760時間分の残業代を請求したら、会社が認めたのは約7%だった。東京新聞が報じたニコン元社員のケースは、残業代請求の「典型的な構図」をそのまま映している。
結論から言う。会社が残業代を7%しか認めない理由は「証拠がない時間帯は払わない」という論法だ。これは法的に正当とは限らない。
この記事でわかること:
- 会社が残業代を認めない理由と、それが通用するかどうか
- 労働者が今すぐ使える対抗手段
- 労基署の指導に会社が従わない場合の次の一手
760時間と7%——何がここまで差を生むのか
報道によると、元社員は760時間分の残業代を請求した。労働基準監督署も会社を指導している。それでも会社が認めたのは請求額の約7%。
この差額はどこから来るのか。答えは一つだ。
「実際に働いた時間」と「会社が認める時間」のギャップ。残業代請求で最大の争点になるのは、常にここだ。
会社が「認めない」と言う理由
会社側がよく持ち出す主張はだいたいこの3つだ:
- タイムカードやシステムログに残っていない時間帯
- 「業務の指示をしていない」として業務外とみなした時間
- 「自発的に残っていた」という扱いにしている時間
これらはすべて会社側の言い分だ。法的に正当とは限らない。
特に「自主的な残業」という主張は要注意だ。上司が明示的に「帰っていい」と言わない状況で残業していた場合、それは自主的な残業にはならない。指揮命令下にあったと判断される余地がある。
そして今回、労基署が指導したという事実は重い。指導が出たということは、一定の違法性があると行政機関が判断したということだ。
労働者が取れる対抗手段
では、どう戦うか。社労士の立場から整理する。
証拠——これだけが勝負を決める
残業代請求は証拠の量と質がすべてを決める。持っているだけで交渉の場が変わる。
使える証拠の例:
- パソコンのログイン・ログオフ記録(ITシステムのアクセスログ)
- メール・チャットの送受信タイムスタンプ
- 業務日報・手帳・スマホのメモ
- 会社の入退館記録・セキュリティゲートのログ
- 社内システムへのアクセス履歴
これらは「今すぐ集められるもの」から手をつけるべきだ。会社を退職した後では取得が難しくなるものも多い。
労基署の指導が出た後にやること
労基署の指導は「違反の認定」ではない。あくまでも行政上の指導だ。
重要なのはここだ。指導を受けても会社が動かない場合、それ自体が交渉材料になる。「行政機関から指導を受けた事実があるにもかかわらず是正しない」という状況は、法的手続きを取る上で有利に働く。
次の選択肢として検討できるのは以下だ:
- 労働審判:裁判所が関与する迅速な手続き。3回以内の期日で解決する仕組みだ
- 民事訴訟:証拠が揃っていれば、未払い残業代に加えて付加金(同額)の請求も可能
- 弁護士・社労士への相談:証拠の整理から交渉まで、専門家が一緒に動いてくれる
会社側の言い分——でも、それは通用するか
社労士として正直に言う。会社側にも一定の言い分がある。
「業務の指示をしていない時間」「過去の慣行との整合性」「記録に残っていない時間の扱い」——これらは会社が主張する根拠だ。
ただし、だ。
会社が「指示していない」と言っても、実態として上司が帰宅を妨げる状況があったなら話は変わる。また、黙示の指示(暗黙の了解で残業を求める職場文化)も、使用者の指揮命令下とみなされる場合がある。これは判例でも認められた考え方だ。
会社の主張をそのまま受け入れる必要はない。
よくある疑問Q&A
- Q: 労基署が指導したのに会社が従わない場合はどうなりますか?
- A: 労基署の指導に従わない場合、労働基準法違反として刑事処分を受ける可能性があります。ただし、指導の内容によって対応は変わります。
- Q: 残業代請求の時効はいつからカウントされますか?
- A: 2020年4月以降の賃金については5年、それ以前は3年が時効期間です。支払期日の翌日からカウントされます。
- Q: 会社と合意できない場合の解決方法は?
- A: 労働審判や民事訴訟などの法的手続きがあります。専門家に相談することをお勧めします。
今すぐやること3つ
- 労働時間の記録を開始する(現在働いている人)
- 過去の証拠を整理する(メール、業務記録など)
- 専門家に相談する(社労士、弁護士、労働組合など)
まとめ
- 残業代請求は「証拠の量と質」がすべてを決める。記録は今すぐ始める
- 労基署の指導があっても強制力はない。会社が動かなければ法的手続きを検討する
- 「指示していない」「自主的な残業」という会社の主張が法的に通るとは限らない
- 時効は2020年4月以降の賃金で原則5年(当面3年)。早めの行動が重要だ
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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