「会社のSNSに顔写真を出してほしい」と言われた。
断りたいけど、評価が下がるのが怖い。
そんな状況で悩んでいませんか?
結論から言います。採用広報への協力は、義務ではありません。
あなたには、断る権利があります。
現役の社会保険労務士として、職場のプライバシー問題を数多く見てきました。
この記事では、以下のことがわかります。
- 顔写真・個人情報の提供を断れる法的な根拠
- 「すでに同意したが取り消したい」場合の対処法
- 断ったことで不利益を受けた場合の対抗手段
会社の採用広報に顔出しする義務はない
断言します。採用広報への協力は、原則として任意です。
なぜなら、あなたの顔や個人情報は法律で守られているからです。「業務命令だから従わなければならない」は、大きな誤解です。
肖像権という権利を知っていますか
肖像権とは、自分の顔や姿を無断で撮影・使用されない権利のことです。法律の条文には直接書かれていませんが、憲法13条の幸福追求権をもとにした、重要な人格的権利です。
肖像権に関する代表的な判例として、京都府学連事件(最高裁大法廷昭和44年12月24日判決)があります。この判決は、自分の容ぼうや姿態をみだりに撮影されない自由を人格的権利として保護したリーディングケースとして位置づけられています。
つまり、あなたの顔は、あなたの同意なしに会社が勝手に使えるものではないということです。これは通常の業務命令とは、まったく別次元の話です。
個人情報保護法もあなたの味方
顔写真だけでなく、氏名・出身校・入社年次なども「個人情報」に当たります。個人情報保護法では、利用目的を明示したうえで本人の同意を得ることが会社の義務です。同意なしに使ったり、同意した目的を超えて使ったりすることは法律違反になります。
例えば、「採用パンフレット用」として同意したのに、後から会社のInstagramにも使われた場合。これは同意した範囲を超えた利用です。あなたは使用の停止や削除を求める権利があります。
圧力のある状況での「同意」は無効になる可能性がある
サインしてしまったとしても、あきらめないでください。本当の意思に基づかない同意は、法的に無効と判断される場合があります。
同意の場面で問題になるのは、本人が自由に判断できる環境が整っていなかったケースです。他の社員との比較を持ち出して暗に同調を促したり、断ることで職場内の評価が下がるかもしれないという不安を生じさせたりする状況では、サインが得られたとしても、それが真の自由意思に基づくものとはいえません。
組織の中で経験が浅く相対的な立場が低い人ほど、自由な意思表示が難しい状況に置かれやすいものです。「断れない空気」を意図的に作って同意を取る行為は、それ自体に問題があります。
【実践メモ】
圧力を感じた発言や出来事は、その日のうちにメモに残してください。記録する3点は「日時・発言者・発言の内容」です。このメモが、後で相談や交渉をするときの重要な根拠になります。
一度同意した後でも取り消せる
「すでに顔写真を出してしまった」という人も、あきらめないでください。同意の撤回は、いつでも申し出ることができます。
採用ページや会社のSNSから自分の写真を削除してほしいと申し出ることは、正当な権利行使です。特に次のような場合は、積極的に申し出てください。
- 転職活動中で、現在の会社のページに名前・顔が出ているのが困る
- 個人的なトラブルがあり、ネット上に顔が出ているのが不安だ
- 家族の事情が変わり、ネット上の自分の情報をできるだけ減らしたい
ネット上の情報は削除後もキャッシュに残ることがあります。完全には消えない場合もあることは、正直に伝えます。それでも、少なくとも掲載元に削除を求めることはできます。できる範囲で対応を求めることは、あなたの当然の権利です。
断ったら不利益を受けた場合の対処法
広報への協力を断った後に、職場での扱いが変わる事例が報告されています。評価面での影響、職場内の関係性の変化、上司からの言動の変化など、様々な形で不利益が生じることがあります。はっきり言います。これはパワーハラスメントに当たります。
会社には、労働者の心身の安全を守る「安全配慮義務」があります(労働契約法5条)。つまり、身体的な危険だけでなく、精神的な苦痛からも守る義務があるということです。写真掲載を断ったことへの報復は、この義務への違反にもなります。
最初にやるべきことは、記録を残すことです。いつ・誰に・何を言われたかを、メモや録音(可能な範囲で)で残してください。この積み重ねが、後の相談や交渉で重要な証拠になります。
【実践メモ】
社内の相談窓口が機能しない場合や、会社全体として問題がある場合は外部へ相談しましょう。都道府県の労働局「総合労働相談コーナー」は無料で利用できます。社労士や弁護士への相談も、初回無料のところが増えています。
よくある疑問 Q&A
- Q: 就業規則に「広報活動に協力すること」と書いてあれば、断れないのですか?
- A: いいえ、断れます。就業規則に規定があっても、肖像権などの人格的権利を侵害する内容には従う義務はありません。人格的権利は就業規則よりも上位に保護される権利です。
- Q: 一度断ったら、今後もずっと断り続けなければいけないのですか?
- A: そんなことはありません。断る・同意するはその都度の判断です。以前断ったことが次回の判断を縛ることはなく、状況が変わったら改めて同意することもできます。
- Q: 退職後も元の会社のページに自分の情報が残っています。削除を求められますか?
- A: 求められます。退職後は採用広報としての利用目的が実質的に失われています。元の会社に削除を求めることは正当な権利の行使です。応じない場合は、労働局や専門家への相談を検討してください。
- Q: 断りたいけれど、上手な言い方がわからない。
- A: 「個人的な事情により、ネット上への顔写真の掲載は控えさせていただきたいです」と伝えるだけで十分です。詳しい理由を説明する義務はありません。断ること自体があなたの権利です。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 採用広報への協力が「任意」であることを認識した | □ |
| 同意する場合は「目的・媒体・期間」を書面で確認した | □ |
| 圧力を感じる発言があれば記録した(日時・発言者・内容) | □ |
| 削除を求める場合はメール等の書面で依頼した | □ |
| 断ったことで不利益を受けた場合、記録を残している | □ |
| 深刻なトラブルは社労士・弁護士または労働局に相談した | □ |
すぐやること 3 つ
- 同意を求められているなら「目的・媒体・期間」を確認し、書面に残してもらう
- 圧力を感じる発言や状況をその日のうちにメモに記録する(日時・発言者・内容の3点)
- 不当な不利益があれば、社内窓口か社労士・弁護士に相談する
まとめ
- 採用広報への顔出しは義務ではない。あなたには断る権利がある
- 肖像権と個人情報保護法の両方が、あなたの情報を守っている
- 圧力のある環境での同意は、法的に無効になる可能性がある
- 一度同意しても、撤回・削除を求める権利がある
- 断ったことへの報復はパワーハラスメントに当たる
- 記録を残すことがすべての出発点
あなたの顔・名前・経歴は、会社の「広報素材」ではありません。それはあなた自身の人格であり、あなただけが持つ固有の財産です。自分の情報を守るために権利を行使することは、何も恐れることではありません。自分の働く姿をコントロールできると思えたとき、職場での不安はずっと小さくなります。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

