60歳を過ぎてから事業を始める人が、これまでで一番多くなっています。定年で会社を去ったあと、雇われるのではなく自分で看板を出す。そういう選択が珍しくなくなりました。
帝国データバンクの調査(出典:Yahoo!ニュース)によると、2025年の新設法人数は15万6,525社と過去最多を更新しました。前年比1.8%増で3年連続の増加です。
結論から言います。シニア起業には、失業保険や公的融資など使える制度が確かにあります。知らずに動くと、もらえたはずのお金を取り逃します。
現役の社会保険労務士として、シニア起業で押さえておくべき制度と手続きを、忖度なしで解説します。
シニア起業急増の背景を社労士が分析
なぜ、これほど増えているのか。理由は3つに絞れます。
1つ目は、働く期間がそのまま延びたこと。70歳まで現役、というのが建前ではなく現実になりました。同じ長く働くなら、会社の都合に振り回されるより自分で事業を持ったほうがいい。そう考える人が増えています。
2つ目は、開業のハードルが下がったこと。店舗も在庫もなく、自宅とパソコンだけで始められる仕事が山ほどあります。昔のように開業資金で何百万も用意する必要がない。
3つ目は、お金の不安です。これが一番大きい。年金だけで老後を乗り切れると本気で思っている人は、もうほとんどいません。だから自分で稼ぐ手段を持とうとする。当然の判断です。
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失業保険受給中の起業で知らないと損する制度
失業保険をもらいながら起業の準備を進めている人。あなたは再就職手当を受け取れる可能性があります。
再就職手当とは、失業保険の受給期間が残っているうちに就職または起業をしたときに出る一時金です。残った日数に応じて、まとまった額が一度に入ります。再就職には起業も含まれる。ここを知らない人が多い。
再就職手当の計算方法
支給残日数が3分の2以上残っている場合:残日数×70%×基本手当日額
支給残日数が3分の1以上3分の2未満の場合:残日数×60%×基本手当日額
例えば、基本手当日額が5,000円で残日数が120日あるとします。3分の2以上残っているので70%。120日×70%×5,000円で、42万円が一括で入る計算です。動くのが早いほど、残日数が多いほど、受け取る額は大きくなります。
高年齢雇用継続給付金との関係
60歳以降も働き続けるなら、高年齢雇用継続給付金も選択肢に入ります。ただし、ここで一つ大事な点があります。
起業すると、あなたは雇用保険の被保険者ではなくなります。つまり、この給付金は使えません。会社員として残って給付金を取りにいくか、独立して再就職手当を取りにいくか。両取りはできない。どちらが自分の手元に多く残るか、数字で比べてから決めてください。
シニア起業で使える融資制度と手続き
日本政策金融公庫には、シニア向けの起業融資があります。
「シニア起業家支援資金」は55歳以上が対象。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。民間の銀行が定年世代に簡単には貸さないことを考えると、これは大きい。
融資の条件
以下のいずれかに該当する必要があります。
- 新規開業時の年齢が55歳以上
- 雇用の創出を伴う事業を始める
- 技術やサービスの向上につながる事業を始める
金利は基準金利から優遇されます。返済期間も設備資金で20年以内と長め。月々の負担を抑えながら立ち上げられる設計です。
開業届と税務署への手続き
個人事業主として始めるなら、開業から1ヶ月以内に開業届を税務署へ。
このとき、青色申告承認申請書も一緒に出すこと。後回しにすると損します。要件を満たせば最大65万円の特別控除が受けられる。出すだけで税金が変わる書類を、わざわざ後回しにする理由はありません。
従業員を雇う場合の労働保険の手続き
人を雇う予定があるなら、労働保険への加入は義務です。任意ではありません。
労働保険は2つの保険でできています。
労災保険:業務中のケガや病気を補償する保険
雇用保険:失業時の生活を支える保険
従業員を1人でも雇ったら、労災保険は必須。雇用保険は、週20時間以上働く人がいれば加入します。「家族みたいなものだから」と未加入で済ませる経営者がいますが、いざ事故が起きたときに泣くのは働く側です。最初から正しく入れておく。それが雇う側の最低限の責任です。
定年後の健康保険はどう選ぶ?
定年退職してから起業する場合、健康保険をどうするかで毎月の出費が変わります。ここは必ず比べてください。選択肢は3つ。
①任意継続被保険者制度
退職前に入っていた健康保険を、最大2年間続けられる制度です。
保険料は退職前の約2倍になります。これまで会社が半分払ってくれていた分が、まるごと自分に乗るからです。ただし上限額があるので、現役時代に高収入だった人はそこまで跳ね上がりません。
②国民健康保険
市区町村が運営する健康保険です。
保険料は前年の所得で決まります。だから起業初年度は、まだ収入の高かった前職の所得で計算され、想定より高くつくことがあります。「独立したのに保険料が下がらない」のはこれが理由です。
③家族の扶養に入る
配偶者や子どもの扶養に入る方法です。
年収130万円未満(60歳以上は180万円未満)なら扶養に入れます。保険料の負担はゼロ。起業直後で収入がまだ小さいなら、これが一番安く済みます。使える条件なら、迷わず使うべきです。
よくある疑問Q&A
- Q: 65歳以降でも起業支援制度を使えますか?
- A: はい、使えます。シニア起業家支援資金は年齢上限がありません。再就職手当も65歳未満なら受給可能です。ただし、雇用保険の受給期間は限られるため早めの行動が大切です。
- Q: 起業した場合、年金はもらえますか?
- A: 年金は受給できます。ただし、在職老齢年金の仕組みにより、収入が多いと年金が減額される場合があります。個人事業主の場合は事業所得が対象になります。
- Q: 法人と個人事業主、どちらがおすすめですか?
- A: 売上規模によります。年間売上が1,000万円未満なら個人事業主が有利です。それを超える場合は法人化を検討しましょう。税務署や社労士に相談することをおすすめします。
すぐやること3つ
- 失業保険を受給中の方は、ハローワークで再就職手当の相談をする
- 日本政策金融公庫に融資相談の予約を取る(事業計画書を準備)
- 健康保険の3つの選択肢を比較検討する(保険料を計算してもらう)
まとめ
- シニア起業は年々増加しており、豊富な経験と人脈が武器になる
- 再就職手当で失業保険の残日数の60〜70%を一括受給できる
- 55歳以上なら日本政策金融公庫のシニア起業家支援資金を活用できる
- 従業員を雇う場合は労働保険への加入が義務
- 健康保険は任意継続・国保・扶養の3択から最適な制度を選ぶ
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