「体と心の限界で会社を休んでいたら、解雇すると言われた。」
そんな状況で、途方に暮れていませんか。
一人で抱え込まないでください。
結論をはっきりお伝えします。精神的な不調が原因の欠勤を、すぐに解雇の理由にすることはできません。
会社には、解雇の前にやらなければならない義務があります。この記事では、最高裁判所の判決をもとに、その義務と、今あなたが取れる行動を具体的に解説します。
- メンタル不調による欠勤が「正当な理由のない無断欠勤」にならないケース
- 解雇の前に会社が果たすべき法的な義務
- 今すぐできる証拠の残し方と専門家への相談方法
心の不調で休んでいても、すぐ解雇にはできない
まず大前提を確認しましょう。
会社には、従業員の健康を守る義務があります。
これを「安全配慮義務」といいます(労働契約法5条)。
この義務は、体の病気だけに限りません。
心の健康を守ることも含まれています。
つまり、精神的な不調を抱える従業員を放置して処分することは、この義務に反する可能性があります。
「無断欠勤だから解雇できる」は通用しないケースがある
多くの会社の就業規則には、こんな条項があります。
「正当な理由のない無断欠勤が一定日数続いた場合、懲戒処分とする。」
でも、ここで重要なのが「正当な理由のない」という部分です。
精神的な不調が原因で出社できない場合、それは「正当な理由がある欠勤」と判断されることがあります。
つまり、就業規則の懲戒事由にそもそも該当しないケースがあるということです。
会社が解雇の前にやるべきこと
最高裁判所は、会社が解雇・懲戒処分に踏み切る前に、やるべき手順があると示しています。
まず、医師による健康状態の確認を行うこと。
次に、その結果に基づいて治療の勧奨や休職の検討を行うこと。
この手順を踏まずにいきなり懲戒処分を行うことは、適切とはいえません。
【実践メモ】
もし解雇通告を受けたら、会社にこう聞いてみてください。「健康診断の実施や休職の検討はしていただきましたか?」この一言が、後の交渉で大きな意味を持つことがあります。
最高裁が「解雇は無効」と判断した事件(日本HP事件)
この問題について、最高裁判所が明確な基準を示した判決があります。
日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁第2小法廷・平成24年4月27日判決)です。
事件のあらまし
ある会社の従業員が、精神的な不調により自分の判断で出社をやめました。
会社は調査を行いましたが、従業員が納得できる対応を取りませんでした。
その後も欠勤が続いたため、会社は就業規則を根拠に退職を迫る処分を行いました。
従業員はこれを拒否し、処分の無効を争う裁判を起こしました。
最高裁は、会社側の処分を無効と判断しました。
最高裁の判断のポイント
最高裁が示した考え方は、次のとおりです。
精神的な不調が疑われる従業員が欠勤を続けている場合、会社にはまず医学的な確認を行う義務がある。
その結果に応じて、休職などの対応を検討するべきである。
その手順を踏まずに懲戒処分を行うことは、労働者への対応として適切とはいえない。
つまり、「欠勤=懲戒処分」という単純な図式は通用しないということです。
会社には、労働者の心身の状態を確認し、適切な対処を取る義務が先にあります。
【実践メモ】
「日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日判決)」という判例名をメモしておいてください。弁護士や社労士に相談するとき、この判例を根拠として示すことで、相談がスムーズに進みます。
今すぐできる3つの行動
「会社から解雇を言われた」「欠勤が続いて不安だ」という方へ。
今すぐ動けることを、順番にお伝えします。
行動① 医療機関を受診して状態を確認する
まず、精神科または心療内科を受診することをお勧めします。
医師に現在の状態を診てもらい、可能であれば診断書を発行してもらってください。
診断書があると、欠勤の正当性を会社に示しやすくなります。
行動② 会社に休職制度の適用を書面で申し出る
多くの会社の就業規則には、病気療養のための「休職制度」があります。
欠勤のままにしておくより、休職制度を活用することで解雇リスクを下げられます。
就業規則を確認し、メールや書面で会社に申し出てみてください。
もし会社が休職を認めなかった場合は、その事実を必ず記録しておきましょう。
後の交渉や法的手続きで重要な証拠になります。
【実践メモ】
申し出はメールで行いましょう。「診断書を提出したいので、休職制度の適用をご検討いただけますか」という一文だけでも十分です。送信記録が残るメールは、口頭より格段に証拠力があります。
行動③ 会社とのやりとりをすべて記録する
会社から「来なければ解雇」「無断欠勤扱いにする」といった連絡があった場合は、必ず記録を残してください。
メールはスクリーンショット、電話は日時と内容をメモします。
解雇通知書を受け取った場合は、絶対に捨てないでください。
よくある疑問 Q&A
- Q: 診断書がなくても解雇は無効になりますか?
- A: 可能性があります。最高裁の考え方では、診断書がなくても精神的な不調が疑われる状況であれば、会社はまず医学的な確認や休職の検討を行う義務があります。診断書の有無だけで結論は決まりません。まず専門家に相談してください。
- Q: 就業規則に「無断欠勤○日で懲戒解雇」と書いてあります。もう無駄ですか?
- A: 諦めないでください。就業規則に懲戒事由が定められていても、精神的な不調が原因の欠勤は「正当な理由のない無断欠勤」にあたらないと判断されるケースがあります。就業規則の条項があっても、その適用が無効となる余地があります。
- Q: 解雇通告を受けてしまいました。今からでも争えますか?
- A: 争えます。解雇通知を受け取ってからでも、解雇の効力を争うことは可能です。労働審判・裁判などの手段があります。ただし時間が経つほど対応が難しくなることもあるため、早めに弁護士または社労士に相談することをお勧めします。
- Q: 労働基準監督署に相談すれば動いてもらえますか?
- A: 相談は無料でできます。ただし、解雇の有効性を直接争う手続きは、労働審判や裁判で行うことになります。まず相談して状況を整理し、必要に応じて弁護士・社労士への依頼を検討してみてください。
今の状況を確認しよう チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 会社から解雇・退職勧奨の連絡を受けた | □ |
| 精神科・心療内科を受診している(または予約した) | □ |
| 会社の就業規則で「休職制度」を確認した | □ |
| 会社とのやりとり(メール・電話の内容)を記録している | □ |
| 解雇通知書・退職勧奨の書類を保管している | □ |
| 弁護士・社労士・労働相談窓口への相談を検討している | □ |
すぐやること 3 つ
- 精神科・心療内科を受診する まず自分の状態を専門家に診てもらいましょう。診断書があると、その後の交渉で有利に動けます。
- 会社に休職をメールで申し出る 口頭ではなくメールで記録を残しながら申し出ることが大切です。「休職制度の適用を検討いただけますか」の一言から始めましょう。
- 労働相談の窓口に連絡する 労働基準監督署・都道府県の労働相談センターは無料で相談できます。一人で抱え込まず、まず声に出してみてください。
まとめ
- 精神的な不調による欠勤は、就業規則上の「正当な理由のない無断欠勤」にあたらないケースがある
- 会社は解雇・懲戒処分の前に、医学的な確認と休職の検討を行う義務がある(労働契約法5条・安全配慮義務)
- 最高裁(日本HP事件・平成24年判決)は、この義務を果たさない解雇を無効と判断している
- 診断書がなくても、精神的な不調が疑われる状況であれば保護される可能性がある
- 解雇通告を受けても、諦めずにすぐ専門家に相談することが最大の対処法
心が折れているときに、さらに解雇の恐怖を突きつけられるのは、あまりにも理不尽な状況です。
でも、法律はあなたの側にあります。
体と心が限界でも、あなたには守られる権利があります。その権利を、どうか諦めないでください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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