突然、上司から「始末書を書いてください」と言われた。
「納得できないのに書きたくない」「断ったら解雇される?」
そんな不安を抱えているあなたへ、現役の社会保険労務士がお答えします。
結論から言います。始末書を書くかどうかは、あなた自身が決められます。
会社があなたに始末書を書くよう強制することはできません。これは法律の話です。
この記事でわかること:
- 始末書を拒否した場合に会社が本当にできること・できないこと
- 「再懲戒する」という脅しが有効かどうか
- あなたが今すぐ取るべき具体的な行動
「始末書を出せ」と言われたら、まず就業規則を開こう
会社から「けん責処分」と言われたとき、多くの人はその意味を正確に知りません。
判断の出発点は、処分の名前ではなく就業規則に何と書かれているかです。
「けん責」という名称が使われていても、就業規則に始末書提出の記載がなければ、提出を求める根拠が薄くなります。逆に「戒告」という名称でも、就業規則次第では始末書を求める場合もあります。
一般的な使われ方としては、けん責は「今後を戒めること」と「反省を示す文書の提出」をセットにした処分、戒告は文書や口頭での注意にとどめ、文書提出を求めない処分として区別されることが多いです。ただしこれはあくまで一般的な傾向であり、決定的なのは就業規則の文言です。
就業規則は会社に請求すれば見せてもらえます。
「けん責」の欄に何と書いてあるか。それが出発点です。
始末書を出さなかったら、会社は再び懲戒できるか?
「出さないなら処分を重くする」は通るのか?
始末書を断ったとき、会社からこう言われることがあります。
「提出しないなら、さらに重い処分にする」
これを聞いて、怖くなった方も多いでしょう。
では、法律的にはどうでしょうか。
始末書を出さなかったことだけを理由に、会社が新たな懲戒処分を重ねるのは、実務上かなり難しいと言わざるを得ません。
この問題については学説・実務ともに見解が割れており、認める方向・否定する方向の両方の裁判例が存在します。ただし現在の実務では、否定的に見る立場が多数派になっています。
なぜ再懲戒が難しいのでしょうか。
ひとつには、反省の気持ちを表す文書を会社が強制的に書かせることは、思想・良心の自由(憲法19条)と関わる問題になりえます。
また、仮に再懲戒が法的に認められたとしても、その局面でできる処分の重さには自ずと限界があります。限界を超えれば処分が無効となるリスクを会社側も負うことになり、結果として再懲戒を積み重ねることに実質的な意味がほとんど生まれません。
ただし、人事考課への影響は残る
「再懲戒は難しい」とお伝えしました。
ただし、これで完全に安心とは言えません。
始末書を提出しなかった事実は、人事考課に不利に影響する可能性があります。
再懲戒を認めるかどうかという問題と、不提出の事実を人事評価の記録として残すことができるかどうかという問題は、別の話として扱われています。後者については、否定的な立場からも問題なしとされることが多いのが現状です。
つまり、昇給・賞与・昇格の査定に響くことがあります。
これがリアルなリスクです。ゼロリスクではないことを、頭に入れておいてください。
【実践メモ】
始末書を出さない場合は、「なぜ提出しないのか」を会社に書面で伝え、その内容を記録しておきましょう。「反省していない」と一方的に記録される前に、あなたの言い分を残しておくことが大切です。
会社が「できること」と「できないこと」を整理する
ここで、冷静に整理しておきます。
会社があなたに対してできることはこれです:
- 始末書の提出を「依頼・要求」すること(あくまで要求であり強制ではない)
- 提出しなかったという経緯を社内記録として残すこと
- その記録を人事評価の判断材料のひとつとして活用すること
一方、会社がどうしてもできないことはこれです:
- あなたの手を動かして始末書を書かせること(物理的に不可能)
- 不提出だけを理由とした解雇
- 不提出だけを根拠とした重い懲戒処分(法的に難しい)
「始末書を出さなければ解雇する」という言葉は、通常は実行できません。
解雇には客観的に合理的な理由が必要です(労働契約法16条)。
始末書の不提出だけでは、解雇の理由として認められないのが現実です。
書く?書かない?あなたの状況別の判断基準
「拒否すれば必ず得をする」とは限りません。
状況によって判断が変わります。
書いても問題ないと考えられるケース
処分の内容に事実として納得できる場合。
今後も会社との関係を維持したい場合。
軽微なミスで、反省の意思を示すことが自分の利益になる場合。
こうした状況では、始末書を書くことが必ずしも不利とはいえません。
慎重に考えるべきケース
処分の内容が事実と異なると感じる場合。
自分に非がないと考えられる場合。
後で処分の有効性を争う可能性がある場合。
特に注意してほしいのは、始末書に「事実を認める記述」が入るケースです。
「私は〇〇をしました」と書くことで、後の法的手続きで事実を認めた証拠になる場合があります。
この点は慎重に考えてください。
【実践メモ】
「事実は認めないが、職場に迷惑をかけたことは申し訳なく思う」という趣旨の文書を提出する折衷案もあります。ただし、こうした判断をする前に、社労士や弁護士に相談することをおすすめします。一人で抱え込まないでください。
よくある疑問 Q&A
- Q: 始末書を断ったら懲戒解雇になりますか?
- A: 始末書の不提出だけを理由とした懲戒解雇は、裁判で認められる可能性はほぼありません。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法16条)。「出さないと解雇する」という言葉を聞いても、冷静に対応してください。
- Q: 始末書を出さないと、賞与が減らされますか?
- A: 就業規則に根拠がある場合、査定への影響は完全に違法とはいえません。ただし、根拠のない一方的な減額は問題です。どういう根拠で減額するのかを会社に確認し、説明を求めましょう。
- Q: 口頭で謝れば、始末書を書かなくてもいいですか?
- A: 就業規則が「書面による始末書」を求めている場合、口頭謝罪では要件を満たさないとされる可能性があります。就業規則の文言を確認したうえで判断してください。
- Q: 一度書いた始末書を取り消せますか?
- A: 法律上、自分の意思で提出した始末書を後から取り消すのは原則として難しいです。提出前に内容を十分に確認し、納得できない部分がある場合は専門家に相談することをおすすめします。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 就業規則で「けん責」の定義を確認した | □ |
| 処分の内容・理由を書面で受け取った | □ |
| 処分の事実関係に誤りがないか確認した | □ |
| 始末書を出さない場合のリスクを把握した | □ |
| 会社とのやり取りを日時・内容で記録した | □ |
| 判断が難しい場合は専門家に相談した | □ |
すぐやること 3 つ
- 就業規則を確認する
「けん責」「始末書」の記載がどこにあるか確認してください。提出義務の根拠がそこにあります。 - 会社とのやり取りを記録する
始末書を求められた日時・場所・誰に言われたか。これをメモしておいてください。 - 判断が難しければ専門家に相談する
書いた後では取り返しがつかない場合もあります。迷ったら、書く前に社労士や弁護士に相談してください。
まとめ
- 始末書を書くかどうかは、労働者自身が判断できます
- 会社はあなたに始末書を強制することはできません
- 不提出を理由とした再懲戒は、法的に難しいとされています
- ただし、人事考課への影響は生じる可能性があります
- 処分内容に納得できない場合は、書く前に専門家に相談してください
不当な圧力に黙って従う必要はありません。
あなたには、自分の言葉を守る権利があります。
正しい知識を持つことで、不当な脅しに動じない自分になれます。それがあなたの仕事と生活を守る第一歩です。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

