「仕事は辞めない。でも、余計なことはしない。」
そんな働き方が「静かな退職(Quiet Quitting)」として広がっています。Z世代を中心に、やりがい搾取に乗らず、契約の範囲内だけで働くという価値観の変化が背景にあります。
結論から言います。「静かな退職」は法律違反ではありません。ただし、リスクがゼロというわけでもない。
この記事では、法律上の権利と現実のリスクを、社労士として正直にセットで伝えます。
「最低限しか働かない」は法律違反か? 答えはノーだ
まず法律の話をします。
契約上の業務をこなしている限り、違法にはなりません。
労働契約とは何か。「決められた仕事をする対価として賃金をもらう」という約束です。それ以上でも、それ以下でもない。「会社のために心身を捧げる」という契約を結んだ人は、ほぼいないはずです。
残業についても同じです。
36協定(さぶろくきょうてい)という労使協定がなければ、会社は法定時間を超えた残業を命じられません。36協定があっても、原則として月45時間・年360時間が上限です。
「定時に帰る」「残業しない」は、正当な権利の行使です。違法でも逸脱でもない。
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人事評価は下がるか? 正直に言う
ここが一番気になるところだと思います。
正直に言います。下がる可能性は、あります。
「違法じゃないのになぜ?」と思うかもしれません。理由はシンプルです。
多くの会社の評価制度には「積極性」「主体性」「チームへの貢献度」といった定性的な項目が含まれています。「最低限しかやっていない」と評価者の目に映れば、これらの項目で低評価がつく可能性は否定できない。
ただし、これも正直に言っておきます。評価制度の裁量は会社に広く認められているのが現実です。「完全に不当だ」と証明するのはかなり難しい。評価トラブルは、記録がないと戦えません。
解雇される可能性はあるか? 「最低限」なら原則として無理だ
契約上の業務をこなしているだけで解雇するのは、原則として違法です。
日本の労働法には「解雇権濫用法理」という強力なルールがあります(労働契約法第16条)。解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要です。
「やる気がなさそう」「積極性が足りない」。これだけでは解雇の理由になりません。
ただし、話が変わるケースがあります。
上司から業務改善の指示を受けたにもかかわらず無視し続ける。チームとして求められる最低ラインを下回るパフォーマンスが続く。こうなると、解雇の正当事由として認められる可能性が出てきます。
「最低限」の水準は、就業規則と業務内容によって変わります。自分の会社の就業規則を一度確認しておくことを勧めます。
よくある疑問 Q&A
- Q: 定時退社を繰り返していたら、配転(部署異動)させられますか?
- A: 会社に配転命令権はあります。ただし、業務上の合理的な必要性が必要です。「定時に帰るから」という理由だけでの不利益配転は、権利濫用として争える余地があります。納得できない場合は労基署や社労士に相談してください。
- Q: 「静かな退職」していることを上司に指摘されました。どう対応すればいい?
- A: まず、契約上の業務をきちんと果たしているかを確認しましょう。果たしているなら、「業務はしっかりやっています」と冷静に伝えてください。感情的になる必要はありません。もし不当な圧力を感じるなら、記録を残しておくことをおすすめします。
- Q: 正社員ではなく契約社員でも同じルールですか?
- A: 基本的な解雇ルールは契約社員にも適用されます。ただし、契約期間満了のタイミングで更新されないケースは「雇止め」と呼ばれ、解雇とは別の問題になります。継続して雇われてきた実態があれば、雇止めにも一定のルールが適用されます。
今すぐやること 3つ
- 就業規則を手に入れて読む。「最低限の業務」の水準が書かれていることがあります。会社のイントラや総務部に請求できます。請求を拒否されたら、それ自体が労働基準法違反です(89条・106条)。
- 業務の記録をつけ始める。何の仕事を、いつ、どの程度こなしたか。評価トラブルになったとき、記録が自分を守ります。手帳でもスマホのメモでも構いません。
- 不安があれば、無料の労働相談を使う。総合労働相談コーナー(全国の労働局・労基署に設置)は無料で相談できます。「自分の状況はどうなのか」を確認するだけでも価値があります。
まとめ
- 契約上の業務をこなす「静かな退職」は、法律違反ではない
- 人事評価が下がる可能性はある。ただし不透明な評価には説明を求める権利がある
- 最低限をこなしているだけでの解雇は、原則として認められない
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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