シフトで残業代が出ない|変形労働時間制でも請求できる?

「うちはシフト制だから残業代はない」。そう言われて、納得できないまま働いていないだろうか。

「変形労働時間制を入れているから問題ない」と説明されたこともあるかもしれない。

はっきり言う。会社がルールを正しく守っていなければ、その制度は無効になる。

無効になればどうなるか。1日8時間を超えた時間は、すべて残業代の対象だ。ケースによっては数百万円、ときに1,000万円超の未払い残業代を取り戻せることもある。現役の社会保険労務士として、実際の裁判例をもとに解説する。

この記事で扱うのは3つ。変形労働時間制が無効になる条件、無効になったときの残業代の計算のしくみ、そして宿直・仮眠時間が労働時間として認められる線引きだ。順番に見ていく。

変形労働時間制とは?シフト制との違いをざっくり理解する

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変形労働時間制をひと言でいうと、「繁忙期に長く働く代わりに、別の日を短くしてトントンにする」仕組みだ。

法律上のルールはこうなっている。

1カ月を単位期間として、週平均の労働時間が40時間以内に収まるよう設計する。そうすれば、特定の日に8時間・特定の週に40時間を超えて働かせてよい(労働基準法第32条の2)。

繁閑の波がある職場や、シフト制で人手不足を補いたい会社がよく使っている。

📌 ポイント:変形労働時間制は「会社がそう決めた」だけでは成立しません。労働基準法が定める厳格な要件を満たした手続きが必要です。

ここが肝心だ。

シフト制の会社の中には、「変形労働時間制を導入している」と言いながら、法律の要件を満たしていないところがある。これが意外と多い。

要件を満たしていない変形労働時間制は、裁判所に無効と判断される。

「従業員の希望を聞いてシフトを組んでいる」は要注意

「みんなの希望を聞いて柔軟にシフトを決めている」。会社のこういう説明を聞いたことはないだろうか。

それ自体は悪いことではない。むしろ働く側にはありがたい。

ただ、変形労働時間制には「対象期間が始まる前に、各日・各週の労働時間をあらかじめ特定する」という要件がある。

希望を聞いてから決める運用は、この「あらかじめ特定」と真っ向からぶつかることがある。柔軟さが、かえって制度を崩すわけだ。

あなたの会社の変形労働時間制は「本物」か?確認すべきポイント

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制度が有効かどうか。次の点を自分の目で確かめてほしい。

就業規則に具体的な労働時間が書かれているか

「所定労働時間はシフト表による」。就業規則にこれしか書いていなければ、要注意だ。

変形労働時間制が有効に成立するには、就業規則等に各日・各週の所定労働時間が具体的に明記されている必要がある。

「業務の都合により変更することがある」という曖昧な一文だけでは足りない。

⚠️ 注意:就業規則に書かれた始業・終業時刻と、実際のシフト表の時刻がズレている場合、制度が無効と判断される重要な根拠になります。

月が始まる前にシフトが確定しているか

変形労働時間制では、対象となる1カ月が始まる前にシフトが確定していなければならない。

月が始まってからシフトを変更・追加する運用は、この要件を満たさない。

「月の途中でシフトが変わる」「前月末にシフト表をもらえない」。これは制度の有効性を疑うサインだ。

月の週平均が40時間を超えていないか

制度の根幹は「単位期間の週平均が40時間以内」という一点に尽きる。

シフト表ができた時点ですでに週平均40時間を超えている月が何度も出ている。そんな運用は、そもそも制度の枠からはみ出している。形だけの変形労働時間制だ。

✅ やること:過去のシフト表を保存しておきましょう。月ごとの合計労働時間を計算し、週平均40時間を超えていないか確認できます。捨てずにとっておくだけで将来の武器になります。

制度が「無効」になったら何が起きるのか

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ここが一番大事なところだ。

変形労働時間制が無効になると、1日8時間を超えた時間はすべて残業時間になる。

残業時間には、通常賃金の1.25倍の支払いが必要だ(労働基準法第37条1項)。

建物管理会社で1,000万円超の未払い残業代が認定された事件

2023年(令和5年)、東京地方裁判所で見過ごせない判決が出た。

ビルの設備管理を担う従業員3名が、会社に未払い残業代を請求した裁判だ。

(大成事件・東京地判令和5年4月14日、控訴審:東京高判令和6年4月24日)

裁判所は、この会社の変形労働時間制を無効と判断した。

理由は大きく2つ。就業規則に書かれた労働時間と実際のシフト表の中身がズレていたこと。そして、シフト確定の時点で単位期間の週平均が40時間を超えている月が相当数あったことだ。

結果はどうなったか。従業員1名に対して、1,000万円を超える未払い残業代の支払いが命じられた。

📌 ポイント:無効になった場合、「これまで払った月給」は「1日8時間分の賃金」と扱われます。8時間を超えた部分は「全額未払い」となるため、割増分だけでなく通常賃金1倍分も含めた1.25倍すべてを請求できます。

「月給を払っているから割増分だけでいい」という会社の言い分は通らない

会社はこう主張した。「すでに月給を払っているのだから、割増分(0.25倍)だけ追加で払えばいい」。

裁判所は認めなかった。

変形労働時間制が無効になると、月給は「8時間分の賃金」と解釈される。

つまり、8時間を超えた部分には、1倍分の賃金すら払われていなかったことになる。

だから1.25倍の全額が未払い残業代になる。これが裁判所の理屈だ。会社にとっては痛い理屈だが、働く側にとっては当然の結論だ。

【実践メモ】

過去の給与明細とシフト表を照らし合わせてみましょう。変形労働時間制が無効なら、1日8時間を超えた日の残業代がゼロになっているはずです。その日数と超過時間を計算するだけで、未払い残業代の概算が出せます。賃金請求権の時効は原則5年(当面の間は3年)ですので、3年以内のものを対象に計算してみてください(労働基準法第115条)。

宿直・夜間の「仮眠時間」は労働時間になる

建物管理・警備・介護・医療。夜間に宿直がある職場で働くあなたに伝えたい。

「仮眠時間は休憩扱いだから残業代は出ない」。そう言われていないだろうか。

仮眠中でも、実態によっては「労働時間」だ。当然、残業代の対象になる。

大成事件では仮眠時間が労働時間と認定された

大成事件でも、宿直中の仮眠時間の扱いが大きな争点になった。

裁判所は、仮眠時間を「労働時間」と認めた。

判断の根拠はシンプルだ。

仮眠中であっても「何かあればすぐに対応しなければならない状態に置かれていた」かどうか。この実態で判断される。

言い換えればこうだ。「完全に仕事から切り離されていない待機状態」の仮眠は、労働時間に含まれる可能性が高い。横になっていても、頭は会社に縛られているからだ。

⚠️ 注意:自由に外出できる・何をしてもいい休憩時間は「休憩」です。一方で「施設内に待機してすぐ動ける状態」を求められる仮眠は、労働時間として認められる可能性があります。

【実践メモ】

仮眠中に呼び出された記録、緊急対応マニュアルの存在、仮眠室の場所(施設内での待機が義務か)などを記録・保存しておきましょう。「完全に自由ではなかった」と証明できる記録が、後の請求を支える証拠になります。

証拠はこうして集める

残業代を取り戻せるかどうか。決め手は証拠だ。

大成事件では、従業員が業務日誌を証拠として提出した。会社は「違法に集めた証拠だ」と反論した。だが裁判所は退けた。

実際の勤務状況を証明するために必要な証拠であり、個人のプライバシーを侵害するものではない。そういう判断だった。

自分が働いた実態を証明するための証拠集めは、後ろめたいことではない。正当な権利行使だ。

今すぐ始められる証拠収集

  • シフト表のコピー(捨てずに保存)
  • 出退勤時刻のメモ(スマホのカレンダー・メモアプリで記録)
  • 給与明細(残業代の記載内容を毎月確認・保存)
  • 仮眠中の呼び出し記録(日時・対応内容)
  • 「残業代は出ない」と言われた発言のメモ・メールのスクリーンショット
✅ やること:スマホのカレンダーアプリに、毎日の始業・終業時刻を記録する習慣をつけましょう。1分もかかりません。この記録が、将来の請求で使える強力な証拠になります。

よくある疑問

残業代の請求には時効がありますか?
あります。賃金請求権の時効は、原則として5年(当面の間は3年)です(労働基準法第115条)。3年以上前の残業代は取り戻せないこともあります。「おかしい」と感じたら、早めに動いてください。
変形労働時間制が無効かどうか、自分で確認できますか?
ある程度はできます。就業規則と実際のシフト表を見比べて、記載が一致しているか・月が始まる前に確定しているかをチェックしてください。判断に迷うなら、社会保険労務士か弁護士の無料相談を使うのが確実です。
会社に請求したら解雇されないか不安です
残業代の請求を理由とした解雇は、不当解雇にあたる可能性が高いです。まず証拠を整理し、労働基準監督署や専門家に相談してから動くと安心です。
付加金とは何ですか?
未払い残業代と同額を、裁判所が追加で支払うよう命じる制度です。悪質なケースに適用されます。ただし、会社が判決前に自主的に支払った場合は付加金が免除されることがあります。

変形労働時間制・チェックリスト

確認項目 チェック
就業規則に具体的な始業・終業時刻が明記されているか
就業規則の内容と実際のシフト表が一致しているか
月が始まる前にシフトが確定しているか
月の週平均労働時間が40時間を超えていないか
過去のシフト表・給与明細を保存しているか
毎日の出退勤時刻を記録しているか
宿直がある場合、仮眠中の呼び出し記録を残しているか

今日からできること

まず、就業規則を確認しよう。就業規則は、労働者が自由に閲覧できる権利がある(労働基準法第106条)。変形労働時間制の記載内容と、実際のシフト運用が一致しているか。ここをまず突き合わせてほしい。

次に、過去3年分のシフト表・給与明細を手元に集める。賃金請求権の時効は当面3年だ(労働基準法第115条)。捨てずに保存しておけば、3年前までさかのぼって請求できる可能性がある。1日でも早く集め始めたほうがいい。

そのうえで、無料の専門家相談を使ってみてほしい。労働基準監督署(労基署)への相談は無料だ。弁護士・社労士の初回無料相談も利用できる。「請求できるかどうか」の判断は、プロに任せるのが最も確実だ。一人で抱え込まなくていい。


まとめ

「変形労働時間制だから残業代なし」が通用するのは、制度が法律の要件を満たしている場合だけだ。就業規則の記載・シフトの確定時期・週平均40時間の遵守。この3点が有効性の鍵になる。要件を欠いた制度は無効と判断され、1日8時間を超えた時間はすべて残業時間として1.25倍の残業代を請求できる。宿直中の仮眠時間も、待機義務があったと証明できれば労働時間として認められる。

シフト表・出退勤記録・給与明細は、今日から保存を始めてほしい。賃金請求権の時効は原則5年(当面3年)だ(労働基準法第115条)。正しい知識を持っていれば、自分の労働時間と賃金は自分で守れる。会社の説明を鵜呑みにする必要はない。

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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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