクハラをしないという方針を社内にはっきり周知すること、求職者が使える相談窓口を置くこと、被害が起きたら迅速に対応して再発を防ぐこと、そして採用活動のルールを求職者にも公開することです。
これはあなたにとって、かなり大きい。
「窓口に相談したら内定に響くかも」という恐怖が、確実に小さくなるからです。
法律上、通報や相談を理由にした不利益な扱いは禁じられます。
「断れなかった」は、あなたの落ち度ではない
内定がほしいという切実な気持ちがある。だからその場でハッキリ断れなかった——。
それはあなたのせいではありません。
2023年7月施行の改正刑法は、この点をはっきりさせました。採用という立場上の力関係によって拒否の意思を示すのが難しかった場合も、犯罪が成立すると規定されています(刑法176条1項8号・177条1項)。
【実践メモ】
「その場で断れなかった自分が悪い」と責める必要はありません。就職活動という特殊なプレッシャーの中で固まってしまうのは、心理的にごく自然な反応です。被害は後から申告して、まったく問題ありません。
被害を受けたとき——今すぐできる行動
まず証拠を残す
被害を受けたら、できる限り早く記録を残してください。
人の記憶は薄れます。でも記録は残る。
記録すべき内容は次のとおりです。
- 日時・場所
- 相手の名前・所属・役職
- 言われた言葉・されたことの具体的な内容
- その場に他にいた人
- あなたがどう感じたか
SNSやメールのやり取りはスクリーンショットで保存してください。クラウドにバックアップしておけば、端末が壊れても消えません。
録音について
面接やOB訪問の場を録音することは、証拠として有効です。
採用担当者への実態調査では、録音を許可する、または申し出があれば許可すると答えた割合が72.5%に達しています。つまり大半の企業が録音を想定済みということです。
「録音してもいいですか」と事前に伝えるのは、非常識でもなんでもありません。
【実践メモ】
可能であれば事前に許可を求めてから録音してください。断られた場合は、終了直後に詳細なメモを残しましょう。場所・時刻・会話の流れが詳しいほど、後で証拠として使いやすくなります。
相談窓口に連絡する
被害を受けた企業の相談窓口に連絡することができます。
「人事部に相談したら採用に響きそう」——その気持ちはよくわかります。
でも、新制度の指針は人事担当者以外が相談を受ける体制を企業に求めています。そして相談したことを理由とした選考上の不利益な扱いは、法律で禁止されています。
企業の窓口以外にも、相談先はあります。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)——男女雇用機会均等法に関する無料相談窓口
- 法テラス(0570-078374)——法的問題全般の相談窓口。弁護士費用の立替制度もあり
- 労働条件相談ほっとライン(0120-811-610)——電話で匿名相談が可能
よくある疑問
- 被害を訴えたら、内定を取り消されませんか?
- 相談や通報を理由とした不利益な扱いは法律で禁止されています。仮に内定が取り消された場合、それ自体が違法行為となり別途争う根拠になります。怖い気持ちはわかりますが、まず労働局などに匿名で相談することから始めてください。
- OB訪問中の出来事も対象になりますか?
- なります。OB・OG訪問は会社の採用活動の一環です。飲食店など会社の外で起きた場合も、就活セクハラとして扱われます。相手が「プライベートな付き合い」と言っても、就活の文脈で行われたものであれば対象です。
- 一度起きただけでもセクハラになりますか?
- 一度でもなります。繰り返しや継続性は必要条件ではありません。一度の性的な言動でも、あなたの就職活動に支障をきたすものなら就活セクハラに該当します。
- 相手が「冗談だった」と言っています。どうすればいいですか?
- セクハラの判断は、加害者の意図ではなくあなたが受けた不快感や不利益で判断されます。「冗談のつもり」という主張は法律上の反論にはなりません。あなたが感じた不快感と就職活動への影響を、具体的に記録しておいてください。
就活セクハラ 確認チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 被害の日時・場所・内容を記録したか | □ |
| 相手の名前・役職・部署をメモしたか | □ |
| SNSやメールのやり取りをスクリーンショットで保存したか | □ |
| 信頼できる人(家族・友人・大学キャリアセンター等)に話したか | □ |
| 都道府県労働局などの外部相談窓口を調べたか | □ |
| 「断れなかった自分が悪い」と自分を責めていないか | □ |
今日からできること
まず、被害の内容をスマホのメモアプリに記録してください。日時・場所・相手の名前・何をされたか・あなたの気持ちを、できるだけ細かく書いておきましょう。後から「あのとき何を言われたか」を思い出すより、いま書くほうが正確です。
次に、関連するやり取りをスクリーンショットで保存してください。LINEやSNSのメッセージ、メールは削除せず、クラウドにバックアップしておくと安心です。
そのうえで、都道府県労働局 雇用環境・均等室への相談を検討してください。電話でも窓口でも対応していて、匿名での相談もできます。一人で抱え込まず、まず話すことから始めてみてください。
まとめ
就活セクハラは面接・OB訪問・インターン・SNSなど、あらゆる場面で起きます。「冗談だった」「断らなかったから問題ない」は法律上通用しません。2026年10月からは男女雇用機会均等法13条・14条の施行により、企業は求職者向けの相談窓口設置が義務付けられます。採用という力関係から拒否できなかった場合も、改正刑法(刑法176条1項8号・177条1項)上の犯罪が成立しえます。
被害を受けたら、まず日時・場所・相手の言動を記録し、外部の相談窓口に連絡してください。相談したことを理由とした不利益な扱いは、法律で禁じられています。正しい知識は、あなたの権利と就職活動を守る盾になります。
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