「定年後、あと数年は今の会社で働きたい」。そう考えて再雇用を選んだ人へ。
契約更新のたびに、来年も続けられるのかと落ち着かない。そういう状況にいる人は少なくない。
結論から言う。定年後の再雇用でも、会社が好きなタイミングで一方的に雇止めできるわけではない。ただし、ある条件が重なると雇止めが有効と認められてしまう。ここを誤解している人が本当に多い。
現役の社会保険労務士として、この記事では実際の裁判例をもとに「雇止めが認められやすい状況」と「自分を守るための行動」を整理する。
読み終えるころには、定年後再雇用の雇止めに関する法的ルール、裁判例から見えてくる「雇止めが有効になる条件」、そして再雇用期間中の今から打てる手が分かるはずだ。順に説明していく。
定年後再雇用の「雇止め」とは何か
定年後の再雇用は、多くの場合「有期雇用契約」で結ばれる。1年ごと、半年ごとに契約を更新する形が一般的だ。この更新を会社が「しない」と決めることを雇止めという。解雇とは法律上の扱いが別物だが、仕事を失うという結果は同じだ。むしろ「契約が切れただけ」という顔で済まされる分、本人が泣き寝入りしやすい。そこが問題だと考えている。
とはいえ、すべての雇止めがひっくり返せるわけでもない。どんな状況だと雇止めが認められやすいのか。次で具体的に見ていく。
雇止めが有効と判断されやすい状況
裁判例を並べていくと、雇止めが有効とされたケースには共通点がある。大きく2つだ。
長期間にわたって就業できない状態が続いている
体調不良で欠勤が続き、出勤できた日より休んだ日のほうが多い。そんな状態が長く続いているのに、「もう働けます」という医師の証明が出てこない。こうなると「就労が著しく困難な状態」とみなされ、雇止めの根拠になりやすい。
指摘を受けた問題が改善されないまま続いている
以前から注意されていた言動があり、再雇用後も上司から「直してほしい」と求められている。それでも変わらない。この状態だと「改善の見込みなし」と判断され、雇止めの根拠に上乗せされることがある。
裁判例から学ぶ:何が分岐点になったのか
東京高裁令和5年12月19日判決(キヤノン事件・原判決:東京地裁令和5年6月28日)を取り上げる。この事案では、定年後の再雇用社員への雇止めが有効と判断された。一審・控訴審のどちらでも労働者側の請求は退けられている。労働者の味方として残念な結果だが、だからこそ学べることがある。
再雇用契約の期間中、体調不良を理由とした欠勤が長く続いた。その間、仕事に復帰できる状態であることを示す医療機関の証明は出されなかった。さらに、正社員時代から繰り返し指摘されていた問題のある言動が、再雇用後も改善されなかった。
裁判所はこれらを総合的に見て、雇止めには客観的な合理性があると結論づけた。つまり「欠勤が長期化していた」かつ「復帰できると示せなかった」という2点の組み合わせが、雇止めを有効にした決め手だったということだ。
【実践メモ】
体調不良で休むことは権利です。休んでいる間も、「復帰の意思と見通し」を会社に示し続けることが大切です。主治医に「いつ頃復帰できそうか」を確認し、定期的に会社へ状況を報告する習慣をつけましょう。
雇止めを防ぐために今すぐできること
休職中も会社とのつながりを絶やさない
体調を崩して休む必要が出たら、まず主治医にかかる。そのうえで、職場の担当者に回復状況と復帰の見通しを定期的に伝える。これだけだ。「いつ頃戻れそうか」を伝え続けることが、雇止めリスクを下げる一番のポイントになる。連絡を絶ってしまうと、会社に「復帰の意思がない」と受け取られかねない。そこが命取りになる。
会社からの指導・注意は必ず記録に残す
口頭での注意は、後から「言った・言わない」の水掛け論になる。指摘を受けたら、日時・内容・誰から言われたかを、その日のうちにメモする。あなたが改善に向けてどう動いたかも、あわせて残しておくと力になる。記憶は薄れる。記録は残る。
不当な雇止めには異議を唱える権利がある
雇止めを通知されても、すぐに諦める必要はない。「雇止めの理由を書面で教えてください」と求める権利がある。労働契約法第19条により、更新への合理的な期待が認められる場合、合理的な理由のない雇止めは無効になり得る。会社の言い分をそのまま飲む必要はない。
【実践メモ】
雇止めの通知を受けたら、内容を書面・メール・録音(可能であれば)で記録してください。その後、労働組合・労働基準監督署・社労士・弁護士のいずれかへ早めに相談することをおすすめします。
よくある疑問
- 再雇用契約がまだ1回も更新されていなくても、雇止めは無効にできますか?
- 更新回数だけで判断するわけではありません。「無期雇用と同視できる状態」や「更新への合理的な期待」があったかどうかも考慮されます。契約書の文言や会社側のこれまでの言動が重要な証拠になります。
- 体調不良による欠勤が続いています。雇止めを避けるにはどうすればいいですか?
- 主治医から定期的に診断書をもらい、回復状況と復帰見通しを会社へ報告し続けることが有効です。「復帰する意思がある」という事実を記録に残した形で示すことが大切です。
- 雇止め通知の後でも撤回させることはできますか?
- できる場合があります。雇止めに合理的な理由がなければ、労働契約法第19条に基づき無効を主張できます。通知を受けたらできるだけ早く専門家(社労士・弁護士)へ相談してください。
- 契約書に「会社の都合で更新しない場合がある」と書いてあります。従うしかないですか?
- 契約書の文言だけで決まるわけではありません。契約更新の経緯や会社の言動によっては、雇止めが無効と判断されることがあります。専門家に確認することをおすすめします。
自分の状況を確認するチェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 再雇用契約書のコピーを手元に保管してあるか | □ |
| 欠勤中、会社へ定期的に回復状況を報告しているか | □ |
| 主治医から復職の見通しについて確認を取っているか | □ |
| 会社から受けた指導・注意を日付とともに記録しているか | □ |
| 雇止め通知を受けた場合、書面で理由の明示を求めたか | □ |
| 労働組合・社労士・弁護士など相談できる先を把握しているか | □ |
今日からできること
まず、再雇用契約書のコピーを手元に確保する。契約書は雇止めに異議を唱えるときの基本書類だ。手元にないなら、会社の人事担当に複写を求める。これが出発点になる。
欠勤が続いているなら、主治医に復帰の見通しを聞く。「いつ頃戻れるか」という見通しを持つことが、会社との建設的な対話の第一歩になる。
会社とのやり取りを文書化する習慣をつける。口頭での指摘や約束はすぐにメモに残す。それが、後の交渉を支える土台になる。
まとめ
定年後の再雇用は有期雇用契約だ。だから契約終了のタイミングで雇止めのリスクがついて回る。ただし合理的な理由がない雇止めは無効にできる(労働契約法第19条)。キヤノン事件(東京高裁令5.12.19)では、長期欠勤が続き復帰の見通しが示されなかったことが、雇止め有効の決め手になった。逆に言えば、休んでいる間も回復状況の報告と医師の証明を続けることが、自分を守る行動になるということだ。
正しい知識を持ち、記録を整えたうえで専門家に相談する。この3つが揃えば、雇止めに対して泣き寝入りせず対処できる。雇止め通知を受けたら、書面での理由開示を求め、早めに専門家へ相談してほしい。動くのが早いほど、選べる手は増える。
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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

