「資格を取りたい。でも、仕事を休めば収入が止まる」。この壁の前で動けなくなっている人は多い。
結論から言う。学ぶために休んでも、雇用保険から給付金が出る。
制度の名前は「教育訓練休暇給付金」。現役の社労士として、仕組みと受給条件を順番に整理していく。
この記事で扱うのは、制度の中身、受給できる条件、給付金の金額と日数、対象になる休暇と教育訓練の種類、手続きの流れ、そして見落としやすい注意点だ。上から順に読めば、自分が使えるかどうか判断できる。
教育訓練休暇給付金とはどんな制度?
教育訓練休暇給付金は、雇用保険の制度のひとつだ。スキルアップのために仕事を休むとき、生活費として支給される。休んでいる間は無給になるが、給付金がその分をある程度埋めてくれる。失業給付の「学ぶ版」と考えるとイメージしやすい。
ここは勘違いしやすいので念を押す。原資は会社ではない。国だ。だから会社の景気が悪かろうが、規模が小さかろうが関係ない。条件さえ満たせば受け取れる。
「自分の意志で学ぶ」ことが大前提
この制度には外せない条件がある。会社の業務命令ではなく、自分の意志で取る休暇であること。上司から「取ってみたら?」と勧められること自体は問題ない。ただし、最後に「自分が学びたいから取る」という意思があることが必要だ。会社の都合で行かされる研修は、ここでは対象にならない。
受給できる条件
給付金を受け取るには、次の2つを両方クリアする必要がある。片方だけでは不可だ。
直近2年間の雇用保険加入期間
休暇を始める前の2年間を振り返り、雇用保険の被保険者期間が12か月以上あること。ここでいう1か月とは、賃金支払いの基礎日数が11日以上ある月のことだ。週5日のフルタイムで働いているなら、まず問題なく満たせる。
通算5年以上の算定基礎期間
もうひとつが「算定基礎期間」5年以上。算定基礎期間とは、雇用保険に加入してきた期間の通算だと思えばいい。転職していても合算できる。ポイントは離職から再就職までの間隔だ。前の職場を辞めてから次の仕事につくまでが1年以内なら、前後の期間をつなげて数えられる。
給付金の金額と日数
金額の決まり方は失業給付(基本手当)とほぼ同じだ。休暇開始前6か月の賃金から「賃金日額」を出し、そこから1日あたりの給付額(給付日額)が決まる。つまり、もとの給料が高い人ほど1日あたりの額も大きくなる、という仕組みだ。
もらえる日数は加入期間によって変わる
| 雇用保険の加入期間 | 給付日数 |
|---|---|
| 5年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
受給できる期間は休暇開始日から1年間。この1年の枠のなかで、上の表の日数分を受け取る形になる。
ここは正直に言っておく。育休のような社会保険料免除はない。だから給付金が満額入っても、そこから健康保険と厚生年金の自己負担分は出ていく。受け取る額イコール手元に残る額ではない。事前に差し引きを計算しておくこと。
どんな休暇・教育訓練が対象?
休暇の条件:連続30日以上の無給休暇
休暇は連続30日以上、無給であることが必要だ。あらかじめ「この日は出勤する」と予定を組むことはできない。では出勤したら全部アウトかというと、そうではない。「予定はしていなかったが結果的に出た」という日が出ても、その日が給付の対象外になるだけで、受給資格そのものは失わない。前提として、会社の就業規則や労働協約に教育訓練休暇の規定があることも必要になる。
対象となる教育訓練の種類
対象は意外と広い。大学・大学院・短大・専門学校などの課程、雇用保険の「教育訓練給付金」の指定講座、司法修習や語学留学、海外大学院での学位取得などが含まれる。もっと身近なところでは、TOEICや簿記、ITパスポートの講座も指定講座に入っていることがある。「自分には縁がない」と決めつける前に、一度調べてみる価値はある。
【実践メモ】
自分が受けたい講座が指定講座かどうかは、厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で調べられます。キーワードや分野で検索できるので、まず受けたい講座名を入力してみましょう。
手続きの流れ(労働者がやること)
手続きは会社とハローワークの両方が絡む。流れを追っておく。
会社への申し出と合意
最初にやるのは会社への申し出だ。休暇を取りたいと伝え、日程を調整して合意する。そのうえで「教育訓練休暇取得確認票」に記入し、会社へ提出する。
会社がハローワークに届け出(会社の役割)
ここは会社の仕事になる。休暇開始日から10日以内に、会社がハローワークへ書類を出す。労働者側がやることではない。
ハローワークで受給資格を確定させる
ハローワークから会社経由で書類が戻ってくる。必要事項を書いてハローワークへ提出すると、受給資格が確定する。
30日ごとに日程申告を繰り返す
受給中は30日ごとに「日程申告書」をハローワークへ出す。これを続けることで給付が途切れずに入ってくる。地味だが、ここを止めると給付も止まる。
よくある疑問
- 転職経験があっても受給できますか?
- 条件を満たせば受給できます。前の職場を辞めてから12か月以内に次の仕事についていれば、雇用保険の加入期間を通算できます。合計5年以上になれば条件を満たします。
- 会社に教育訓練休暇制度がない場合はどうすればいいですか?
- まず会社に制度を導入してもらう必要があります。リスキリングへの注目が高まっている今、人事担当者に相談してみる価値はあります。
- 社会保険料はどうなりますか?
- 育児休業と異なり、社会保険料の免除制度はありません。休暇中も健康保険・厚生年金の自己負担分が発生します。給付金の受取額と照らして収支を事前に計算しておきましょう。
- 会社に「資格を取ってきて」と言われて取る休暇は対象ですか?
- 対象外です。業務命令による休暇は受給できません。あくまで「自分の意志で学ぶための休暇」が条件です。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 雇用保険に加入している | □ |
| 直近2年間に被保険者期間が12か月以上ある | □ |
| 雇用保険の通算加入期間が5年以上ある | □ |
| 会社の就業規則に教育訓練休暇制度の規定がある | □ |
| 30日以上連続して休暇を取れる見込みがある | □ |
| 受けたい訓練が対象の教育訓練に該当する | □ |
| 休暇中の社会保険料の自己負担分を準備できる | □ |
今日からできること
動き出しは難しくない。まず、自分の雇用保険の加入期間を確認する。ハローワークの窓口か、マイナポータルで調べられる。
次に、会社の就業規則を見る。教育訓練休暇制度の規定があるかどうかだ。規定がなければ、この給付金は使えない。その場合は人事に相談するところから始める。
そして、受けたい講座が対象かどうか。厚生労働省の教育訓練講座検索システムで「指定講座」に入っているか調べておく。ここまで確認できれば、自分が使えるかどうかの判断はつく。
まとめ
教育訓練休暇給付金は、スキルアップのための休暇中に雇用保険から支給される給付金だ。受給には「直近2年間で12か月以上の被保険者期間」と「通算5年以上の加入期間」が要る。給付日数は加入期間に応じて90日・120日・150日のいずれか。休暇は30日以上連続した無給であること、そして会社の就業規則に制度の規定があることも条件になる。育児休業と違って社会保険料の免除はないので、事前の収支計算は欠かせない。業務命令ではなく、あくまで「自分の意志」で学ぶための休暇であることも忘れてはいけない。
収入が止まる不安をある程度ならしながら、学ぶための休暇を取れる。それがこの制度の値打ちだ。まずは雇用保険の加入期間と就業規則の2点を確認するところから始めてほしい。
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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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