懲戒解雇で退職金ゼロ?懲戒解雇でも退職金がもらえた判例と争う3つの条件

懲戒

「懲戒解雇になったら退職金はゼロになる」

そう諦めていませんか。

結論から言います。懲戒解雇でも退職金がもらえたケースは実在します。

現役の社会保険労務士として、退職金トラブルの相談を多数受けてきました。

「懲戒解雇=退職金ゼロ」は思い込みです。条件によっては争う余地があります。

  • 退職金の全額不支給が有効になる条件とは何か
  • 裁判所が一部支給を命じた実際の判例
  • 退職金をめぐって会社と争う前にやるべきこと

懲戒解雇と退職金の基本ルール

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まず、前提を整理しておきましょう。多くの会社の就業規則には「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という定めがあります。しかし、この定めがあるだけで退職金が自動的にゼロになるわけではありません。裁判所は、全額不支給が「相当かどうか」を審査します。

📌 ポイント:就業規則に「不支給」と書いてあっても、行為の重大性が低いと判断されれば、裁判所が一部支給を命じることがあります。

裁判所が総合的に見る判断事情

退職金の全額不支給が有効かどうかは、複数の事情を総合して判断されます。裁判所はまず、問題となった行為が業務に直結するものか私生活上のものかという性格を確認します。そのうえで行為の悪質性・継続性・隠蔽の有無、会社や職場に生じた実際の損害の規模、当該社員の勤続実績、そして会社が日頃から服務規律を徹底していたかどうかという姿勢までを含めて、全額不支給が「重すぎる」かどうかを判断します。

⚠️ 注意:最近の裁判所は、以前と比べて全額不支給を認める判断が増えています。「昔の判例なら一部もらえた」と楽観視するのは危険です。

裁判所が退職金の一部支給を認めたケース

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まず、労働者にとって有利な結果が出た判例を確認しましょう。

小田急電鉄事件(東京高裁 平成15年12月11日判決)

休日の私生活上の行為を理由に懲戒解雇された鉄道会社の社員が退職金を求めた事案です。非違行為が職務執行と直接関係しない私生活の領域で生じたものであることが、勤続実績の一定程度の保護につながりました。全額不支給は行きすぎとして、約3割の支給が命じられました。業務と無関係な行為が原因であれば、長年の勤続実績がすべて消えるわけではないという考え方が示されたのです。

【実践メモ】

懲戒解雇の原因が「業務外の行為」であれば、退職金の支払いを求めて争える可能性があります。まず就業規則を確認し、専門家に状況を伝えてみましょう。

マニュライフ生命保険事件(東京地裁 令和6年10月22日判決)

保険業法上の禁止行為に該当する名義借契約を行ったことを理由に懲戒解雇された保険会社の社員が退職金を求めた事案です。職務上の違反行為として問題があると認定されたものの、全額不支給という処分の重さが行為の内容に対して相当でないと判断されました。結果として、3割程度の支給が命じられました。業務上の違反があっても、退職金が必ずゼロになるとは限らないことが改めて示されました。

✅ やること:「退職金はゼロです」と会社に言われても、すぐに諦めないでください。状況によっては支払いを求められます。

全額不支給が認められやすい状況とは

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一方で、全額不支給が有効と判断されたケースも増えています。現実を正確に把握することも、あなたの権利を守るうえで重要です。

公務員の懲戒免職に関する最高裁の相次ぐ判断

最高裁判所は近年、公務員の懲戒免職に伴う退職金全額不支給について、適法と判断するケースが続いています。令和5年・令和6年・令和7年と、最高裁は3件の事案でいずれも全額不支給を認めました(最三小判令和5年6月27日、最一小判令和6年6月27日、最一小判令和7年4月17日)。公務員の場合、最高裁レベルで全額不支給が認められる流れが定着しつつあります。

⚠️ 注意:公務員として長年勤めてきた実績があっても、懲戒免職の場合に退職金を受け取ることは非常に難しくなっています。処分の有効性に疑問があるなら、免職処分そのものを争うことを検討してください。

民間企業でも全額不支給が認められた事案

民間企業でも、全額不支給が有効と判断される事案は増えています。業務との関連性が高く、行為が反復継続し、かつ職場や社会への実害が重大であると認められた場合に、全額不支給が有効とされやすい傾向があります。みずほ銀行事件(東京高判令和3年2月24日)では情報管理の厳格さが求められる業種での漏洩行為の継続・一般公開という結果の重大性が、伊藤忠商事ほか事件(東京地判令和4年12月26日)では退職後の利用目的が推認できる機密情報の大量移送が、小田急電鉄事件(東京地判令和5年12月19日)では違法薬物を所持した状態で業務に従事していたという悪質性がそれぞれ重視されました。

【実践メモ】

「自分のケースは争えるか」を判断するには、①行為が業務上か私生活上か、②反復・継続していたか、③会社への損害の規模、の3点を整理してから専門家に相談することをお勧めします。

退職金を諦める前にやるべきこと

「退職金はゼロです」と言われても、すぐに諦める必要はありません。まず自分でできることから始めましょう。

①就業規則の退職金規程を確認する

就業規則の退職金条項が、すべての出発点になります。「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という定めがあるかどうかを確認してください。就業規則は従業員なら誰でも閲覧を求める権利があります。会社が開示を拒む場合は、労働基準監督署への相談も選択肢のひとつです。

✅ やること:就業規則の退職金条項を今すぐ確認してください。懲戒解雇の場合の定めがどうなっているかをメモしておきましょう。

②懲戒解雇の通知書・理由書を保管する

懲戒解雇の通知書・理由書は非常に重要な証拠です。必ず原本を手元に保管してください。口頭のみで解雇を告げられた場合は、解雇理由証明書の交付を会社に請求できます。これは労働基準法第22条に基づく労働者の権利です。

③時効期限に注意する

退職金は賃金に準じる性格を持つことが多く、賃金請求権の時効が適用されます。現在の時効は原則5年(当面の間は3年)です。退職後に時間が経過するほど、請求が難しくなります。

⚠️ 注意:退職金の時効は以前は2年でしたが、法改正により延長されています。それでも時間を置くほど証拠の確保が難しくなります。できるだけ早く専門家に相談してください。

④専門家(弁護士・社労士)に相談する

退職金の問題は、個別の事情によって判断が大きく変わります。「争えるかどうか」を正確に判断するには、専門家の助けが必要です。多くの弁護士・社労士事務所では初回無料相談を実施しています。まず話を聞いてもらうだけでも、状況が整理されます。

よくある疑問 Q&A

Q: 就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金不支給」と書いてあれば必ず全額ゼロになりますか?
A: そうとは限りません。就業規則の定めは根拠になりますが、それだけで自動的に有効とはなりません。行為の重大性が不十分と判断された場合、裁判所が全額不支給を無効として一部支給を命じたケースがあります。状況によっては争う余地があります。
Q: 「懲戒解雇でも3割はもらえる」というのは本当ですか?
A: これは誤解です。特定の裁判例で出た数字であり、すべての懲戒解雇に適用されるルールではありません。全額支給・一部支給・全額不支給と、状況によって結論は大きく異なります。最近は全額不支給を認める判例も増えており、楽観は禁物です。
Q: 懲戒解雇の有効性自体を争うことはできますか?
A: できます。退職金の問題と懲戒解雇の有効性は別々に争うことが可能です。解雇が無効であれば、退職金だけでなく、地位の確認や未払い賃金も請求できる場合があります。まず解雇の理由が正当かどうかを専門家に確認してもらいましょう。
Q: 退職金の請求権に時効はありますか?
A: あります。現在は原則5年(当面の間は3年)です。退職日から時効が進行するため、時間が経つほど請求が難しくなります。早めの行動が重要です。

チェックリスト

確認項目 チェック
就業規則の退職金条項を確認した
懲戒解雇の通知書・理由書を手元に保管した
解雇理由が書面で通知されているか確認した
退職金の時効期限を確認した(退職日から計算)
会社から退職金不支給の根拠を書面で入手した
労働問題を専門とする弁護士・社労士に相談した

すぐやること 3 つ

  1. 就業規則の退職金規程を今日中に確認する
    退職金条項と懲戒解雇の定めを確認し、内容をメモしておきましょう。
  2. 懲戒解雇に関する書類をすべて保管する
    通知書・理由書・メール・メモなど、関連書類はすべて手元に残してください。
  3. 労働問題の専門家に相談する
    「争えるかどうか」の判断は自分だけでしないことが重要です。弁護士か特定社会保険労務士に相談してください。

まとめ

  • 懲戒解雇でも退職金が支払われた裁判例は実際に存在する
  • 全額不支給が有効かどうかは、行為の内容・悪質性・業務との関連性などで総合判断される
  • 近年は全額不支給を認める判例が増加しており、楽観は禁物
  • 就業規則の退職金条項の確認と書類の保管が最初のステップ
  • 退職金の請求権には時効(原則5年・当面3年)があるため、早めの行動が大切
  • 懲戒解雇の有効性と退職金問題は別々に争うことができる

長年積み上げてきたあなたの勤続実績は、簡単に消えるものではありません。

正確な知識と早めの行動で、あなた自身の権利を守れます。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by ALEJANDRO POHLENZ on Unsplash

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