退職金廃止は実質賃下げ?社労士が見抜く企業の本音

社会保険・給付金

「退職金を廃止するかわりに、毎月の給与に上乗せします。生涯年収は変わりません」

こう言われて、すんなり「はい、わかりました」と答えられますか。

正直に言う。この説明には、労働者に不利な「落とし穴」が隠れている。社労士として、その中身を包み隠さず解説します。

(参考ニュース:出典:Yahoo!ニュース

「生涯年収は同じ」——その計算に税金が入っていない

退職金には、給与にはない大きな税優遇がある。

退職所得控除という制度だ。長く働くほど、税金がかかりにくくなる仕組みである。

具体的に見てみよう。勤続30年で退職金1,500万円を受け取った場合、退職所得控除額は1,500万円(20年×40万円+10年×70万円)となり、課税対象はゼロになる。税金が一切かからない

📌 ポイント:退職所得控除は勤続年数が長いほど大きくなります。20年以下は1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円の控除が受けられます(所得税法第30条)。

一方、同じ金額を毎月の給与に上乗せすると、それは「給与所得」として扱われる。

給与には社会保険料がかかる。所得税も増える。額面が同じでも、手元に残る金額は退職金より少なくなるのだ。

「生涯年収は同じ」——その言葉が指すのは、税引き前の数字だ。手取りで比べると、退職金廃止は実質的な賃下げになりうる。これは誇張でも脅しでもない。単純な計算の話である。

⚠️ 注意:「額面は同じ」と「手取りが同じ」は別物です。会社からの説明が額面ベースだけなら、税・社会保険料込みの比較を求めましょう。

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企業が退職金を廃止したい理由——建前と本音

企業がこの制度変更を進める背景は、主に2つある。

一つ目は財務リスクの削減だ。退職給付引当金は、貸借対照表に「負債」として計上される。特に上場企業にとって、これは株価評価を下げる要因になる。つまり、株主のために退職金を削りたい、という動機だ。

二つ目は人材流動化への対応。退職金はもともと長期勤続を前提とした設計で、転職が当たり前になった時代には「時代遅れ」と言われることもある。固定費の構造を変えたい、という事情がある。

企業側の事情を理解した上で言う。制度変更それ自体が悪だとは思わない。でも、労働者への説明が不十分なまま押し通されるケースが問題なのだ。

✅ やること:会社から退職金廃止の説明があったら、「税引き後・社会保険料控除後の手取りで比較した試算を見せてほしい」と依頼してみましょう。正当な要求です。

退職金廃止は「不利益変更」にあたるか

法律の話をする。

退職金は、就業規則や雇用契約に定めがあれば「労働条件」だ。その変更には、明確なルールがある。

労働契約法第9条・第10条によると、労働条件を労働者に不利な方向へ変更するには、原則として個別の同意が必要だ。就業規則で変更する場合でも、「合理的な変更」でなければ効力が認められない。

「給与に上乗せするから同じだ」という説明が、手取りベースで実質的に不利なら、その変更の合理性は疑わしい。すぐに結論は出ないが、一つだけはっきり言える。「黙っていれば同意したことになる」というのは、間違いだ。

よくある疑問 Q&A

Q:会社から「退職金を廃止して基本給に上乗せする」と言われました。拒否できますか?
A:退職金が就業規則や雇用契約に明記されている場合、一方的な廃止は原則として認められません。変更に応じる前に、手取りベースでの比較試算を求め、内容を書面で確認しましょう。不明点は社労士や労働局に相談することをお勧めします。
Q:退職金の代わりに「選択制DC(確定拠出年金)」を導入すると言われました。これは有利ですか?
A:選択制DCには税優遇がある一方、運用は自己責任となり元本割れのリスクもあります。「退職金と同じ安心感」はありません。仕組みをよく理解してから判断してください。
Q:すでに退職金廃止に同意のサインをしてしまいました。取り消せますか?
A:状況によります。内容を十分に説明されないまま署名した場合、同意の有効性が争える余地があります。まず労働局の総合労働相談コーナーに相談してみましょう。無料で利用できます。

すぐやること

  1. 手取りベースの比較試算を会社に求める——税と社会保険料を含めた数字で見なければ、判断のしようがない。
  2. 就業規則と雇用契約書で退職金の記載を確認する——「退職金規程」が別冊になっているケースも多い。まず手元の書類を見ること。
  3. 不安があれば労働局や社労士に相談する——総合労働相談コーナーは無料だ。一人で抱え込む必要はない。

次のステップ

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まとめ

  • 退職金廃止は「税優遇の喪失」により、額面が同じでも手取りが減る可能性がある
  • 企業側には財務改善・人材流動化への対応という事情もあるが、労働者への十分な説明が伴わないことが問題だ
  • 就業規則に定めがある退職金の廃止・変更は「不利益変更」にあたりうる。黙って署名する前に、内容を徹底的に確認すること

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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