業務中に車事故、修理費全額自腹はおかしい?

紛争解決・権利行使

レンタカーで駐車中にドアをぶつけられた。社用車で配達中に接触事故を起こした。

Yahoo!ニュースでは、レンタカー事故の修理費負担(免責金額・NOCチャージ)が話題になっています。(出典:Yahoo!ニュース

これが業務中の話なら、「修理費は全額自腹で払え」と会社から言われる労働者が全国にいます。

結論から言います。業務中の事故で、全額を労働者に負わせるのは法律上認められません。

現役社会保険労務士として、このテーマを正直に解説します。

  • 業務中の事故は、まず会社が責任を負う(使用者責任)
  • 全額請求は最高裁判例で否定されている
  • 給与からの一方的な控除は労働基準法違反になりうる

業務中の事故は「会社の責任」が原則──使用者責任とは

業務中に起こした事故は、まず会社が責任を負います。

これを「使用者責任」といいます。

民法715条に定められたルールです。

会社のために運転した結果の事故。その損害は、雇った会社が負うのが法律の原則です。

📌 ポイント:社用車・業務用レンタカーでの事故には、民法715条の「使用者責任」が適用されます。会社が一次的に損害賠償責任を負うのが法律の建前です。

では、労働者はまったく関係ないのか。

そう言い切れないのも事実です。

会社は一度支払った損害を、労働者に「求償(きゅうしょう)」できます。

求償とは、支払った分を後から請求し返すことです。

ただし、ここに重要な制限があります。

全額請求は認められない──最高裁の明確な判断

では、会社は労働者に損害の全額を求償できるのか。

最高裁は「全額の求償はできない」と判断しています。

茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日判決)という有名な判例があります。

業務中のトラック事故で、会社が全額を請求した事件です。

最高裁はこう述べました。

「損害の全部を労働者に負わせるのは、信義則上許されない」。

会社はビジネスのリスクを自ら引き受けるべきだ、ということです。

この裁判では、労働者の負担は損害額の4分の1にとどめられました。

📌 ポイント:労働者が負う責任の範囲は、過失の程度・業務の危険性・会社の保険加入状況などで判断されます。通常の不注意による事故であれば、全額請求は認められないのが通常です。

特に、会社が任意保険に加入していれば話は変わります。

保険で補填できる損害を労働者に負わせるのは、不当と判断される可能性が高い。

「保険があるのに自腹」と言われたら、まず保険内容を書面で確認してください。

⚠️ 注意:「故意の事故」「無免許・飲酒運転」など、労働者に重大な過失がある場合は大きな責任を負うことがあります。通常の業務上の不注意とは話が別です。

給与から勝手に引いたら労働基準法違反

「給与明細を見たら、修理費が差し引かれていた」。

こういうケースが実際に起きています。

これは、労働基準法24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性があります。

賃金は全額を直接払わなければならない。これが法律のルールです。

会社が一方的に損害賠償として給与を差し引くことは、原則禁止されています。

差し引くには、労使協定(会社と労働者代表の書面合意)が必要です。

それがなければ、全額支払いを求める権利があります。

✅ やること:給与から修理費が引かれていた場合は、給与明細・雇用契約書・就業規則を確認してください。「労使協定の有無」と「控除の根拠」を会社に書面で問い合わせましょう。

よくある疑問 Q&A

Q: 業務中にレンタカーで事故。NOC(ノンオペレーションチャージ)は自腹になる?
A: 業務中の使用であれば、NOCを含む損害は原則として会社が負担すべきです。個人に全額請求するなら、会社の保険内容と請求の根拠を書面で確認してください。
Q: 「事故を起こしたら修理費全額自腹」という誓約書にサインした。有効?
A: 労働基準法16条は損害賠償の予定を禁止しています。「全額自腹」を事前に約束させる誓約書は無効になる可能性が高いです。サインしていても、諦める必要はありません。
Q: 業務中の事故で刑事責任は?会社が肩代わりしてくれる?
A: 刑事責任・免許の行政処分は個人に帰属します。会社は肩代わりできません。業務中の事故であっても、刑事・行政処分は自分で対応が必要です。

すぐやること3つ

  1. 事故の状況を記録する:写真・日時・場所・状況を書面に残してください。後の交渉の証拠になります。
  2. 会社の保険内容を確認する:社用車・レンタカーに任意保険があれば、まず保険が適用されるはずです。「保険はない」と言われたら書面で確認を求めてください。
  3. 全額請求・給与控除されたら専門家へ:社労士・弁護士または労働基準監督署に相談してください。一人で抱え込まないことが大切です。

まとめ

  • 業務中の事故の一次責任は会社にある(民法715条・使用者責任)
  • 全額を労働者に求償するのは判例上認められない(最高裁昭和51年判決)
  • 給与からの一方的な損害控除は労働基準法24条違反になりうる

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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Clark Van Der Beken on Unsplash

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