「転職したい。でも、辞めたら帰国させられると言われた」
これは、相談に来た外国人労働者から実際に聞いた言葉だ。
その脅しは嘘だ。違法だ。
2027年4月から始まる育成就労制度では、一定期間が過ぎれば本人の意志で転籍(転職)することが認められる。
社会保険労務士として外国人労働者からの相談を受ける中で、制度の誤解や権利の侵害を繰り返し見てきた。この記事では、育成就労制度で転籍できる条件とタイミング、会社が果たすべき義務、そして権利が守られない場合の動き方を説明する。
育成就労制度とは?基本から押さえる
2024年6月に出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律が公布された。2027年4月から「育成就労」という新しい在留資格に切り替わる。長年続いた技能実習制度は廃止される。
従来の制度との大きな違い
技能実習制度の最大の問題は、転職できないことだった。
職場に問題があっても、逃げる場所がなかった。
それが変わる。
育成就労の在留期間は原則3年間。この3年間で、特定技能1号という上位資格に移行できる技能レベルを目指す。試験に合格すれば、日本でより長く働き続けられる。
転籍(転職)はいつできる?
育成就労では、一定期間が過ぎれば本人の意志で転籍できる。「転職できない」という縛りは、法律上なくなる。
転籍制限期間について
ただし最初から自由に転職できるわけではない。制度では分野ごとに転籍制限期間が設けられる。原則1年を目標に、各分野で1〜2年の範囲内で設定される見通しだ。
制限期間中でも転籍できるケース
制限期間中でも例外がある。会社側に重大な問題がある場合だ。
賃金不払い・ハラスメント・違法な労働条件。これらがあれば制限期間中でも転籍が認められる可能性がある。
【実践メモ】
「辞めたら強制帰国だ」という脅しは違法だ。転籍を拒否されたり脅されたりした場合は、出入国在留管理庁か労働基準監督署にすぐ相談してほしい。やり取りは記録しておくこと。後で決定的な証拠になる。
会社はどんな支援をしなければならないか
育成就労では、受け入れ企業に義務が課される。会社がこの義務を果たさない場合、あなたにはそれを求める権利がある。権利だ。お願いではない。
日本語教育の機会
入国から1年以内に、日本語能力試験N5程度(日本語教育参照枠A1相当)の試験を受けることが求められる。3年間でN4程度(A2相当)の習得が目標だ。
生活サポート
住居・医療・行政手続きのサポートも企業の役割だ。病院や役所の手続きで言語の壁がある場合、企業が地域の支援機関と連携してサポートすることが制度の趣旨として定められている。宗教や文化的な背景への配慮も含まれる。
【実践メモ】
会社が動かない場合は、居住する市区町村の窓口や国際交流協会に連絡してみてほしい。多言語対応の相談窓口を持つ自治体が増えている。企業が対応しないこと自体、相談の材料になる。
権利が守られていないサインと相談先
以下のような状況は、すでに問題が起きている。
- 日本語教育の機会を一切提供してくれない
- 転籍制限期間が終わっても転職を認めてくれない
- 契約書と異なる仕事をさせられている
- 残業代が払われない
- パスポートを会社に保管されている
相談先
動き方は一つだ。一人で解決しようとしない。以下の窓口に連絡する。
- 労働基準監督署:賃金不払い・違法な労働条件の相談
- 出入国在留管理庁:転籍・在留資格に関する相談
- 外国人技能実習機構(OTIT):技能実習中の問題(育成就労開始後は所管機関が変わる予定)
- 法テラス(0570-078374):法律相談・弁護士紹介(費用の立替制度あり)
- 地域の国際交流協会:生活相談・多言語対応
よくある疑問
- 育成就労と技能実習は何が違いますか?
- 最大の違いは転籍(転職)の権利だ。技能実習は原則転職が認められていなかった。育成就労では一定期間後に本人の意志で転籍できる。特定技能へ移行すれば長期的に日本でキャリアを積める。
- 転籍制限期間中でも転職できる場合はありますか?
- 会社側に重大な問題(賃金不払い・ハラスメントなど)がある場合は、制限期間中でも転籍が認められる余地がある。問題が起きている場合は相談機関にすぐ連絡してほしい。
- 日本語が苦手でも相談できますか?
- できる。多くの相談窓口で多言語対応をしている。英語・中国語・ベトナム語・タガログ語などに対応した窓口がある。法テラスや地域の国際交流協会も多言語での相談を受け付けている。
- 日本語能力試験に合格できなかったらどうなりますか?
- 試験の合否が直ちに強制帰国につながるわけではない。特定技能1号への移行には試験合格が必要だが、企業には日本語学習の機会を提供する義務がある。支援が不十分な場合は改善を求めることができる。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 自分の在留資格と有効期限を把握している | □ |
| 労働条件通知書(契約書)を手元に持っている | □ |
| 転籍制限期間の終了日を確認・メモしている | □ |
| 毎月の給与明細を保存している | □ |
| パスポートを自分で管理している(会社に預けていない) | □ |
| 会社から日本語学習の機会が提供されているか確認した | □ |
| 緊急時の相談先(労働基準監督署・法テラス)を把握している | □ |
今日からできること
労働条件通知書を今すぐ確認してほしい。給与・労働時間・転籍に関する条件が書かれた書類を手元に置いておく。契約と実態が違う場合の証拠になる。
転籍制限期間の終了日は書面で確認する。受け入れ機関や監理団体に聞いて、答えを書面でもらう。口頭だけでは証拠にならない。
法テラス(0570-078374)と最寄りの労働基準監督署の番号を今すぐスマートフォンに保存する。問題が起きたとき、番号を調べている時間はない。
まとめ
育成就労制度は2027年4月から始まる。一定期間後に本人の意志で転籍できる権利が認められ、企業には日本語教育・生活支援の義務がある。「辞めたら帰国させる」「パスポートを返さない」は違法だ。権利が守られていないなら、労働基準監督署・法テラスに相談する手段がある。
制度を知ることが、最初の一歩になる。
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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

