持病や障害があっても働き続けたい|職場の安全配慮義務違反を認めた裁判例から学ぶ障害者の権利

安全配慮義務

「足が不自由なのに、毎日重い荷物を運ばされている。」

「持病のことを伝えたのに、業務は何も変わらなかった。」

そんな状況で、ひとり我慢していませんか?

結論からいいます。会社にはあなたの障害・持病に応じた配慮をする「義務」があります。

現役の社会保険労務士として、職場における配慮義務をわかりやすく解説します。この記事を読めば、自分の権利と会社への要求の仕方がわかります。

  • 会社が守らなければならない「安全配慮義務」の中身
  • 障害者雇用促進法が定める「合理的配慮」とは何か
  • 会社が義務を果たさないときにできること

会社にはどんな「配慮義務」があるの?

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労働契約法5条には、こう定められています。
「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする。」

つまり、会社はあなたの体と心を守る義務があります。

これを「安全配慮義務」といいます。

この義務はすべての労働者に適用されますが、障害や持病がある方にとっては特に重要です。同じ業務であっても、体への影響は人によって大きく異なります。そのため、あなたの状態に合わせた対応が、会社に求められます。

📌 ポイント:安全配慮義務は「一般的な安全管理」ではありません。あなた個人の体の状態に合わせた、個別の配慮が必要です。

「自分から言わなかった」は会社の免責理由になる?

よくある疑問があります。

「自分から言わなかったから、会社は知らなかったのでは?」

しかし、実際の裁判ではそう簡単にはいきません。

体の状態を示す書類を会社に提出していたり、上司や周囲の人が日常的に状況を目にしていたりする場合、会社は「知らなかった」と言えない立場に置かれます。

裁判所は「会社が状況を知り得る立場にあった」と認められれば、本人の正式な申告がなくても配慮義務の違反を認定することがあります。

✅ やること:体の状態はメールや書面で会社に伝えましょう。口頭だけでは記録が残りません。

「合理的配慮」って何をしてもらえるの?

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障害者雇用促進法36条の3には、事業主に「合理的配慮」の提供義務があると定められています。

2024年4月以降は、規模に関わらずすべての事業者に義務があります。

合理的配慮には大きく3つの方向性があります。まず業務内容の調整として、体に過度な負担がかかる作業を軽減したり、別の業務に変更したりすることです。次に職場環境の整備として、使用している補助具の保管場所を確保したり、移動に負担のない動線を確保したりすることです。そして人事上の配慮として、身体的な負担が大きい業務が中心の部署から、それが少ない部署への異動を検討することも含まれます。

⚠️ 注意:「前例がない」「設備がない」だけでは拒否の正当な理由になりません。どの範囲で対応できるか、会社側に具体的な説明を求めましょう。

配慮はどうやって求めればいい?

配慮を求めるときは、具体的に伝えることが大切です。

「足に持病があり、長距離の移動は医師から制限されています」

「立ちっぱなしの業務が続くと症状が悪化します」

このように、理由と具体的な要望をセットで伝えます。

そして、必ず書面(メール・申請書)で記録を残してください。

口頭だけでは「言った・言わない」の水掛け論になります。

【実践メモ】

上司に配慮を求める際は、診断書や主治医のコメントを添えると効果的です。「主治医から〇〇を避けるよう指示されています」という形で伝えると、会社も動きやすくなります。

実際の裁判で認められたこと

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ここで、実際に裁判所が判断を下した事案を紹介します。

奈良地葛城支判 令和4年7月15日

地方自治体に勤務する職員が、下肢に障害を負った後も、身体的な負担が集中しやすい業務形態の部署に長く置かれ続けた事案です。組織内の複数の関係者がその状況を把握していたにもかかわらず、業務の軽減や部署の変更といった対応は長らく行われませんでした。その結果、症状は大幅に悪化し、手術が必要な状態にまで至りました。

裁判所は、雇用側の安全配慮義務違反を認定し、慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。

つまり…「関係者が状況を知っていたのに対応しなかった」という事実が、義務違反の根拠になったということです。

📌 ポイント:上司や周囲の人が状態を認識していれば、「本人から申し出がなかった」という会社側の反論は通りにくくなります。

この判例から学べること

通院記録が「認識の証明」になる

定期的に医療機関に通っていた記録は、症状が継続していた証拠になります。

業務との関連性を裁判所が判断する際の、重要な材料のひとつとなりました。

異動希望は文書で繰り返し出すことが大切

毎年、異動希望や業務軽減の申し出を文書で提出しておくと、後から「要望が会社に届いていた」ことを証明しやすくなります。

内部告発より内部申出の積み重ね

外部機関への申立ては最終手段です。まずは社内での申し出の記録を積み重ねることが、後の手続きで有利に働きます。

✅ やること:主治医に「この業務を続けることで症状が悪化するリスクがある」という意見書を作成してもらいましょう。これが最も強力な証拠になります。

会社が動かないときの対処ステップ

書面で申し出ても改善されない場合、以下の順で対応を検討してください。

ステップ1:人事部門に書面で申し出る

上司だけでなく、人事部門にも直接申し出ましょう。

「〇月〇日、人事課に提出」と自分でも日付と提出先を記録します。

回答は口頭ではなく、書面またはメールでもらうよう求めましょう。

ステップ2:都道府県労働局に相談する

障害者への合理的配慮に関する問題は、各都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」が窓口です。

相談は無料で、匿名でも可能です。

ステップ3:専門家(社労士・弁護士)に相談する

証拠がそろってきたら、専門家への相談を検討しましょう。

社労士は労働環境の改善に向けたアドバイスができます。

損害賠償請求など法的手段が必要なら、弁護士への相談が適切です。

⚠️ 注意:安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は、原則として権利行使が可能と知った時から5年です。症状の悪化が続いている場合でも、早めに専門家に相談することをおすすめします。

よくある疑問 Q&A

Q: 障害者手帳を持っていない場合でも、配慮を求められますか?
A: 求められます。安全配慮義務は、手帳の有無に関わらずすべての労働者に適用されます。持病やケガによって業務が困難な場合は、手帳がなくても配慮を求める権利があります。
Q: 「配慮できる設備がない」と言われました。どうすればいい?
A: 費用や設備の問題は、対応の合理性を判断する要素のひとつです。しかし「費用がかかる」だけでは全面拒否の理由になりません。改めて書面で要望を出し、回答を文書でもらいましょう。
Q: 配慮を求めたら、逆に不利な扱いを受けそうで怖いです。
A: 障害者雇用促進法は、配慮を求めたことを理由とした不利益扱いを禁止しています。もし不利益な扱いを受けた場合は、その事実も記録しておいてください。
Q: 配転後に症状が悪化しました。会社に責任を問えますか?
A: 症状の悪化と業務の因果関係が認められれば、安全配慮義務違反として損害賠償を求めることができます。まず主治医に「業務との関連性」を確認してください。

チェックリスト

確認項目 チェック
体の状態を書面・メールで会社に伝えたか
診断書・障害者手帳のコピーを人事部門に提出したか
業務軽減・異動希望を文書で申し出たか
上司や人事とのやり取りを記録しているか
通院記録・診断書を手元に保管しているか
業務と症状の関連性を主治医に確認したか

すぐやること 3 つ

  1. 体の状態と業務軽減の要望をメールで上司・人事部門に送る(記録を残す)
  2. 主治医に「業務を続けることで症状が悪化するリスク」についてコメントをもらう
  3. 配慮を求める内容を具体的にまとめた「申し入れ書」を書く

まとめ

  • 会社にはすべての労働者の安全を守る「安全配慮義務」がある(労働契約法5条)
  • 障害を持つ労働者には、個別の状況に応じた「合理的配慮」を提供する義務がある(障害者雇用促進法36条の3)
  • 会社が状況を把握していながら対応しなかった場合、義務違反として損害賠償の対象になりうる
  • 配慮を求めるときは、書面・通院記録・医師の意見書を活用する
  • 改善されない場合は、都道府県労働局・社労士・弁護士に相談する

障害や持病があっても、あなたには安全な環境で働き続ける権利があります。

「忙しいから」「前例がないから」という会社の言葉に、泣き寝入りする必要はありません。

体を守ることは、仕事を守ることであり、あなたの家族を守ることでもあります。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by K. Mitch Hodge on Unsplash

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