移動時間は残業代に含まれる?外回り社員の労働時間性と認定条件を現役社労士が解説

移動時間

毎朝、始業時刻より前に電車に乗って取引先へ向かう。夜は客先から直帰して終業時刻を過ぎる。そんな毎日を送っているのに、移動中の時間は給料に含まれないと言われていませんか?

結論から言います。条件次第で、移動時間は労働時間として認められます。

この記事では、法的な判断基準と、記録の残し方を解説します。

移動時間が労働時間として認められる条件、認められる場合・認められない場合の具体例、そして残業代を請求するための記録の残し方を順に説明します。

移動時間が「労働時間」になる条件とは

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そもそも「労働時間」って何?

労働時間とは、会社の指揮命令のもとにある時間のことです。

最高裁判所も、この考え方を認めています(三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決)。

つまり、会社に「動け」と言われた時間は、労働時間としてカウントされるべきです。時間帯は関係ありません。始業前でも、終業後でも同じです。

📌 ポイント:「会社の指揮命令のもとにあるかどうか」が判断の核心です。時間帯(始業前・終業後)は、それだけでは判断材料になりません。

移動時間の判断は「自由に使えるか」がカギ

厚生労働省は、移動時間について明確な解釈を示しています(平成16年8月27日基発第0827001号)。

判断のポイントは、会社が業務のために移動を命じたこと、そしてその移動時間を自分の好きなように使えないこと、の2点が重なるかどうかです。この2つが重なったとき、移動時間は労働時間になります。

「自由に使えない」とはどういうことか。移動中に業務メールの確認を求められている、乗り換えが多くほとんど座れないといった状況がこれにあたります。

【実践メモ】

「移動中に何をしていたか」を毎日メモしておきましょう。業務メールを確認した・電話対応をしたなどの記録が、後から大きな証拠になります。スマホのメモアプリで十分です。

労働時間に「なる場合」と「ならない場合」

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労働時間として認められるケース

以下のような状況では、移動時間が労働時間になる可能性が高いです。移動ルートや交通手段を会社が指定している場合、移動中に電話対応やメール確認など業務への対応を求められている場合、乗り換えが多く実質的に自由に使える時間がない場合、移動時間が短く休む間もなく次の訪問先へ向かう場合がこれにあたります。こうした実態があれば、会社の指揮命令下にあると評価されます。

✅ やること:「移動ルートを指定された」「移動中に電話対応した」などの事実を日付とともに記録しておきましょう。具体的な内容があるほど、後の交渉や請求に有利になります。


労働時間として認められにくいケース

一方、移動時間が長く自由に過ごせる状況がある場合、ルートや手段を自分で自由に選べる場合、移動中に業務をするよう求められていない場合は、労働時間にならないこともあります。

ただし、「認められにくい」というだけです。実態をきちんと記録しておけば、後から状況を覆せる可能性があります。

⚠️ 注意:「移動時間は給料に含まない」と会社に言われても、それが法律的に正しいとは限りません。会社の言い分をそのまま受け入れないようにしましょう。

「みなし労働時間制」という壁に当たったときは

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外回り社員によく適用される制度

会社によっては、「事業場外みなし労働時間制」という制度を適用しているところがあります(労働基準法第38条の2)。

これは、外出先での労働時間が把握しにくい場合に、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす制度です。実際の勤務時間にかかわらず、定められた時間分しか給与の計算対象にならない運用がされることがあります。

実はこの制度、使えない場面がある

この制度には、適用できない条件があります。

厚生労働省の解釈(昭和63年1月1日基発第1号)によれば、当日の訪問先や業務内容を会社が細かく指示して送り出し、指示通りに動いて帰社するような場合は、みなし制は使えないとされています。

つまり、会社がしっかり管理している外回り業務には、みなし制は本来適用されないのです。

📌 ポイント:「うちはみなし労働時間制だから残業代は出ない」と言われても、会社が細かく業務指示を出している実態があれば、その主張が通らない可能性があります。

【実践メモ】

みなし労働時間制が適用されているかどうかは、就業規則と労使協定を確認すればわかります。会社には就業規則の開示義務があります。「就業規則を見せてください」と伝えれば、拒否できません。内容が難しければ、社労士に相談してみてください。

残業代を取り戻すための準備を始めよう

時効に注意——記録は早いほど有利

残業代の請求には、時効があります。

現在の労働基準法では、賃金請求権の時効は原則5年(当面の間は3年)です(労基法第115条)。過去3年分まで請求できる可能性があります。記録は今すぐ始めるほど有利です。

記録すべき内容は、移動の開始時刻・終了時刻、訪問先と移動手段、会社からの移動指示の内容(メール・チャット・口頭で言われたこと)、移動中に会社から連絡があった場合の記録などです。

✅ やること:会社からの業務指示は、できるだけメールやチャットでもらうようにしましょう。口頭で言われた場合は、「先ほどご指示いただいた件ですが〜」と確認メッセージを送ってテキスト化しておくと証拠になります。

一人で悩まず相談してほしい

記録が集まったら、専門家に相談することを検討してください。労働基準監督署は無料で相談でき、必要に応じて会社への是正指導も行います。社会保険労務士は証拠の整理や請求手続きをサポートしてもらえます。訴訟も視野に入れる場合は、労働専門の弁護士への相談が選択肢になります。一人で抱え込まず、専門家の力を借けることも大切です。

よくある疑問

自宅から訪問先へ直行した場合の移動時間は労働時間になりますか?
自宅から訪問先への直行は、通常の通勤と同じ扱いになることが多く、労働時間と認められないケースが一般的です。ただし、会社が特定のルートや手段を指定し、移動中にも業務対応を求めている場合は別途判断されます。個別の状況は専門家に確認してみてください。
移動時間が労働時間かどうか、最終的に誰が決めるのですか?
最終的には労働基準監督署や裁判所が判断します。ただし、まずは記録をもとに会社と交渉することが第一歩です。記録が充実しているほど、有利な立場で話し合うことができます。
みなし労働時間制が適用されていると言われました。残業代は請求できませんか?
会社が業務内容を細かく指示していた実態があれば、みなし制の適用自体が無効になる可能性があります。就業規則・労使協定の内容と実態を照らし合わせて、社労士や弁護士に確認してみることをお勧めします。
過去の移動時間について、今から記録を集めるのは難しいです。どうすればいいですか?
スマホの位置情報・交通系ICカードの利用履歴・メールやチャットの送受信記録なども証拠として活用できます。完璧でなくても、集められるものから集めることに意味があります。

チェックリスト

確認項目 チェック
会社から移動ルートや交通手段を指定されている
移動中に電話対応やメール確認など業務を求められている
乗り換えが多く、移動時間を自由に使える余裕がない
当日の訪問先・スケジュールを会社から細かく指示されている
移動の開始・終了時刻を毎日記録している
会社からの業務指示の記録(メール・チャット)を保存している
就業規則・労使協定の内容を確認した

今日からできること

まず、今日から移動時間の記録を始めましょう。「出発時刻・到着時刻・移動先・移動手段」をスマホにメモする習慣をつけてください。

次に、会社からの指示をテキストで残しましょう。口頭で言われた業務指示は、その後すぐに確認メッセージを送ってテキスト化しておくと証拠になります。

就業規則も確認しておきましょう。「みなし労働時間制」の適用の有無と内容を確認してください。会社は就業規則の開示を断ることができません。


まとめ

移動時間は、会社から業務上の移動を命じられかつ自由に使えない場合は労働時間になります。判断の決め手は「会社の指揮命令下にあるか」「移動時間を自分の意思で使えるか」です。「みなし労働時間制だから残業代は出ない」という主張が通らないケースもあります。

賃金請求権の時効は原則5年(当面3年・労基法第115条)であり、記録は今すぐ始めるほど有利です。移動時間が労働時間に該当するかどうかは、正しい知識と記録をもとに確認することができます。疑問を感じたら、労働基準監督署・社労士・弁護士に相談することも有効です。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Debby Hudson on Unsplash

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