食中毒で従業員が賠償?責任の限界を社労士解説

懲戒

2026年6月19日、長野県立科町のホテルで高校生を含む男女110人が集団食中毒になりました。原因はウエルシュ菌。調理部門に3日間の営業停止命令が出ています。(出典:Yahoo!ニュース

このニュースを見て、ふと不安になる方がいるはずです。

「もし自分の職場で食中毒が起きたら、自分も賠償させられるの?」

結論から言います。食中毒の一次的な責任は会社にあります。従業員個人に全額を押し付けることは、法律上認められません。

現役社会保険労務士の立場から、3つのポイントで整理します。

  • 食中毒の法的責任は会社が負うのが原則
  • 従業員への賠償請求には「限度」がある
  • 懲戒処分にも法律上の制限がある

食中毒の責任は、まず「会社」が負う

食品を扱う事業者には、法律上の義務があります。

食品衛生法第3条はこう定めています。食品等事業者が食品の安全確保に責任を持つ、と。つまり衛生管理の義務者は会社(事業者)です。

今回の長野のケースでも同じです。営業停止命令はホテルに出ています。従業員個人に処分が下るわけではありません。

📌 ポイント:保健所の行政処分も、刑事責任の追及も、まず「事業者(会社)」に向けられます。従業員個人がいきなり矢面に立つ構造にはなっていません。

では、会社が「お前のせいだ」と従業員に責任を転嫁しようとしたらどうなるか。

ここに法律の壁があります。

従業員への賠償請求——「全額」は認められない

会社が従業員に損害を請求することを「求償(きゅうしょう)」と言います。

この求償に、最高裁は明確な限界を設けています。

茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日判決)という重要判例があります。

内容はこうです。使用者は「信義則上相当な限度」でのみ従業員に求償できる、というものです。

⚠️ 注意:「損害の全額を弁償しろ」は認められません。裁判所は会社の規模・従業員の給与水準・損害の性質・衛生指導体制など総合的に判断し、求償額を制限します。

背景にあるのは「報償責任の法理」という考え方です。

会社は従業員の働きで利益を得ています。だから業務中に生じた損害のリスクも、会社が相当程度負うべきです。これが法律の基本的な考え方です。

衛生管理体制を整えるのは会社の義務です。その体制が不十分だったなら、損害は会社も共に負うべきです。

懲戒処分——「食中毒を出した」だけでは解雇できない

賠償責任とは別に、懲戒処分も気になります。

解雇・減給・降格——会社は自由にこれらを行えるのでしょうか。

答えはノーです。

労働契約法第15条はこう定めています。懲戒処分は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ無効になる、と。

📌 ポイント:懲戒処分には就業規則上の根拠が必要です。処分の重さは過失の程度・会社の指導体制・過去の実績を総合判断して決まります。

例えばこんなケースを想定してください。

会社が衛生管理マニュアルを整備していなかった。衛生教育も行っていなかった。その状態で食中毒が発生した。この場合、従業員個人の過失は小さいと評価されます。

解雇はほぼ無効になるでしょう。

一方、意図的に期限切れ食材を使った、複数回の警告を無視した——こうした故意や著しい重過失があれば、重い処分が認められることもあります。

✅ やること:普段から衛生管理の指示・教育記録を手元に残しておきましょう。「会社から衛生指導を受けたか・受けていないか」という事実が、いざという時に有力な証拠になります。

よくある疑問 Q&A

Q:食中毒を起こしたら解雇されますか?
A:食中毒を起こしただけを理由にした解雇は、多くの場合無効です。解雇が有効になるには故意・重過失・隠蔽行為など重大な事情が必要です。就業規則の懲戒条項を必ず確認してください。
Q:損害額が大きい場合、全額弁償させられますか?
A:最高裁判例上、全額の求償は認められません。裁判所は「信義則上相当な限度」に求償額を制限します。給与水準を大幅に超えるような請求は認められにくいです。
Q:会社が衛生教育をしていなかった場合は?
A:会社の管理体制が不十分なら、従業員の責任は大きく軽減されます。マニュアルの不存在・教育未実施の事実を証明できれば、有力な反論になります。

すぐやること 3つ

  1. 衛生管理の指示・マニュアルの有無を記録する——どんな指導を受けたか、受けていないかを今のうちにメモしておく
  2. 懲戒処分を受けたら就業規則を確認する——処分の根拠条文を確認し、不当なら異議を申し立てる権利がある
  3. 賠償請求を受けたら一人で対応しない——労働基準監督署・社会保険労務士・弁護士に相談する

まとめ

  • 食中毒の一次責任は会社(事業者)にある。食品衛生法上これは明確
  • 従業員への損害賠償請求は最高裁判例により「相当な限度」に制限される
  • 懲戒処分には就業規則の根拠と相当性が必要。「食中毒を起こした」だけでの解雇は難しい

PR

職場のストレス、一人で抱えていませんか?

公認心理師(国家資格)によるオンラインカウンセリングで、仕事や人間関係の悩みを相談できます。

オンラインカウンセリング【Kimochi】で相談する ›

PR

今の働き方、このままでいいのか迷っていませんか?

キャリアのプロがあなたの強み・価値観を整理し、納得のいくキャリアプランを一緒に考えます。初回相談は無料です。

キャリアコーチング【ポジウィルキャリア】に無料相談する ›

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Pylyp Sukhenko on Unsplash

タイトルとURLをコピーしました