朝7時、すでに疲れている。今日も一人欠員で、担当クラスは20人超。「先生、見て!」が飛び交う中、昨日の残業申請も通っていない。「辞めたい」と頭では思うのに、口から出てこない。
結論から言う。人手不足でも、あなたは辞めていい。民法627条が、退職の権利をすでに保障している。
この記事で分かること:
- 人手不足を理由に退職を引き止めることに法的根拠はない
- 「辞めたら損害賠償」という脅しが通らない理由
- 申し訳ない気持ちを抱えながら、それでも辞める手順
人手不足でも辞める権利は最初からある
民法627条1項はこう書いてある。「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる」。申し入れから2週間で退職の効力が生じる。
就業規則に「1ヶ月前に申し出ること」と書かれていても、就業規則は法律の上に立てない。退職の自由は民法が保障しており、就業規則はその範囲を超えられない。
保育園の人手が足りないのは、法人の採用計画と処遇の問題だ。あなたが解決すべき問題ではない。採用費を惜しんだ・給与が低すぎて人が来ない・そういう経営判断の結果だ。
【実践メモ】退職の意思は必ず書面(退職届)で残す。口頭だけでは「言った・言わない」になる。提出したら自分でもコピーを手元に保管しておくこと。
PR
退職でお悩みなら、弁護士に任せるという選択肢
弁護士法人みやびの退職代行サービス。有給消化・未払い賃金の請求交渉も弁護士が対応するので安心です。
「辞めたら損害賠償」という脅しは原則通らない
現場で時々聞く言葉がある。「あなたが辞めたら保育所が回らなくなる。損害賠償を請求する」というものだ。
通らない。
「辞めた」という事実だけで損害賠償が認められるケースは極めて限定的だ。業務上の機密漏洩・競業行為・引き継ぎを完全に放棄した悪意のある退職、これらがなければ請求は成立しない。
そもそも慢性的な人手不足の責任は法人にある。採用・処遇・定着策に問題があったからこそ人が足りない。その責任を退職者個人に転嫁することを、裁判所は認めない。労働者の退職の自由は、民法のみならず憲法22条(職業選択の自由)によっても保護されている。
【実践メモ】脅しに近い言葉を言われたら、日時と内容をその場でメモに残す。あなた自身が会話の当事者であれば録音することは日本では一般的に違法ではない。後で労基署や社労士に相談するときの材料になる。
申し訳ない気持ちと、辞める権利は矛盾しない
子どもたちへの罪悪感は本物だ。同僚への申し訳なさも本物だ。その感情を否定するつもりはない。
ただ、感情と権利は別の話だ。
あなたが申し訳なさを感じていることと、退職の権利があることは、別々に存在する。限界まで我慢した末に心身が折れて突然倒れる方が、子どもたちにとってはより大きな混乱だ。
厚労省の調査では保育士の離職率は10%を超える水準で推移している。辞めるのはあなただけではない。保育士が次々と辞めていくのは個人の問題ではなく、産業構造と処遇の問題だ。
【実践メモ】「申し訳ない」という感情を持ちながらでも辞めていい。先延ばしにするほど心身のダメージは深くなる。申し訳なさの重さと、限界まで続けたときのリスクの重さを、今一度比べてみることをすすめる。
退職の切り出し方:実際のステップ
退職の意思を最初に伝える相手は、直属の上司(園長または主任)だ。同僚に先に話す必要はない。
伝えるタイミングは就業規則を確認した上で、1ヶ月前が目安だ。就業規則に「2ヶ月前」などと書かれていても、民法627条の2週間を大幅に超える拘束は法的強制力が薄い。
退職届の理由は「一身上の都合」で十分だ。詳しい理由を書く義務はない。どんなに追及されても、「一身上の都合」と繰り返すだけでいい。
直接の申し出が心理的に難しい場合、退職代行サービスという選択肢がある。費用の目安は2〜3万円前後で、弁護士法人が運営するサービスなら未払い残業代の請求交渉も依頼できる。退職届は郵送(配達記録または内容証明)でも提出できる。
【実践メモ】直接手渡しが難しい状況なら、内容証明郵便で退職届を送ることも法的に有効な手段だ。「受け取っていない」と言われるリスクを防げる。
よくある質問
Q. 有給が残っているのに使わせてもらえない
年次有給休暇の取得は労働基準法39条が定める権利だ。退職前に消化する権利もある。「人手が足りないから」という理由は、時季変更権(会社が取得日をずらせる権利)の行使条件を満たさない。退職日以降に振り替える先がないからだ。拒否された場合は労働基準監督署への申告が有効な手段になる。
Q. 保育士資格を返還させると言われた
保育士資格は国家資格だ。雇用主に返還させる法的権限はない。資格証はあなた個人のものだ。そのような要求は完全な誤りであり、従う義務はない。
Q. 自己都合退職で失業給付はもらえるか
自己都合退職の場合、原則として給付制限期間が2ヶ月ある。ただし健康上の理由やハラスメント被害など「特定理由離職者」「特定受給資格者」に該当すれば、制限なしで受給できる。ハローワークで状況を正直に伝えることが重要だ。診断書や記録があれば持参する。
Q. 辞めた後、保育士として転職できるか
保育士の有効求人倍率は全国平均で3倍を超えている(厚労省・令和5年度保育士関係資料)。資格があれば転職先はある。認定こども園・企業内保育所・病院内保育所など、環境も給与も幅がある。同じ資格で全く別の職場環境を選べる。それがあなたの権利だ。
すぐやること3つ
- 就業規則を確認する(退職の申し出期間・残有給日数を把握する)
- 退職届の文面を準備しておく(「一身上の都合により〇年〇月〇日をもって退職いたします」一行で十分)
- 信頼できる人に「辞めることを考えている」と話す(一人で抱え込まない)
まとめ
- 人手不足はあなたを縛る法的根拠にならない(民法627条・憲法22条)
- 「損害賠償請求する」という脅しは原則通らない。辞めただけでは請求は成立しない
- 申し訳なさと退職の権利は矛盾しない。限界まで我慢することと誠実さは別の話だ
次のステップ
辞め方そのもので迷ったら、退職代行の種類と選び方を社労士がまとめた記事が役に立ちます。→ 退職代行とは?3種類と選び方を社労士が解説
あわせて読みたい
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Camila Mofsovich on Unsplash
