「スキルアップしたい。でも休むと収入がなくなる。」
そう悩んでいるあなたに、知っておいてほしい制度があります。
2025年10月にスタートした新制度で、仕事を休んで学び直す期間中に生活費が支給されます。
その名は「教育訓練休暇給付金」。現役社会保険労務士として、この制度を労働者の視点からわかりやすく解説します。
- 教育訓練休暇給付金の対象者と受給条件
- いくらもらえるか・何日分もらえるか
- 申請の流れと注意点
教育訓練休暇給付金とは?制度の全体像
これまで、働きながら本格的に学ぼうとすると、大きな壁がありました。「仕事を辞めれば学べる。でも生活が心配。」という問題です。この制度は、その壁を取り除くために作られました。雇用保険の仕組みを活用し、在職したまま休暇を取って学ぶ期間中に生活費を支給するという、まったく新しい給付金です。
失業手当とはここが違う
似た制度として「失業手当(基本手当)」がありますよね。失業手当は、仕事を辞めてから受け取るお金です。一方、教育訓練休暇給付金は在職中に受け取れます。キャリアを途切れさせずに、スキルアップできるのがポイントです。
なぜこの制度が生まれたのか
AI・デジタル化の波が急速に広がっています。スキルのアップデートは、もはや避けられない時代になっています。国がその学び直しの時間と費用を支援する方向に動いた結果として、この制度が創設されました。
あなたは対象?受給のための4つの条件
この給付金を受けるには、いくつかの条件を満たす必要があります。一つずつ確認していきましょう。
条件①:現在も雇用保険の対象として働いている
正社員・契約社員など、雇用保険の「一般被保険者」として現在も在籍していることが必要です。フリーランスや自営業の方は、残念ながら対象外です。
条件②:積み重ねた雇用保険の加入実績が5年を超えている
これまでに雇用保険に加入して働いてきた期間の合計が、5年以上に達していることが必要です。複数の会社での在職期間も通算できます。この期間を「算定基礎期間」と呼びます。
条件③:休暇を取る前の2年間で、実際に12ヶ月以上働いている
休暇の開始日を基準として、直前の2年間に雇用保険に加入して就労していた月数が12ヶ月以上あることが必要です。病気・出産などで長期間働けなかった場合は、この確認期間が最大4年まで広がります。
条件④:まとまった期間の休暇として1回連続30日以上取得する
この制度で対象となる休暇は、途切れなく30日以上続くものに限られます。週末だけの学習や短期の数日間講座では対象になりません。集中して学び直しに専念する期間を確保することが前提となっています。
いくらもらえる?支給額と日数の目安
気になるのは「実際いくらもらえるか」ですよね。支給額は、雇用保険の「基本手当日額」と同じ水準です。基本手当日額は、休暇開始前の賃金の実績から算出されます。
具体的な日額のイメージ
賃金や年齢によって変わりますが、参考として以下をご覧ください。(実際の金額はハローワークで確認してください)
- 月収30万円・30代の場合:1日あたりおよそ5,500〜6,500円程度
- 月収45万円・40代の場合:1日あたりおよそ7,000〜8,500円程度
何日分もらえる?加入期間で変わる給付日数
受け取れる日数は、雇用保険に加入して働いた年数によって変わります。
| 雇用保険の加入期間 | 給付日数の上限 |
|---|---|
| 5年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
長く働いてきた方ほど、より多くの日数を受け取れます。20年以上の方なら、最大5ヶ月分の生活費を確保できる計算です。
【実践メモ】
給付日数はあくまで「上限」です。実際に教育訓練を受けていて、収入を得ていない日だけが対象になります。受講記録・出席証明などの書類はこまめに保管しておきましょう。認定のときに必要になります。
どんな学び直しが対象?3種類の教育訓練
「どんな学校・講座でも使えるの?」という疑問があると思います。対象となる教育訓練は、大きく3つに分かれます。
①大学・大学院・専門学校などの正規課程
学校教育法に基づく大学・大学院・高等専門学校・専修学校・各種学校が実施するものが対象です。社会人入学で大学院に通うケースも、条件を満たせば対象になります。
②厚生労働大臣が指定した民間講座
教育訓練給付金の対象として国が指定した民間の講座も対象です。IT・会計・語学・介護など、多様な分野の講座が含まれます。
③職業安定局長が定めるその他の職業訓練
上記以外でも、職業に関するものとして認められた訓練が対象になる場合があります。
申請の流れ:あなたがやるべき4ステップ
手続きは会社とハローワーク、両方が関わります。流れを把握して、余裕を持って準備を始めましょう。
ステップ1:会社に教育訓練休暇の申請をする
この制度を動かすのは、あなた自身の自発的な意志から始まります。会社に「教育訓練休暇を取りたい」と申し出て、休暇の目的・期間・受講予定の教育機関などを記載した書類を提出します。事業主の承認を得ることが、給付金受給の絶対条件です。
ステップ2:会社がハローワークに届け出る
会社があなたの休暇取得を承認したら、次は会社側が動く番です。事業所管轄のハローワークへ必要な書類を提出します。休暇が始まった翌日から10日以内という期限があるため、会社との連携を早めに始めておくことが大切です。ハローワークから確認結果の書類が会社に交付されます。
ステップ3:あなたがハローワークに支給申請する
会社から受け取った書類を持って、あなたの住所地を管轄するハローワークへ向かいます。本人確認書類・通帳・事業主の承認を証明する書類なども必要です。受給資格が確認されると、認定通知が交付されます。
ステップ4:30日ごとに認定を受ける
ハローワークが指定する認定日ごとに、実際に休暇を取得して学んでいることを申告します。認定された日数に応じて、給付金が振り込まれます。受講を証明する書類の提示を求められる場合があります。
【実践メモ】
手続きを始める前に、一度ハローワークに相談することをおすすめします。「教育訓練休暇給付金を使って学び直したい」と伝えれば、担当者が流れを案内してくれます。会社と連携が必要な書類もあるため、早めに動くほど余裕が生まれます。
受給前に必ず知っておきたい注意点
将来の失業手当に影響することがある
この給付金を受け取ると、受給前の被保険者期間は将来の失業手当の計算から除かれます。つまり、今後離職したときの失業手当の日数が少なくなる可能性があります。メリットとデメリットを天秤にかけて判断することが大切です。
会社の制度がないと利用できない
この給付金を受けるには、会社の就業規則などに教育訓練休暇制度が定められていることが前提です。現時点では、制度を設けている会社はまだ少数です。制度がない場合は、人事担当者や労働組合を通じて導入を提案してみましょう。
よくある疑問 Q&A
- Q:会社に教育訓練休暇制度がない場合、どうすればいい?
- A:就業規則等に制度がない場合は残念ながら利用できません。まず人事担当者に相談してみましょう。会社にとっても、学び直しを支援する体制づくりはメリットになりえます。前向きな提案として持ちかけることをおすすめします。
- Q:休暇中にアルバイトをしたらどうなる?
- A:収入を伴う就労をした日は給付対象外です。副業・アルバイトをした日は申告が必要で、その日分は給付されません。不正申告は厳禁です。給付金の返還や罰則の対象になることがあります。
- Q:学び直し中に病気になったら給付は止まる?
- A:妊娠・出産・育児・病気・けがなどで30日以上教育訓練を受けられない期間が生じた場合、給付対象期間の上限が最大4年まで延長されるケースがあります。まずハローワークに相談してください。
- Q:給付金を受け取れる期間はどれくらい?
- A:休暇開始日から原則1年間が対象期間です。その中で、加入期間に応じた給付日数(90〜150日)の上限まで受け取れます。延長措置が適用される場合は、最大4年間が対象期間になります。
受給チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 雇用保険の一般被保険者として加入している | □ |
| 雇用保険への加入期間が通算5年以上ある | □ |
| 休暇前2年間で12ヶ月以上の被保険者期間がある | □ |
| 会社の就業規則に教育訓練休暇制度が定められている | □ |
| 受講する講座が対象教育訓練に該当することを確認した | □ |
| 休暇期間が連続30日以上になる予定がある | □ |
| 解雇・雇止め・休業の予定がない | □ |
| ハローワークへの事前相談を済ませた | □ |
すぐやること 3 つ
- 雇用保険の加入期間を確認する(手元の雇用保険被保険者証またはハローワークで照会)
- 会社の就業規則を確認する(教育訓練休暇の規定があるかどうかをチェック)
- ハローワークに相談する(受けたい講座が対象か・手続きの流れを事前確認)
まとめ
- 教育訓練休暇給付金は2025年10月1日にスタートした雇用保険の給付制度
- 在職中に取得した学び直し休暇の期間中に、生活費相当の給付金を受け取れる
- 対象は雇用保険に5年以上加入している一般被保険者
- 給付日数は加入期間に応じて90〜150日が上限
- 会社の就業規則に制度があること・自発的な学びであることが条件
- 将来の失業手当に影響する場合があるため、事前にハローワークで確認を
スキルを磨くことは、あなたの仕事の可能性と収入、そして家族の暮らしの安心を広げる力になります。この制度を使って、ぜひ次のステージへの一歩を踏み出してください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Kenny Eliason on Unsplash
