海外赴任命令は拒否できる?中国リスクと安全配慮義務

労災・安全衛生

2026年6月24日、日本に衝撃が走った。出典:Yahoo!ニュース(朝日新聞)によると、中国遼寧省大連に勤務する日系電機大手の日本人男性社員が、2026年5月下旬に中国当局に拘束されたという。レアアース加工品を中国国外に輸出しようとした疑いだ。

「自分も中国赴任を命じられたら?」「断れるのか?」。そんな不安を持った人のために、社会保険労務士の立場から解説する。

結論を先に言う。危険を伴う海外赴任命令は、条件次第で拒否できる。

  • 会社の配転命令権にはどんな限界があるか
  • 安全配慮義務とは何か、会社に何を求められるか
  • 拒否した場合、解雇リスクはあるか

海外赴任命令は「絶対服従」ではない

会社には社員を転勤・赴任させる権限がある。「配転命令権」と呼ばれる使用者の権利だ。

ただし、この権限には限界がある。最高裁は「東亜ペイント事件(昭和61年7月14日判決)」で、配転命令の有効性を判断する3つの基準を示した。①業務上の必要性があること、②不当な動機・目的がないこと、③労働者への著しい不利益がないこと、だ。

「著しい不利益」には、生命・身体への危険も含まれる。当局に拘束されるリスクがある地域への赴任命令は、この基準に問われる可能性がある。

📌 ポイント:配転命令が「著しい不利益」を伴うと判断されれば、その命令は無効になりうる。無効な命令を拒否することは正当な行為だ。すべての海外赴任命令に黙って従う必要はない。

リスクの程度次第で、法的に拒否できる余地がある。それが最高裁が示した基準の意味だ。

会社には「安全配慮義務」という法的義務がある

労働契約法第5条に明記されている。「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しながら労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」。これが安全配慮義務だ。

わかりやすく言うと、労働者の命と体を守ることは会社の法的義務だ。「業務命令だから文句を言うな」で押し切れない場面がある。

⚠️ 注意:今回のような「現地の輸出規制に触れて拘束されるリスク」は、日本国内の通常業務では考えにくいリスクだ。会社がこのリスクを社員に事前説明しないまま赴任を命じることは、安全配慮義務に反する可能性がある。

会社が果たすべき具体的な義務はこれだ。

  • 現地の治安・法的リスクを社員に事前に説明すること
  • 外務省の「海外安全情報」を確認・共有すること
  • 緊急時の帰国支援・家族への連絡体制を整備すること

これらを怠った場合、会社は安全配慮義務違反に問われる可能性がある。費用負担や損害賠償に発展したケースも過去にある。

拒否したら解雇される?現実を直視する

「断ったら首になる」と恐れる人は多い。正直に言う。そう単純ではない。

法的に無効な命令を断った行為は正当行為だ。正当行為を理由とした解雇は、不当解雇になりうる。会社が「命令拒否だから解雇」と強行しても、労働審判や裁判で争える可能性がある。

✅ やること:まず外務省「海外安全情報」で赴任先の危険レベルを確認する。危険レベル2(不要不急の渡航は止めるよう勧告)以上なら、拒否の根拠として活用できる場合がある。そして「〇〇の理由により赴任が困難です」とメールや書面で記録を残すこと。

感情的に「嫌です」と口で言うだけでは弱い。理由を明記し、会社にリスク説明を求める姿勢が、自分を守ることになる。

よくある疑問 Q&A

Q: 赴任命令を断ったら、降格や減給をされることはある?
A: 正当な理由のある拒否への不利益取扱いは、問題のある人事措置として争える可能性がある。ただし証拠が命綱だ。書面やメールで意思表示を残しておくことが最初のステップになる。
Q: 会社が「業務命令だから従え」と一点張りだった場合は?
A: 社内のコンプライアンス窓口・人事部門への申告が第一歩だ。それでも解決しない場合は、各都道府県の労働局(総合労働相談コーナー)・社労士・弁護士への相談が有効だ。一人で会社と戦おうとしないことが重要だ。
Q: すでに中国に赴任中で拘束リスクを感じている。帰国を求めることはできる?
A: できる。現地の安全が脅かされる状況では、安全配慮義務に基づき、会社は帰国を含む保護措置を取る義務がある。「帰国させてほしい」という申し出はメール等の記録が残る形でしておくことを強く推奨する。

すぐやること 3つ

  1. 外務省「海外安全情報」で赴任先の危険レベルを今すぐ確認する
  2. 会社にメールで「現地の安全配慮体制と緊急時の対応方針」の説明を文書で求める
  3. 一人で抱え込まず、労働局・社労士・弁護士に早めに相談する

まとめ

  • 海外赴任命令は配転命令権に基づくが、生命への危険を伴う場合は「著しい不利益」として拒否できる余地がある(東亜ペイント事件・最高裁昭和61年)
  • 安全配慮義務(労働契約法第5条)により、会社は赴任前のリスク説明と安全体制の整備が法的に義務づけられている
  • 拒否の意思は必ず書面で残す。口頭だけでは後から証拠にならない

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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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