「定年後に再雇用された。でも更新のとき、給与が大幅に下がった。」
「勤務日数まで削られた。条件に納得できないと断ったら、契約を打ち切られた。」
同じ状況で、どう動けばいいのか調べている。そんな方に向けて書いています。
結論から言います。受け入れられないほど不合理な条件を突きつけたうえでの雇止めは、裁判で無効とされた例があります。
この記事では、2024年に横浜地裁が出した判決をもとに、状況の整理と、いま取るべき行動を順に解説します。社労士として、会社側に忖度しない立場で書きます。
定年後再雇用にも「雇止め」のルールが及ぶ理由。どんな条件変更が「不合理」とされるのか。そして雇止めに異議を唱えるための具体的な手順。この3点を一つずつ見ていきます。
定年後再雇用の「条件変更」、これが今の現実
まず誤解を解いておきます。定年後の再雇用は、会社が「特別に雇ってあげている」ものではありません。高年齢者雇用安定法が、会社に義務として課しているものです。65歳まで働き続けたいと希望する社員は、原則として継続雇用しなければなりません。会社の善意ではない。法律上の義務です。
では、定年前とまったく同じ条件でなければダメなのか。そこまでは言いません。ある程度の見直しは認められます。でも限度があります。とくに、すでに再雇用されて更新を重ねてきた人に、条件を極端に悪くして事実上「辞めさせる」やり方。これは話が別です。問題になり得ます。
定年後再雇用にも「雇止め」のルールが適用される
再雇用後の契約は「有期雇用(期間を決めた雇用)」です。この有期雇用の打ち切りを「雇止め」と呼びます。そして雇止めには、労働契約法第19条というルールがあります。
会社はよくこう言います。「定年後再雇用は特別だから、このルールは関係ない」。でも裁判所は、この言い分を認めていません。定年後であろうと有期雇用は有期雇用。同じルールが適用されます。
しかも定年後再雇用は、65歳まで継続雇用が義務付けられた制度です。だから「65歳まで雇用が続く」という期待は、合理的だと認められやすい。契約が何度も更新されていれば、なおさらです。
裁判が示した「不合理な条件変更」の判断基準(西田通商事件)
2024年、横浜地裁で注目すべき判決が出ました。西田通商事件(横浜地判令和6年6月27日)です。この記事の軸になる判決なので、少し丁寧に見ていきます。
何が争われた事件だったか
定年後、有期雇用契約で再雇用された労働者がいました。更新を何度も重ねた後のことです。会社は、大幅に不利な労働条件を提示しました。給与を大きく削り、勤務日数を著しく減らし、勤務地・勤務時間帯・年次有給休暇の日数まで変えてきた。労働者は元の条件での更新を求めます。会社は応じず、雇止めを通知しました。
裁判所が示した判断のポイント
結論は明快でした。裁判所は労働者側の主張を全面的に認め、雇止めは無効と判断しました。その理由を、労働者の目線で整理します。
一つ目。高年齢者雇用安定法は65歳までの継続雇用を義務付けています。その趣旨からすれば、その年齢まで雇用が続くという期待は合理的だと認められる。更新を重ねていれば、期待はもっと強まります。
二つ目。裁判所は、大幅に削られた新条件だけでは家計を維持できないと認定しました。その年齢で新しい就職先を探すのも簡単ではない、とも指摘しています。要するに「受け入れるか、路頭に迷うか」。会社はその二択しか用意していなかった。
三つ目。会社は雇止めの後、別の社員を採用し、幹部の報酬まで増やしていました。「雇用を続けることが不可能だった」とは、とても言えない。裁判所はこの矛盾を見逃しませんでした。ここも雇止め無効の決め手になっています。
【実践メモ】
条件変更を断った場合は、その意思を書面やメールで会社に伝えてください。「提示された条件には同意できません。従来の条件での更新を希望します」という内容です。口頭のやり取りだけでは、「断った」という事実の証明が後から難しくなります。
「条件変更に同意しなければ更新しない」は通用しない
会社はこうも主張します。「条件変更に双方が合意しないと、契約は更新されない」。でも、これも裁判所は認めませんでした。「更新時に労働条件を変更できる場合がある」という規定。これは「条件が折り合わなければ雇止めできる」という意味ではありません。別物です。
「どの程度の条件悪化」なら問題になるのか
不合理と判断されやすい条件変更の例
不合理と評価されやすいのは、こういうケースです。給与が生活を維持できないレベルまで大幅に下がる。勤務日数が著しく削られ、副業で穴埋めするのも年齢や状況的に難しい。勤務地が大きく変わり通勤が著しく困難になる。これまでの経験や役職とかけ離れた業務へ配置換えされる。どれか一つでも当てはまるなら、注意が必要です。
「最初の再雇用時」と「更新時」では基準が異なる
ここは大事なポイントです。定年後に最初に再雇用するかどうか、という場面なら、ある程度の賃金引き下げは認められることもあります。でも、すでに再雇用されて更新を重ねてきた場面では話が違う。基準はぐっと厳しくなります。「ずっと働いてきた」という積み重ねそのものが、合理的な期待として評価されるからです。
【実践メモ】
「最初の再雇用時に給与が下がっても仕方なかった」と感じた方も、更新時にさらに大幅な条件悪化を押し付けられた場合は、別の問題として考えてください。今の状況が「我慢すべきもの」かどうか、一度専門家に確認することをお勧めします。
雇止めに異議を唱えるための行動
書類と証拠を集める
まずは手元の確認です。定年前・再雇用時・変更提示時、それぞれの労働条件通知書と雇用契約書。変更後の条件を書いた書面。雇止めの通知(書面・メール、口頭だったなら日時と内容のメモ)。これまでの給与明細。これらが揃っているか、今すぐ確かめてください。証拠は早いほど集めやすい。
書面で異議を伝える
雇止めが不当だと感じたら、書面で異議を示しましょう。「提示された雇止めには合理的な理由がないと考えます。従来の条件での雇用継続を求めます」。この趣旨です。メールでも手紙でも構いません。ただし、送った記録が残る方法を選んでください。ここが交渉や法的手続きの出発点になります。
外部の窓口・専門家に相談する
最初の一歩は、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料)です。未払い賃金など法律違反がある場合は労働基準監督署へ。個別の事情を踏まえたアドバイスが要るなら社会保険労務士・弁護士に相談できます。会社が交渉に応じないなら、労働審判という手も。裁判より短期間・低コストで決着しやすい手続きです。
【実践メモ】
未払い賃金がある場合、請求できる期間(時効)は原則5年です(当面は3年が適用されます)。一度だけ専門家に話を聞いてもらうことで、次に何をすればいいかが見えてきます。
よくある疑問
- 「定年後再雇用だから文句は言えない」と言われました。本当ですか?
- 違います。定年後再雇用であっても、有期雇用の雇止めには労働契約法のルールが適用されます。65歳までの継続雇用が法律で義務付けられている以上、「定年後だから何でもあり」にはなりません。裁判所もこの主張を認めていません。
- 条件変更を断ったら「自己都合退職」にされそうで心配です。
- 条件変更を断ったことは「自分から辞めた」ことにはなりません。会社が不合理な条件を一方的に提示し、それを理由に雇止めにした場合は会社都合の扱いになります。離職票が届いたらハローワークで離職理由を確認し、納得できなければ異議申し立てができます。
- 既に雇止めされた後でも争えますか?
- 争えます。ただし時間が経つほど難しくなります。雇止めの通知を受けたら、できるだけ早く動いてください。労働審判は比較的短期間で結論が出ることも多く、費用も通常の訴訟より抑えられます。
- 会社が「経営が苦しいから条件を変えざるを得なかった」と言います。それでも争えますか?
- 経営悪化は条件変更の理由になり得ますが、それだけでは不十分です。雇止め後に別の社員を採用したり、幹部の報酬を増やしていた事実があれば「雇用維持が不可能だった」という主張は大きく弱まります。会社の行動を確認し、記録しておくことが重要です。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 定年前・再雇用時・変更提示時の全ての労働条件通知書・雇用契約書を持っている | □ |
| 何回契約が更新されたかを確認している | □ |
| 条件変更の提示を断った意思を、書面・メールで会社に伝えた | □ |
| 雇止めの通知(日時・内容・伝えられた方法)を記録・保管している | □ |
| 雇止め後の会社の動き(新規採用・役員報酬の変動など)に注意している | □ |
| 離職票の離職理由を確認し、不当な場合は異議申し立てを検討している | □ |
| 未払い賃金がないか確認している | □ |
| 労働相談窓口・専門家への相談を検討している | □ |
今日からできること
まず、手元の書類を全部集める。雇用契約書・労働条件通知書・給与明細・会社からの通知。証拠を押さえるのが最優先です。捨てずに、一か所にまとめてください。
次に、会社への異議を書面で伝える。「雇止めには合理的な理由がないと考えます。従来の条件での雇用継続を求めます」。この趣旨を、メールや手紙で残しておきましょう。
そして、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料)へ。状況を話すだけで、次の見通しが立ちます。一人で抱え込まないことです。
まとめ
定年後再雇用でも、有期雇用の雇止めルール(労働契約法第19条)は適用されます。高年齢者雇用安定法第9条で65歳まで継続雇用が義務付けられているため、更新への合理的な期待が認められやすい。だから、生活維持が困難になるほどの大幅な条件悪化を押し付けての雇止めは、裁判で「不合理」と判断される可能性があります(西田通商事件・横浜地判令和6年6月27日)。
「条件に同意しなければ更新しない」という会社の主張も、裁判所に認められないケースがあります。条件変更を断ったことは「自己都合退職」にはなりません。正しい知識を持ち、証拠を集め、書面で意思を示したうえで専門家に相談する。この順番で動けば、適切に対処することができます。
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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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