「今日だけでいいから、少し残ってもらえる?」
そう言われ続けて、気づけば毎週残っている——そんな状況に心当たりはありませんか?
短時間勤務の社員でも、残業した分の賃金は必ず請求できます。そして、残業を命じるには会社側に一定の条件が必要です。
「短時間なのに残業代が出ない」「法内残業って何?」という疑問に、法令・通達に基づいてお答えします。
この記事では、「法内残業」と「法外残業」の違い、残業命令が有効になる条件、そして残業代の正しい計算方法と確認すべき就業規則のポイントを順に説明します。
まず整理しよう——2種類の残業とは何か
残業には種類があります。まずここを押さえてください。
法定労働時間と所定労働時間の違い
労働基準法が定める上限時間は、1日8時間です。これを「法定労働時間」といいます。一方、あなたが会社と契約した勤務時間が「所定労働時間」です。
1日5時間の短時間勤務で契約している場合を例にします。残業には2種類あります。所定時間を超えるが法定の8時間以内の残業(例:5時間から8時間の範囲)を「法内残業」、法定の8時間を超える残業(例:8時間を超える部分)を「法外残業」といいます。
この2つで何が変わる?
法外残業なら、割増賃金(最低25%以上)の支払いが義務です(労基法第37条)。法内残業は、法律上の割増義務はありません。でも、通常の時給分の賃金は必ず払われるべきです。
あなたは断れる?残業命令が有効になる条件
「繁忙期だから今月だけお願い」と言われたとき、断れるのでしょうか。法内残業を命じるには、会社側が次の2点を満たす必要があります。
就業規則に根拠規定があること
就業規則または労働協約に、残業させる旨の記載が必要です。「業務の都合により、所定労働時間を超えて労働させることがある」といった内容がこれにあたります。この記載がない場合、残業命令自体が無効になる可能性があります。
業務上の必要性が実際にあること
たとえ就業規則に根拠規定があっても、業務上の必要性がない残業命令は無効です。裁判所は「権利の乱用」として命令を無効と判断します。「いつもやってもらっているから」という慣習だけでは、命令の根拠になりません。繁忙期の一時的な対応であれば、必要性は認められやすいですが、毎日・毎週・恒常的に残業させる場合は話が別です。
【実践メモ】
「なぜ今日も残業が必要なのですか?」と、業務上の理由を確認することは正当な権利です。質問はメールや社内チャットなど、記録が残る方法で行いましょう。口頭のやり取りだけでは、後から「言った・言わない」になりやすいです。
残業代はいくらもらえる?正しい計算方法を確認しよう
残業した分の賃金、正確に受け取っていますか?法内残業の賃金は、法律で細かく決まってはいませんが、何も定めがない場合の原則は明確です。
就業規則に定めがない場合の原則
厚生労働省の通達(昭和23年11月4日基発1592号)によれば、特別な定めがない場合は通常の労働時間と同じ賃金を支払うべきとされています。つまり、「時間外だから安くていい」は通りません。
月給制の場合の計算方法
法内残業代 = 月給 ÷ 月の平均所定労働時間 × 法内残業時間
たとえば、月給16万円・月の所定労働時間が80時間(1日4時間×20日)とします。1時間あたりの賃金は、16万円÷80時間=2,000円です。2時間の法内残業をしたなら、2,000円×2時間=4,000円が残業代になります。この金額が毎月の給与明細に反映されているか、確認してみてください。
割増賃金はつく?就業規則を今すぐ確認すべき理由
「法内残業に割増はない」——これは法律のデフォルトの話です。就業規則の内容によっては、割増をもらえる場合があります。
就業規則の文言が鍵を握る
就業規則に「時間外労働には割増賃金を支払う」と書かれているとします。そこに「法内残業を除く」という断りがない場合、法内残業にも割増賃金が発生すると解釈される可能性が高いです。
曖昧な場合は書面で確認する
就業規則の文言が曖昧なら、会社に書面で確認することをおすすめします。メールや社内チャットで「法内残業の賃金扱いを教えてください」と質問しましょう。口頭の説明だけでは、後々「そんな話はしていない」となるリスクがあります。
「残業代は基本給に込み」と言われたら最低賃金をチェック
「あなたの基本給には、法内残業代が含まれています」と言われることがあります。この取り扱い自体は、法律上可能です。でも、絶対に守られなければならない条件があります。
最低賃金を下回ることは許されない
「込み」の場合、次の式で最低賃金を下回っていないか確認が必要です。
(基本給 + 諸手当) ÷ (所定労働時間 + 法内残業時間) ≥ 最低賃金
この計算結果がお住まいの都道府県の最低賃金を下回るのは違法です。最低賃金は毎年改定されます。最新の金額は厚生労働省のサイトで確認してください。
「込み」であることの根拠はどこにある?
「基本給に残業代が含まれる」場合、就業規則や雇用契約書への明記が必要です。口頭での説明だけでは、法的な効力に疑問が生じます。雇用契約書と就業規則を照らし合わせて、根拠があるか確認しましょう。
【実践メモ】
雇用契約書と就業規則のコピーを手元に揃えましょう。「残業代の扱い」が書かれた条項を探し、実際の勤務時間と照らし合わせてみてください。不明な点があれば、各都道府県の労働局や労働基準監督署の無料相談窓口が使えます。
よくある疑問
- 短時間勤務なのに毎日残業を頼まれます。断れますか?
- 就業規則に根拠規定があり、業務上の必要性があれば、原則として断ることはできません。ただし、毎日・恒常的な残業は必要性が疑わしいため、「なぜ必要なのか」を確認する権利はあります。育児や介護を理由に短時間勤務している方は、育児・介護休業法による時間外労働の免除申請も検討してください。
- 法内残業代が払われていません。どうすればいいですか?
- まず実際に働いた時間の記録(出退勤の記録やメモ)を集めましょう。次に、会社に書面で残業代の計算・支払いを求めます。それでも解決しない場合は、労働基準監督署への相談や、社労士・弁護士への相談を検討してください。賃金請求権の時効は原則5年(当面3年・労基法第115条)です。未払いに気づいたら早めに動きましょう。
- 法内残業に36協定は必要ですか?
- 必要ありません。36協定が必要なのは、法定労働時間(1日8時間)を超える残業の場合です(労基法第36条)。短時間勤務の方が8時間以内の範囲で残業する場合は、36協定の対象外となります。
- 就業規則に法内残業の規定がない会社で残業を命じられました。無効ですか?
- 就業規則に根拠規定がない場合、残業命令は無効と解釈される可能性があります。ただし、状況によっては黙示の合意が認められるケースもあります。就業規則の確認を最優先に行い、疑問があれば専門家に相談しましょう。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 就業規則に「所定時間を超えて労働させることがある」旨の記載がある | □ |
| 残業を命じられる際に業務上の理由が示されている | □ |
| 実際の出退勤時刻を毎日記録している | □ |
| 毎月の残業代が正しく計算・支払われているか確認している | □ |
| 「残業代込みの基本給」の場合、最低賃金を下回っていないか計算した | □ |
| 就業規則の割増賃金条項に「法内残業を除く」の記載があるか確認した | □ |
| 育児・介護短時間勤務中の場合、時間外労働の免除申請を検討した | □ |
今日からできること
まず、就業規則のコピーを入手しましょう。「残業を命じる根拠」と「残業代の扱い」の2点を確認してください。
次に、毎日の勤務時間を記録しましょう。スマホのメモや手帳に出退勤時刻を書いておくと、後から証拠として使えます。
残業代を自分で試算することも有効です。「月給÷月平均所定労働時間×残業時間」で計算し、実際の支払額と比べてみてください。
まとめ
法内残業とは、所定時間を超えるが1日8時間以内の残業のことです。残業を命じるには、就業規則の根拠規定と業務上の必要性の両方が必要であり、特別な定めがなければ法内残業代は通常の時給と同額が原則(昭和23年11月4日基発1592号)です。就業規則に割増の除外規定がなければ割増賃金を請求できる場合もあり、「残業代込みの基本給」の場合も最低賃金を下回ることは違法です。
未払い残業代の請求権は原則5年(当面3年・労基法第115条)です。短時間勤務の働き方に関する正しい知識を持つことで、自分の時間と報酬を適切に守ることができます。疑問があれば労働基準監督署や専門家に相談することも有効です。
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※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Olena Kholina on Unsplash

