精神不調による欠勤で解雇、最高裁が示した会社の義務を社労士が解説

懲戒

「体と心の限界で会社を休んでいたら、解雇すると言われた。」
そんな状況で、途方に暮れていませんか。
一人で抱え込まないでください。

結論をはっきりお伝えします。精神的な不調が原因の欠勤を、すぐに解雇の理由にすることはできません。

会社には、解雇の前にやらなければならない義務があります。この記事では、最高裁判所の判決をもとに、その義務と、今あなたが取れる行動を具体的に解説します。

  • メンタル不調による欠勤が「正当な理由のない無断欠勤」にならないケース
  • 解雇の前に会社が果たすべき法的な義務
  • 今すぐできる証拠の残し方と専門家への相談方法

心の不調で休んでいても、すぐ解雇にはできない

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職場でストレスを抱えて悩む労働者のイメージ

まず大前提を確認しましょう。
会社には、従業員の健康を守る義務があります。
これを「安全配慮義務」といいます(労働契約法5条)。

この義務は、体の病気だけに限りません。
心の健康を守ることも含まれています。
つまり、精神的な不調を抱える従業員を放置して処分することは、この義務に反する可能性があります。

📌 ポイント:労働契約法5条は「会社は従業員の生命・身体・精神の安全に配慮しなければならない」と定めています。この配慮を怠った解雇は、無効と判断される可能性があります。

「無断欠勤だから解雇できる」は通用しないケースがある

多くの会社の就業規則には、こんな条項があります。
「正当な理由のない無断欠勤が一定日数続いた場合、懲戒処分とする。」

でも、ここで重要なのが「正当な理由のない」という部分です。
精神的な不調が原因で出社できない場合、それは「正当な理由がある欠勤」と判断されることがあります。
つまり、就業規則の懲戒事由にそもそも該当しないケースがあるということです。

⚠️ 注意:「診断書がないから欠勤は正当じゃない」と会社に言われても、諦めないでください。診断書がなくても、精神的な不調が疑われる状況であれば、会社にはまず対応する義務があります。

会社が解雇の前にやるべきこと

最高裁判所は、会社が解雇・懲戒処分に踏み切る前に、やるべき手順があると示しています。

まず、医師による健康状態の確認を行うこと。
次に、その結果に基づいて治療の勧奨や休職の検討を行うこと。
この手順を踏まずにいきなり懲戒処分を行うことは、適切とはいえません。

【実践メモ】

もし解雇通告を受けたら、会社にこう聞いてみてください。「健康診断の実施や休職の検討はしていただきましたか?」この一言が、後の交渉で大きな意味を持つことがあります。

最高裁が「解雇は無効」と判断した事件(日本HP事件)

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裁判所の法律文書と判決のイメージ

この問題について、最高裁判所が明確な基準を示した判決があります。
日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁第2小法廷・平成24年4月27日判決)です。

事件のあらまし

ある会社の従業員が、精神的な不調により自分の判断で出社をやめました。
会社は調査を行いましたが、従業員が納得できる対応を取りませんでした。
その後も欠勤が続いたため、会社は就業規則を根拠に退職を迫る処分を行いました。

従業員はこれを拒否し、処分の無効を争う裁判を起こしました。
最高裁は、会社側の処分を無効と判断しました。

最高裁の判断のポイント

最高裁が示した考え方は、次のとおりです。

精神的な不調が疑われる従業員が欠勤を続けている場合、会社にはまず医学的な確認を行う義務がある。
その結果に応じて、休職などの対応を検討するべきである。
その手順を踏まずに懲戒処分を行うことは、労働者への対応として適切とはいえない。

つまり、「欠勤=懲戒処分」という単純な図式は通用しないということです。
会社には、労働者の心身の状態を確認し、適切な対処を取る義務が先にあります。

📌 ポイント:この判決では、精神疾患を証明する診断書がなくても、精神的な不調が疑われる状況なら会社の対応義務が生じると示しています。「診断書がないから無効にならない」とは言い切れません。

【実践メモ】

「日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日判決)」という判例名をメモしておいてください。弁護士や社労士に相談するとき、この判例を根拠として示すことで、相談がスムーズに進みます。

今すぐできる3つの行動

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メモを取りながら準備をする手元のイメージ

「会社から解雇を言われた」「欠勤が続いて不安だ」という方へ。
今すぐ動けることを、順番にお伝えします。

行動① 医療機関を受診して状態を確認する

まず、精神科または心療内科を受診することをお勧めします。
医師に現在の状態を診てもらい、可能であれば診断書を発行してもらってください。
診断書があると、欠勤の正当性を会社に示しやすくなります。

✅ やること:「心療内科 予約不要 (お住まいの地名)」で検索してみてください。初診当日に受診できるクリニックも多くあります。

行動② 会社に休職制度の適用を書面で申し出る

多くの会社の就業規則には、病気療養のための「休職制度」があります。
欠勤のままにしておくより、休職制度を活用することで解雇リスクを下げられます。
就業規則を確認し、メールや書面で会社に申し出てみてください。

もし会社が休職を認めなかった場合は、その事実を必ず記録しておきましょう。
後の交渉や法的手続きで重要な証拠になります。

【実践メモ】

申し出はメールで行いましょう。「診断書を提出したいので、休職制度の適用をご検討いただけますか」という一文だけでも十分です。送信記録が残るメールは、口頭より格段に証拠力があります。

行動③ 会社とのやりとりをすべて記録する

会社から「来なければ解雇」「無断欠勤扱いにする」といった連絡があった場合は、必ず記録を残してください。
メールはスクリーンショット、電話は日時と内容をメモします。
解雇通知書を受け取った場合は、絶対に捨てないでください。

⚠️ 注意:「解雇通知書」は解雇の有効性を争うための最重要証拠です。受け取ったら写真を撮り、安全な場所に保管してください。

よくある疑問 Q&A

Q: 診断書がなくても解雇は無効になりますか?
A: 可能性があります。最高裁の考え方では、診断書がなくても精神的な不調が疑われる状況であれば、会社はまず医学的な確認や休職の検討を行う義務があります。診断書の有無だけで結論は決まりません。まず専門家に相談してください。
Q: 就業規則に「無断欠勤○日で懲戒解雇」と書いてあります。もう無駄ですか?
A: 諦めないでください。就業規則に懲戒事由が定められていても、精神的な不調が原因の欠勤は「正当な理由のない無断欠勤」にあたらないと判断されるケースがあります。就業規則の条項があっても、その適用が無効となる余地があります。
Q: 解雇通告を受けてしまいました。今からでも争えますか?
A: 争えます。解雇通知を受け取ってからでも、解雇の効力を争うことは可能です。労働審判・裁判などの手段があります。ただし時間が経つほど対応が難しくなることもあるため、早めに弁護士または社労士に相談することをお勧めします。
Q: 労働基準監督署に相談すれば動いてもらえますか?
A: 相談は無料でできます。ただし、解雇の有効性を直接争う手続きは、労働審判や裁判で行うことになります。まず相談して状況を整理し、必要に応じて弁護士・社労士への依頼を検討してみてください。

今の状況を確認しよう チェックリスト

確認項目 チェック
会社から解雇・退職勧奨の連絡を受けた
精神科・心療内科を受診している(または予約した)
会社の就業規則で「休職制度」を確認した
会社とのやりとり(メール・電話の内容)を記録している
解雇通知書・退職勧奨の書類を保管している
弁護士・社労士・労働相談窓口への相談を検討している

すぐやること 3 つ

  1. 精神科・心療内科を受診する まず自分の状態を専門家に診てもらいましょう。診断書があると、その後の交渉で有利に動けます。
  2. 会社に休職をメールで申し出る 口頭ではなくメールで記録を残しながら申し出ることが大切です。「休職制度の適用を検討いただけますか」の一言から始めましょう。
  3. 労働相談の窓口に連絡する 労働基準監督署・都道府県の労働相談センターは無料で相談できます。一人で抱え込まず、まず声に出してみてください。

まとめ

  • 精神的な不調による欠勤は、就業規則上の「正当な理由のない無断欠勤」にあたらないケースがある
  • 会社は解雇・懲戒処分の前に、医学的な確認と休職の検討を行う義務がある(労働契約法5条・安全配慮義務)
  • 最高裁(日本HP事件・平成24年判決)は、この義務を果たさない解雇を無効と判断している
  • 診断書がなくても、精神的な不調が疑われる状況であれば保護される可能性がある
  • 解雇通告を受けても、諦めずにすぐ専門家に相談することが最大の対処法

心が折れているときに、さらに解雇の恐怖を突きつけられるのは、あまりにも理不尽な状況です。
でも、法律はあなたの側にあります。
体と心が限界でも、あなたには守られる権利があります。その権利を、どうか諦めないでください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash

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