トラック事故で1500万円請求された|最高裁が認めた会社に分担させる方法

労働契約の義務

仕事中に事故を起こしてしまい、被害者から損害賠償を求められている。そんな状況で「全額自分が払わないといけないのか」と青ざめていませんか。

結論から言います。業務中の事故で、会社があなたに全額を負担させることは法律上認められません。会社にも責任の一端があります。

現役の社会保険労務士として多くの労働相談に関わってきた筆者が、この問題を解説します。この記事を読めば、以下のことが分かります。

  • 会社があなたに全額請求できない理由
  • あなたが先に払ったとき、会社に取り返せる「逆求償」の権利
  • 今すぐ取るべき具体的な行動

仕事中の事故でも、あなたが全額負担する必要はない

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業務中に起こした事故で、被害者から賠償を求められる場合があります。

「仕事中の事故は全部自分の責任だ」と感じる人は多いです。

しかし、それは間違いです。

法律には「損害の公平な分担」という考え方があります。事故の背景に会社の事情もあるなら、損害を労働者だけに押し付けるのは不公平だという原則です。

📌 ポイント:会社はあなたを使って利益を得ています。その利益の裏側にあるリスクは、会社も一緒に引き受けるべき。それが法律の基本的な考え方です。

会社が費用を請求してくる「求償権」とは何か

会社が被害者に損害を支払った後、その費用をあなたに請求してくることがあります。

これを「求償権の行使」といいます。

ただし、この求償権には法律上のブレーキがかかっています。

全額をあなたに転嫁することは、原則として認められていません。

あなたの負担を減らす方向に働く事情

裁判所は損害額を決める際に、さまざまな事情を総合的に判断します。以下のような事情は、あなたの負担が軽くなる方向に考慮されます。

  • 会社がどのような業種・規模で、あなたにどんな業務を任せていたか
  • 過重労働や無理なシフトなど、会社側の管理体制に問題がなかったか
  • 会社が損害保険に加入していなかった場合(リスク管理の怠慢として、会社側の責任が増す)
⚠️ 注意:故意による行為や、著しく悪質な行為が原因の損害は、この法的保護が及ばない場合があります。「うっかりミス」と「意図的な行為」では法律上の扱いが大きく変わります。

【実践メモ】

会社から全額請求されたら、まず「全額を請求できるわけではない」というスタンスで交渉しましょう。感情的に謝り続けて念書にサインする前に、弁護士か社労士に相談することを強くおすすめします。

あなたが先に払ったとき「逆求償」で取り返せる

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状況によっては、会社より先にあなたが被害者に損害を払うケースがあります。

そのとき「払い損になるのでは…」と不安になる方が多いです。

安心してください。あなたには、会社が負うべき分を取り返す権利があります。

これを「逆求償」といいます。

逆求償を認めた最高裁判決(福山通運事件)

令和2年2月28日、最高裁判所第2小法廷が重要な判断を下しました。

業務中の事故で被害者に賠償を行った労働者が、会社に対して逆求償を求めた事案です。

最高裁は、会社は労働者の活動によって利益を得る立場にあり、事業を拡張することで第三者へのリスクも増大させている以上、損害は労働者と会社が公平に分担すべきであるとの考え方を示しました。その結果、労働者が先に賠償を済ませた場合でも、会社が本来負うべき分を請求できるという逆求償の権利が認められました。

この判決が出るまでは、「会社は労働者の代わりに払っているだけで、本来の責任者は労働者だ」という考え方が有力でした。

しかし、最高裁はその考え方をはっきりと否定しました。

✅ やること:被害者への支払いが発生した場合、振込明細・裁判記録・和解書面など、支払いを証明する書類を必ず手元に保管してください。逆求償の際に不可欠な証拠になります。

どのくらい取り返せるのか

逆求償でいくら取り返せるかは「損害の公平な分担」の観点から判断されます。

業種の特性・会社の安全管理の状況・保険の加入状況などを総合的に見て、会社の負担割合が算定されます。

たとえば、こんなケースを想像してください。

業務用の車両を使う仕事で、会社が保険に一切加入していなかったとします。

この場合、「万一の損害をどう分散させるか、会社は何も考えていなかった」ということになります。

会社側のリスク管理が甘いほど、あなたが逆求償で取り返せる金額が大きくなる可能性があります。

【実践メモ】

逆求償の請求権には時効があります。権利が発生したと知ったときから原則5年以内(当面3年という見方もあります)に動く必要があります。「いつか請求しよう」と先延ばしにせず、早めに専門家に相談してください。

身元保証人(家族)への影響はどうなるか

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入社時に「身元保証書」を求められた方も多いと思います。

損害賠償問題で、親や配偶者が巻き込まれないか心配になりますよね。

身元保証については、身元保証に関する法律(身元保証法)による特別な制限があります。

保証期間・保証限度額・更新手続きなどに、厳格なルールが設けられています。

また、労働者本人の賠償責任が制限されれば、それに連動して身元保証人への請求額も抑制される傾向にあります。

📌 ポイント:身元保証書には「期間の定め」が必要です。期間の定めがない保証は3年が上限(身元保証法2条)。また無限定の保証は公序良俗違反として無効とされることがあります。

【実践メモ】

身元保証契約の内容(期間・限度額・対象範囲)を今すぐ確認しましょう。契約書が手元にない場合は会社に開示を求めることができます。保証人である家族とも内容を共有しておくと安心です。

よくある疑問 Q&A

Q: 会社から「全額払え」と言われた。断ることはできますか?
A: 断ることができます。業務中の事故に関して、会社が全額を労働者に負担させることは判例上認められていません。「損害の公平な分担」の原則があり、信義則上相当な範囲のみ請求できるとされています。不当な全額請求には応じず、専門家に相談してください。
Q: 事故直後に「全額払います」という念書を書かされました。有効ですか?
A: 状況によって異なりますが、強迫・錯誤を理由に取り消せる場合があります。また、法律の限界を超えた部分は念書があっても無効とされることがあります。署名してしまった後でも、弁護士に相談する価値があります。
Q: 逆求償はどこにどう請求すればいいですか?
A: まず会社に対して書面で請求します。会社が応じない場合は、労働審判や民事訴訟で解決を図ることになります。請求額が60万円以下であれば少額訴訟という選択肢もあります。弁護士への相談が現実的です。
Q: 「業務中かどうか微妙」な場面で起きた事故はどう扱われますか?
A: 「業務の執行中」かどうかは、作業内容・会社の指示の有無・移動経路の実態などから総合判断されます。会社が「業務外だ」と言っても、実態が業務と密接に関連していれば業務中と認められることがあります。判断が難しい場合は専門家に確認してください。

チェックリスト:損害賠償を請求されたときに確認すること

確認項目 チェック
事故発生時の状況(日時・場所・経緯)を記録したか
業務命令・指示の証拠(メール・指示書等)を保管しているか
会社が損害保険に加入していたかどうか確認したか
会社から一方的な「全額負担」の念書を求められていないか
先に損害を支払った場合、その支払い記録を保管しているか
身元保証契約の期間・限度額を確認したか
弁護士・社労士への相談を検討したか

すぐやること 3 つ

  1. 事故の状況を今すぐメモに残す
    日時・場所・業務内容・会社からの指示内容を書き留めてください。記憶は時間が経つほど薄れます。スマートフォンのメモで構いません。
  2. 会社の保険加入状況を確認する
    業務用の車両・施設・賠償責任保険に会社が加入していたかを確認しましょう。未加入の場合、会社側の責任が重くなる可能性があります。
  3. 弁護士か社労士に相談する
    会社から損害賠償を求められた場合も、逆求償を検討している場合も、一人で判断しないでください。早めの相談が、結果を大きく左右します。

まとめ

  • 業務中の事故で、会社が労働者に全額の損害賠償を負担させることは認められない
  • 「損害の公平な分担」の原則により、会社も責任の一部を負う
  • 労働者が先に賠償を済ませた場合、会社に「逆求償」を請求できる(福山通運事件・最高裁令和2年2月28日判決)
  • 会社が安全対策や保険加入を怠っていた事情は、会社の責任を重くする要素になる
  • 故意や著しく悪質な行為には、この保護が及ばない場合もある
  • 身元保証人(家族)への責任も、法律上の制限があり無制限ではない
  • 記録の保全と早期の専門家相談が、最も重要な行動です

仕事中の事故は、あなたの心身を消耗させ、家族に不安を与え、生活を脅かします。しかし正しい知識を持って行動すれば、その損害を最小限に抑えることができます。あなたには、法律という盾があります。一人で抱え込まないでください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Vitaly Gariev on Unsplash

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