懲戒解雇と普通解雇を同時にされた?あなたの権利と対抗策

懲戒

ある日突然、会社から封筒が届く。
開けると「懲戒解雇、かつ普通解雇とする」と書かれた通知書。
「一枚の紙で2種類の解雇?これは何なの?」と混乱しますよね。

結論から言います。これは「ダブル解雇」と呼ばれる会社の手法です。退職金を払わず、かつ確実にあなたを職場から追い出すための二重の罠です。しかし、懲戒解雇の部分は無効になりやすく、あなたには十分な反論の余地があります。

現役の社会保険労務士として、ダブル解雇を受けた労働者が真っ先に知るべき権利と具体的な対処法を解説します。

  • ダブル解雇の仕組みと、会社の本当の狙いが理解できる
  • 懲戒解雇を無効にするための重要なチェックポイントがわかる
  • 退職金とバックペイを守るために今すぐやるべき行動がわかる

ダブル解雇とは何か?まず構造を理解しよう

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「ダブル解雇」とは、懲戒解雇と普通解雇を同時に行うことです。
法律の世界では「懲戒解雇兼予備的普通解雇」と呼ばれます。
一枚の解雇通知書に2種類の解雇が並んで書かれているのが特徴です。

通知書の文面はこんな感じです。
「①あなたを懲戒解雇とする。②仮に上記懲戒解雇が効力を持たない場合に備え、予備的に普通解雇とする。」
この「予備的に」というフレーズが、ダブル解雇の証拠です。

なぜ会社は2種類の解雇を同時に使うのか

会社の狙いは2つあります。
1つ目は、退職金をゼロにすること
2つ目は、懲戒解雇が裁判で無効とされるリスクに備えることです。

懲戒解雇が成立すれば、退職金を全額または一部払わないで済みます。
しかし懲戒解雇は、普通解雇よりも裁判で無効とされやすいのです。
そこで会社は「懲戒解雇がダメでも普通解雇で確実に終わらせる」という二段構えにしています。

⚠️ 注意:ダブル解雇は会社にとって「退職金不支給」と「確実な雇用終了」を同時に狙う手法です。あなたが何も行動しなければ、会社の思い通りになります。受け取った通知書はすぐに保管し、専門家に相談してください。
📌 ポイント:懲戒解雇は、普通解雇よりも労働者への不利益が格段に大きい処分です。だからこそ裁判所は、懲戒解雇の有効性をより厳しく審査します。つまり、懲戒解雇は争えば無効になりやすいのです。

懲戒解雇を積極的に争うべき理由

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懲戒解雇と普通解雇を比べたとき、あなたにとって重要な事実があります。
懲戒解雇は、裁判でひっくり返されやすいのです。
なぜなら、処分の重さに見合った理由と手続きが厳格に要求されるからです。

懲戒解雇が無効になりやすいケースとは

以下のような状況では、懲戒解雇が無効と判断される可能性があります。

  • 問題行動の重さに対して処分が不釣り合いに重いと判断された場合
  • これまで一度も懲戒処分を受けたことがない場合
  • 反省や今後の改善が見込まれると認められる場合
  • 弁明の機会を与えられないまま解雇された場合
  • 解雇理由が就業規則の懲戒事由に明確に当てはまらない場合

「時間差」が生み出す数百万円のリスク——裁判例から学ぶ教訓

懲戒解雇と普通解雇の間に時間的なズレが生じると、労働者にとって有利な状況が生まれます。

ある不動産会社をめぐる裁判(広島高裁 2017年7月判決)では、会社が懲戒解雇を行った後、約1年以上が経過してから普通解雇を実施しました。裁判所は懲戒解雇を無効と判断しましたが、普通解雇については有効と認めました。

その結果、懲戒解雇から普通解雇までの空白期間——つまり「解雇されていなかった状態」とみなされた期間について、会社は未払い賃金(バックペイ)を支払う義務を負いました。その金額は数百万円規模に上りました。

「バックペイ」とは、解雇が無効とされた場合に会社が支払う未払い賃金のことです。
解雇されていた期間の給料をまとめて取り返せる権利です。

📌 なぜこの話があなたに関係するのか:ダブル解雇は、この「時間差バックペイ」が発生しないよう会社が考え出した手法です。だからこそ、あなた側も早期に争うことが重要になります。

【実践メモ】

解雇通知書を受け取ったら、その日付と解雇の効力発生日を必ず記録してください。
この2つの日付は、バックペイの計算の出発点になります。
専門家に相談する際も、真っ先に確認される情報です。
通知書は写真撮影してクラウドにも保存しておきましょう。

✅ やること:懲戒解雇を争うと決めたら、早期行動が命です。賃金請求権(バックペイを請求する権利)の時効は、現在の法律では原則5年・当面3年です。解雇の翌日からカウントが始まります。悩んでいる時間がもったいないです。

解雇通知書で必ず確認すべき3つのポイント

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ダブル解雇の通知書を受け取ったら、内容を細かく読み込んでください。
以下の3点が、あなたの武器になります。

①解雇理由は具体的に書かれているか

懲戒解雇では、通知書に書かれた理由しか、後の裁判で会社は主張できません。
これは労働者にとって有利なルールです。
つまり、通知書の記載が曖昧・不正確であれば、それ自体を突く余地があります。

「業務態度不良」「会社の信頼を損なった」のような抽象的な文言だけでは不十分です。
いつ・どこで・何をしたかが具体的に記載されているか確認しましょう。
「令和〇年〇月〇日に〜した行為」という形で書かれているはずです。

⚠️ 注意:後から「あの行為も解雇理由だった」と会社が追加主張することは、懲戒解雇では原則として認められません。通知書に書かれていない理由は、裁判では使えないのです。記載内容が限定的であれば、あなたに有利になる可能性があります。

②就業規則のどの条項に当たるかが明記されているか

懲戒解雇は、就業規則に定められた懲戒事由に該当していなければなりません。
通知書には「就業規則第〇条〇号に該当」という記載があるはずです。
その条項が本当に自分の行為に当てはまるか、冷静に確認してください。

📌 ポイント:就業規則は、請求すれば会社は必ず開示しなければなりません(労働基準法第106条)。「見せてもらえない」と言われたら、それ自体が違法です。労働基準監督署に申告できます。

③弁明の機会が与えられたか

懲戒解雇を行うには、事前に「弁明の機会の付与」が必要とされています。
弁明の機会とは、解雇される前に「言い分・反論を述べる場」を与えることです。
この手続きなしに突然解雇された場合、手続き違反として懲戒解雇の無効を主張できます。

通知書には「令和〇年〇月〇日付で弁明の機会を付与した」と記載されているはずです。
記載がない場合、または実際に機会が与えられなかった場合は重要な証拠になります。

【実践メモ】

弁明の機会を与えられた場合は、その場での発言を慎重にしてください。
記憶が新しいうちに、何を聞かれ何を答えたかをメモしておきましょう。
可能であれば録音も有効です(その場の状況によりますが、自身の言動を記録するためです)。
「今すぐ答えられない。弁護士・社労士に相談してから回答したい」と伝えることも、あなたの権利です。

退職金を守るために知っておくべきこと

ダブル解雇で会社が最も狙っているのは、退職金の不支給です。
長年働いてきた退職金を、一枚の通知書で奪おうとしています。
しかし、懲戒解雇が裁判で無効とされれば、退職金の不支給も認められません。

懲戒解雇が無効なら退職金を取り戻せる

退職金は労働者が長年の労働の対価として積み上げてきたものです。
懲戒解雇が有効でなければ、会社はその権利を剥奪できません。
つまり、懲戒解雇の無効を主張することが、退職金を守る直接の手段です。

ある精密機器メーカーをめぐる裁判(東京地裁 2020年2月判決)では、職場内での問題行動を繰り返した社員に対する懲戒解雇について、裁判所が無効と判断しました。

判断の決め手となったのは2点です。1点目は、長年にわたる問題行動があったにもかかわらず、それまで一切の懲戒処分が行われていなかったこと。2点目は、会社が用意した特定の業務に一定期間まじめに取り組んでいた事実が認められたことです。

裁判所はこれらを踏まえ、「最初の懲戒処分として最も重い処分を選択するのは行き過ぎ」と結論づけました。

つまり、問題行動があったとしても、「その処分の重さが本当に妥当だったか」は必ず争える余地があります。

✅ やること:退職金の額や計算方法は、就業規則または退職金規程に記載されています。入社時に交付された書類を探すか、会社に開示請求しましょう。退職金の金額を把握しておくことが、今後の交渉や裁判で重要になります。
⚠️ 注意:たとえ懲戒解雇が無効となっても、普通解雇が有効とされれば雇用は終了します。退職金を守りながらバックペイも請求するためには、両方の解雇を同時に争う必要があります。一人で判断せず、専門家の力を借りることを強くお勧めします。

【実践メモ】

退職金の権利は、解雇から一定期間で時効にかかります。
現在の法律では、退職金請求権の時効は原則5年です。
ただし、早ければ早いほど有利です。
「今は冷静になれない」という状態でも、まず専門家に電話するだけで構いません。

よくある疑問 Q&A

Q: 懲戒解雇と普通解雇を同時にされた場合、どちらを争えばいいですか?
A: 両方を争うことができます。懲戒解雇の無効を主張することで退職金を守れます。同時に普通解雇の有効性も争えば、復職やバックペイを求めることも可能です。どちらをメインに据えるかは、専門家と相談して戦略を立てましょう。
Q: 弁明の機会を与えられなかった場合、どうなりますか?
A: 手続き違反として懲戒解雇の無効を主張できる根拠の一つになります。「弁明の機会がなかった」という事実を記録・証言できる状態にしておきましょう。労働審判や訴訟で重要な証拠になります。
Q: 解雇予告手当は受け取れますか?
A: 即時解雇の場合、会社は原則として30日前の予告か、30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません(労基法第20条)。ただし懲戒解雇で労働基準監督署の「除外認定」を受けた場合は不要とされることがあります。通知書の記載を確認し、不明な点は専門家に確認してください。
Q: 就業規則を見せてもらえない場合はどうすればいいですか?
A: 就業規則の開示は会社の法律上の義務です(労基法第106条)。拒否された場合は労働基準監督署に申告できます。また、入社時に交付されたコピーや、過去に確認したことがあれば、その内容を覚えている範囲でメモしておきましょう。

チェックリスト:解雇通知書を受け取ったらすぐ確認すること

確認項目 チェック
解雇通知書を受け取った日付をメモした
解雇の効力発生日(解雇日)を確認した
「予備的に普通解雇」の文言があるか確認した
解雇理由が具体的な日時・行為で書かれているか確認した
就業規則の条項番号が記載されているか確認した
弁明の機会が与えられたか(与えられなかったか)記録した
解雇予告手当についての記載を確認した
退職金の金額・計算方法を就業規則で確認した
通知書を写真・コピーで複数箇所に保管した
専門家(社労士・弁護士)への相談を予約した

すぐやること 3 つ

  1. 解雇通知書をその日のうちに複数枚コピーして保管する
    原本は封筒ごと保管してください。
    スマートフォンで写真を撮り、クラウドストレージにも保存しましょう。
    証拠を失うと、後から取り戻すことはできません。
  2. 解雇に至る経緯をノートに時系列で書き出す
    いつ・誰が・何をしたか。
    指導された日、弁明の場があった日、解雇通知が届いた日。
    記憶が新鮮なうちに書いておくことが大切です。
  3. 無料の労働相談窓口か専門家に今日中に連絡する
    各都道府県の「総合労働相談コーナー」(労働局)は無料で相談できます。
    弁護士・社労士への相談は初回無料の事務所も多くあります。
    一人で抱え込まず、専門家の力を借りてください。

まとめ

  • ダブル解雇は「退職金不支給+確実な雇用終了」を狙う会社の二重戦略
  • 懲戒解雇は普通解雇より無効になりやすい。積極的に争う価値がある
  • 懲戒解雇が無効とされれば、退職金の不支給も認められない
  • 解雇通知書の「理由の具体性」「就業規則の条項」「弁明の機会」を必ず確認する
  • バックペイの請求権は原則5年・当面3年で時効。早期行動が不可欠
  • 一人で判断せず、社労士・弁護士への相談が最善の第一歩

長年積み上げてきたあなたの仕事と生活は、一枚の通知書で終わりにさせてはいけません。
退職金を守り、権利を主張することが、あなた自身と家族の未来を守ることです。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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