「名目は請負なのに、指示を出しているのは発注先の社員」
「何年もその状態で働いているけど、これって普通のこと?」
それは「偽装請負」という違法状態かもしれません。
偽装請負は労働者派遣法に違反する違法行為です。
2012年の法改正によって、偽装請負が発覚した場合には直接雇用を求める権利が労働者に与えられました。
この記事では、現役の社会保険労務士が、偽装請負の見分け方から直接雇用を求める手順まで、わかりやすく解説します。
この記事でわかること:
- 偽装請負とは何か、3つの判断ポイント
- 「黙示の労働契約」という考え方と、最高裁が示した現実
- 2012年法改正で生まれた「みなし申込み制度」という武器
偽装請負とは?仕組みをわかりやすく解説
まず「請負」とは何かを説明します。
請負とは、ある仕事の完成を引き受けることです。
発注会社は「成果物」に対してお金を払います。
請負契約では、発注会社は労働者に直接指示を出せません。
作業の進め方や手順は、あくまで請負会社の責任で決めます。
ところが現実には、発注会社の社員が直接「今日はこれをやって」「この順番で進めて」と指示を出しているケースがあります。
これが「偽装請負」です。
「労働者派遣」との違いは?
「労働者派遣」は、派遣会社が雇った人を別の会社(派遣先)で働かせる仕組みです。
派遣先が直接指示を出せる点は、偽装請負の実態と同じです。
ただし派遣には、厚生労働大臣の許可など法律上の手続きが必要です。
偽装請負は「請負」という形をとりながら、実態は「労働者派遣」と変わりません。
つまり、法律上の手続きを踏まずに派遣しているようなものです。
これが違法とされる理由です。
あなたの職場は偽装請負?3つの確認ポイント
偽装請負かどうかは、書類の形式ではなく「実態」で判断されます。
以下の3点を確認してみてください。
ポイント1:誰が作業指示を出しているか
発注会社の担当者から「この作業をして」「この方法でやって」と直接指示を受けている。
そんな状況なら要注意です。
本来、請負契約なら発注会社は「何を作るか」は決められます。
しかし「どうやって作るか」という指揮命令の権限はないはずです。
ポイント2:請負会社の管理者が機能しているか
現場に請負会社の責任者がいるものの、形だけで実際には何もしていない。
こういった状態も、偽装請負の典型的なサインです。
本来、請負会社は現場の管理・指揮を自ら行う責任があります。
管理者が名ばかりで実態を伴わない場合、偽装と判断されやすくなります。
ポイント3:就労先や業務内容を誰が決めているか
どの部署で働くか、どんな仕事をするかを発注会社が決めている。
そんな状況も偽装請負の可能性があります。
労働者の配置や業務の割当ては、請負会社が主体的に決めるのが本来の姿です。
発注会社が実質的にコントロールしているなら、実態は派遣と変わりません。
【実践メモ】
確認した事実は、日付・場所・指示を出した人の役職と名前・指示内容を記録しておきましょう。
手書きメモでも十分です。
後で専門家に相談するとき、この記録が大きな力になります。
「黙示の雇用契約」が認められにくい現実
偽装請負で働いていた労働者がよく期待するのが、「黙示の労働契約」という考え方です。
黙示の労働契約とは、書面での契約がなくても、状況から見て実質的に雇用関係があると認定されることです。
「これほど発注会社から指示を受けているなら、実質的に直接雇われているはず」という論理です。
しかし、この考え方だけに頼るのは危険です。
最高裁が示した「厳しい現実」
2009年12月、最高裁判所は偽装請負の事案において、黙示の労働契約の成立を否定する判断を下しました。
(パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件・最高裁第二小法廷2009年12月18日判決)
裁判所が重視したのは、「双方に雇用関係を結ぶ意思が合致していたかどうか」という点です。
この事案では、請負会社が採用・給与・配置などの面で使用者としての実質的な機能を果たしていたと認定されました。そのため、発注会社との間に黙示の雇用関係が成立していたとは評価できないと判断されました。
つまり、指揮命令を受けていた事実だけでは不十分で、雇用関係を結ぶ意思が双方に認められるかどうかが決め手になるのです。
それでもあきらめなくていい理由
この最高裁判決が出た後、状況は大きく変わりました。
2012年の法改正によって、労働者を守る新しい制度が生まれたからです。
【実践メモ】
黙示の労働契約の主張は難しい道です。
しかし次のセクションで解説する「みなし申込み制度」を使えば、より確実な手段があります。
まずこちらを確認してください。
法改正で生まれた「みなし申込み制度」という武器
2012年、労働者派遣法が改正されました。
この改正で生まれた「みなし申込み制度」は、偽装請負で働く人にとって非常に重要な制度です。
「みなし申込み」を噛み砕いて説明します
発注会社が偽装請負(違法派遣)を行っていた場合、その時点で発注会社はあなたに対して「直接雇用の申込みをしたとみなす」という制度です。
根拠となる条文は、労働者派遣法第40条の6です。
つまり、あなたが「その申込みを承諾します」と意思表示すれば、発注会社との間に雇用契約が成立します。
みなし申込みが適用される主な条件
以下の条件を確認してください。
- 発注会社による直接の指揮命令があった(偽装請負の実態がある)
- 2012年10月1日以降も、その状態が続いていた
- あなたが承諾の意思表示を行った
承諾の期限は、「違法状態が解消されたことを知った日から1年以内」です。
時効がある制度です。気づいたら早めに動くことが大切です。
【実践メモ】
承諾の意思表示は口頭でも有効ですが、「言った・言わない」のトラブルを避けるため、内容証明郵便やメールなど記録が残る方法をお勧めします。
具体的な手順は、労働問題に詳しい社労士か弁護士に相談してから進めましょう。
直接雇用を求めるための準備と手順
「みなし申込みを使いたい」と思っても、準備なしに動くのは危険です。
証拠がなければ、相手は「偽装請負ではない」と主張するかもしれません。
まず証拠を集める
以下の証拠を集めておきましょう。
- 発注会社の社員から受け取った指示(メール・チャットのスクリーンショット)
- 指示を出した人の役職・名前・日時・内容のメモ
- 請負会社の管理者が実質的に機能していないことを示す状況の記録
- 雇用契約書・業務委託契約書など手元にある書類のコピー
相談先を選ぶ
一人で動くのは難しいです。
まず以下の相談先を検討してください。
- 労働局(総合労働相談コーナー):無料で利用できます。行政が直接会社に是正を求めてくれます
- 社会保険労務士:申請手続きのサポートや戦略の相談ができます
- 労働問題専門の弁護士:労働審判・訴訟まで含めた強力なサポートが得られます
よくある疑問 Q&A
- Q: 偽装請負かどうか、自分で確認できますか?
- A: ある程度は可能です。発注会社の社員から直接作業指示を受けているか、請負会社の管理者が名ばかりになっていないかが主なチェックポイントです。ただし最終的な判断は、専門家への相談をお勧めします。
- Q: 労働局に告発したら、解雇や契約打ち切りになりませんか?
- A: 労働局への申告を理由とした不利益取扱いは、法律で禁止されています。ただし現実的なリスクがゼロとは言えません。匿名での相談や、弁護士同席での申告も選択肢に入れてください。
- Q: 発注会社が直接雇用を拒否したらどうなりますか?
- A: みなし申込みへの承諾通知に対して発注会社が拒否した場合でも、法的には雇用関係が成立しているとみなされます。この場合は労働審判や裁判での解決を検討することになります。弁護士への相談が必要なステップです。
- Q: 請負会社との雇用契約はどうなりますか?
- A: 偽装請負があったとしても、請負会社との雇用契約は原則として有効なままです。発注会社への直接雇用を求める際には、請負会社との関係をどうするかも含めて、専門家と相談しながら進めることをお勧めします。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 発注会社の社員から直接作業指示を受けている | □ |
| 作業の手順・方法を発注会社が決めている | □ |
| 請負会社の管理者が形だけで実態を伴っていない | □ |
| 2012年10月以降も同じ状態が続いている | □ |
| 指示や命令を受けた記録が手元にある | □ |
| 労働局または専門家への相談を検討した | □ |
すぐやること 3 つ
- 今日から指示の記録をつけ始める:日付・指示を出した人の役職と名前・指示内容を毎日メモします
- 労働局の総合労働相談コーナーに問い合わせる:無料で相談できます。「偽装請負かもしれない」と伝えるだけでOKです
- みなし申込み制度の承諾期限を確認する:違法状態を知った日から1年以内という期限があります。早めの行動が重要です
まとめ
- 発注会社から直接指示を受ける「偽装請負」は、労働者派遣法に違反する違法行為
- 裁判で「黙示の労働契約」を認めてもらうのはハードルが高い
- 2012年法改正の「みなし申込み制度(派遣法40条の6)」により、直接雇用を求める権利が生まれた
- 承諾の意思表示には「違法状態を知った日から1年以内」という期限がある
- 証拠の記録を今すぐ始め、労働局や専門家に相談することが大切
偽装請負という仕組みに気づいたとき、あなたは一人ではありません。
法律はあなたの味方です。
正当な雇用関係のなかで働く権利を取り戻すことが、あなたとあなたの家族の暮らしと未来を守ることに直結しています。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Tom Audagna on Unsplash

