精神疾患の労災認定|心理的負荷の評価基準と申請が却下されたときの対処を社労士が解説

うつ病・精神疾患

仕事のストレスが重なり、ある日、医療機関を受診することになった。

「これは仕事が原因なのかもしれない。どうすれば補償を受けられるのだろう」と感じている方はいませんか。

仕事のストレスが原因で発症した精神疾患は、労災として認定される可能性があります。

この記事では、認定のカギとなる要件・証拠の集め方・申請が却下されたときの対処法を、労働者の立場からパート有期法・認定基準に基づいて解説します。

精神疾患が労災と認められる条件、「心理的負荷」の評価のしくみ、そして申請が却下されたときの不服申立の流れを順に説明します。

精神疾患が「労災」と認められる要件

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厚生労働省は、精神疾患の労災認定について「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日付け基発1226第1号)を定めています。

この基準では、次の要件をすべて満たした場合に、業務上の疾病として認められます。

対象となる精神疾患であること

ICD-10(国際疾病分類第10版)に基づく「精神・行動の障害」に分類される疾患が対象です。

うつ病・適応障害・統合失調症・PTSDなど、医師が正式に診断した精神疾患であれば対象になります。

📌 ポイント:「なんとなく調子が悪い」だけでは認定されません。まず病院を受診して、診断書をもらうことが第一歩です。

業務による強い心理的負荷があること

発症前のおおむね6か月間に、業務上の強いストレスがあったかどうかが審査されます。

心理的負荷の強さは「強・中・弱」の3段階で評価されます。「強」の評価が1つでもあるか、「中」の評価が複数重なった場合に、業務上と認定される可能性が高まります。

⚠️ 注意:心理的負荷の評価は、あなたの感じ方だけでは決まりません。客観的な証拠(タイムカード・業務記録・メールなど)がなければ評価が低くなることがあります。

業務以外の原因が主でないこと

プライベートの問題(家庭の事情・借金・私的な人間関係など)が主な原因でないことも確認されます。

業務上のストレスが発症の「主たる原因」であることを、証拠を通じて示すことが重要です。

【実践メモ】

3つの要件を確認したら、まず「発症時期」と「発症前6か月の出来事」を時系列でメモしてみましょう。いつ・何があったかを整理するだけで、申請書類の作成がぐっと楽になります。

「心理的負荷」はどう評価される?仕組みを理解しておく

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労災審査では、発症前6か月間に起きた出来事を「出来事の類型」に当てはめて強度を評価します。

この仕組みを理解しておくと、何を証拠として集めるべきかが見えてきます。

「特別な出来事」があれば自動的に「強」になる

認定基準には「特別な出来事」と呼ばれるカテゴリがあります。この類型に該当する出来事は、心理的負荷の強さが自動的に「強」と評価されます。

具体的には、一定期間にわたる著しい長時間労働(月160時間以上の時間外労働や、2か月以上にわたる月120時間以上の時間外労働など)、上司や同僚からの深刻なハラスメント(パワーハラスメント・セクシャルハラスメントを含む)、業務に関連した重大な犯罪被害、会社倒産など生活の基盤が大きく揺らぐ出来事などが該当します。

✅ やること:上記に当てはまる出来事があった場合は、その証拠(メール・録音・業務日報・写真など)を今すぐ保存してください。時間が経つほど証拠は失われます。

「特別な出来事」がなくても複数の評価が重なることがある

「特別な出来事」がなかったとしても、複数の出来事がそれぞれ一定の強度で評価された場合、全体評価が引き上げられることがあります。

例えば、急な業務量の増加や担当業務の大幅な変更、数か月にわたる相当量の時間外労働、上司からの継続的な否定・叱責といった出来事が重なった場合がこれにあたります。複数の出来事がある場合は、すべてを申請書に記載することが重要です。

長時間労働の証拠は評価を大きく左右する

一定時間を超える時間外労働が続いていた場合、心理的負荷の評価が引き上げられます。

タイムカードがない場合でも、給与明細・入退館記録・メールの送受信タイムスタンプ・業務ツールのログなどで立証できることがあります。

【実践メモ】

会社が「タイムカードはもう保存していない」と言ってきても、あきらめないでください。給与明細の残業時間欄・深夜帯のメール送信履歴・業務チャットのログなど、代替できる証拠が存在することがあります。手元にある記録はすべて今すぐコピーして保全しましょう。


申請が却下されたらどうする?不服申立の流れ

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労災申請をしたのに「業務上ではない」と処分された場合、そこで終わりではありません。

不服申立には複数の段階があり、段階ごとに新たな証拠を提出することもできます。

審査請求(都道府県労働局)

労基署の処分に不服がある場合、都道府県労働局の「労働者災害補償保険審査官」に審査請求ができます。

処分を知った日の翌日から3か月以内に申立てる必要があります。

再審査請求(労働保険審査会)

審査官の決定にも納得できない場合、「労働保険審査会」への再審査請求ができます。

審査官の決定を知った日の翌日から2か月以内が期限です。

行政訴訟(裁判所)

再審査請求も棄却された場合、裁判所への行政訴訟という手段が残っています。

審査請求・再審査請求はいずれも行政機関による内部的な判断です。裁判所はこれとは独立した判断を行うため、行政段階での棄却が裁判所でも同じ結果になるとは限りません。再審査請求が棄却された場合でも、裁決書の送達を受けた日の翌日から6か月以内に行政訴訟を提起することができます(行政事件訴訟法第14条)。この段階では弁護士のサポートが不可欠です。

⚠️ 注意:各段階に厳しい期限があります。「もう少し考えてから」と時間をかけると権利を失います。処分通知を受けたら、すぐに専門家に相談してください。

【実践メモ】

審査請求・再審査請求では、初回申請で出せなかった証拠を新たに追加することができます。「最初の申請で証拠が足りなかった」と感じている方も、不服申立を検討してみてください。社労士や弁護士と一緒に、追加で出せる証拠を探すことが有効です。

よくある疑問

うつ病でも労災申請できますか?
できます。うつ病はICD-10の「精神・行動の障害」に含まれ、労災認定の対象疾患です。ただし、業務による強い心理的負荷があることを証拠で示す必要があります。まず病院で診断書をもらい、発症前6か月の出来事を整理してから申請しましょう。
会社がタイムカードを廃棄したと言っています。証拠はもう集められませんか?
諦めないでください。給与明細の残業欄・メールの送受信ログ・入退館記録・業務チャットの履歴・同僚の証言など、タイムカード以外でも立証できる方法があります。社労士や弁護士に相談して、使える証拠を一緒に確認してもらいましょう。
退職後でも労災申請できますか?
できます。在職中に発症した疾病であれば、退職後でも申請は可能です。療養補償給付は2年、障害補償給付は5年の時効があります。退職したからといって権利が消えるわけではありません。
会社が「労災ではない」と言い張っています。会社の同意が必要ですか?
必要ありません。労災の認定は会社ではなく、労基署(国)が行います。会社が反対していても、あなたが申請する権利は完全に保障されています。

チェックリスト

確認項目 チェック
医師の診断書を取得している
発症前6か月の出来事を時系列でメモしている
タイムカード・勤怠記録のコピーを保存している
業務に関するメール・チャット履歴を保存している
上司とのトラブル・発言内容を日時とともに記録している
証言してくれる同僚の候補を確認している
給与明細(残業時間の記載があるもの)を保存している
不服申立の期限(処分通知から3か月)を確認している

今日からできること

まず、病院に行き診断書をもらいましょう。労災認定の出発点は医師の診断です。まだ受診していない方はすぐに病院へ。すでに診断が出ている方は診断書と通院記録のコピーを手元に置いておきましょう。

次に、証拠を今すぐ保全しましょう。タイムカード・メール・給与明細・業務日誌など、手元にある記録をすべてコピーまたは写真で保存してください。退職や部署異動のタイミングで証拠を入手しにくくなることが多いです。

「自分のケースはどうなのか」と疑問に感じたら、社労士または弁護士に相談することができます。多くの専門家が初回相談を無料で受けています。一人で判断しようとせず、まず話を聞いてもらうところから始めてみてください。


まとめ

精神疾患の労災認定には、対象疾患であること・業務による強い心理的負荷があること・業務以外の原因が主でないこと、の要件を満たす必要があります。心理的負荷の評価は「強・中・弱」の3段階で、「特別な出来事」があれば自動的に「強」となります。長時間労働や上司とのトラブル・急な業務変更などが重なった場合、複数の評価が積み重なることがあります。

タイムカードがなくても、給与明細・メール・入退館記録などで立証できることがあります。申請が却下されても、審査請求・再審査請求・行政訴訟の手順で対処することができます。行政段階での棄却が裁判所でも同じ結果になるとは限りません。正しい知識を持つことで、必要な補償を適切な手続きで求めることができます。専門家に相談しながら、一歩ずつ確認を進めてみてください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Melinda Gimpel on Unsplash

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