「正社員とまったく同じ仕事をしているのに、給与の扱いが違う」——そんな状況に疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
結論から言います。「あなたへの期待が違うから」「うちは制度が別だから」という会社の説明だけでは、給与格差を正当化できません。
2026年にかけて同一労働同一賃金のガイドラインが重要な見直しを迎えています。パート有期法・改正ガイドラインに基づいて、その仕組みをわかりやすく解説します。
この記事では、「期待が違う」という説明が法的に通らない理由、給与制度が別でも格差が問題になるケース、そして交渉の場でパート・有期労働者の声が尊重されなければならない理由を順に説明します。
同一労働同一賃金とは、あなたに何を保障しているか
パートタイム・有期雇用労働者法(パート有期法)の第8条は、明確にこう定めています。
正規と非正規の間に待遇の差をつける場合、その差は「不合理」であってはならない、と。
つまり、合理的な根拠のない給与格差は法律違反です。
2026年の改正ガイドラインでは、この「客観的・具体的な実態に基づく判断」という考え方がさらに強調されました。法律上の強行規定(当事者が「合意した」としても無効にできないルール)だからこそ、主観や抽象論では通らないのです。
「あなたへの期待が違うから」は法的に通らない
主観的な説明だけではNG
よく会社が口にする言葉があります。
「正社員は将来の幹部候補だから」「パートさんには現場だけお願いしているから期待の大きさが違う」——そういった説明です。
しかし、こうした説明は改正ガイドラインで明確にNGとされました。
なぜなら、この種の説明は会社側の一方的な「主観」であり、目に見える事実に基づいていないからです。
客観的・具体的な根拠とは何か
では、会社が合法的に差をつけるには何が必要でしょうか。
たとえば基本給に差を設けたいなら、「なぜその基本給の差が必要か」を、具体的な事実で説明しなければなりません。
正社員には体系的な技能訓練があり、職務権限の範囲がパートより明確に広い——そういった目に見える実態が必要です。
「うちは正社員に期待しているから」というだけでは、法律の要求を満たせません。
【実践メモ】
「なぜあなたの給与は正社員より低いのか」を、会社に文書で質問してみましょう。「期待が違う」以上の、具体的で客観的な理由を求める権利があります。口頭で答えが返ってきた場合は、日付・内容・発言者をメモに残してください。
「給与制度が違う」も免罪符にはならない
正社員は年功型の給与制度、パートは時給制——制度そのものが別々の場合はどうでしょうか。
「制度が違うから比べられない」は、会社側の誤解です。
制度が異なっていても、パート有期法第8条の適用を受けることに変わりはありません。
制度の違い自体を理由に、不合理な格差を正当化することはできないのです。
大切なのは「制度が違うかどうか」ではなく、「制度の違いが客観的・具体的な実態に基づいているかどうか」です。
たとえば「正社員はキャリア形成のため定期的に部門をまたいで業務を経験する。パートは特定業務のみ」という実態の違いがあれば、それは客観的根拠になります。しかし「なんとなく制度が別だから」では通りません。
【実践メモ】
「うちは制度が違う」と言われたら、「どういう業務の実態の違いがあって、その制度になっているのですか?」と具体的に聞き返しましょう。答えが曖昧なら、その内容を記録してください。
交渉の場で、パート・有期の声が無視されてはいけない
「正社員組合との合意」だけでは不十分
社内で待遇の見直し交渉が行われるとき、あなたの声は反映されていますか。
正社員の組合や代表者とだけ話し合い、パート・有期労働者の意見を聴かないまま決定する——それは、改正ガイドラインが求める手続きを満たしていません。
ガイドラインは明確にこう定めています。待遇の見直しにあたっては、対象となるパート・有期・派遣労働者の意向を十分に考慮することが望ましい、と。
つまり、正社員の組合が「OK」と言っても、それだけであなたの権利が消えるわけではないのです。
名古屋自動車学校事件(最高裁 令和5年7月20日判決)が示した重要な原則
この最高裁判決は、労働者にとって非常に重要な原則を示しました。
定年後に有期契約で再雇用された労働者の賃金が大幅に削減されたケースで、下級審が「一定の比率以内の差であれば許容される」という判断をしていたのに対し、最高裁はそうした数字による基準を否定しました。
最高裁は「基本給なら基本給、賞与なら賞与、それぞれの性質・目的に照らして個別に検討すべきだ」と判断しました。
特定の比率さえ守れば問題ないという単純なルールは存在しません。
また、この判決は労使交渉の「過程」も重要だと指摘しました。組合が反対したにもかかわらずその意見が実質的に考慮されなかった場合、交渉の具体的な経緯が不合理性の判断に影響するのです。
【実践メモ】
「正社員組合と合意した」と会社が言っても、交渉の過程でパート・有期労働者の意見が考慮されたかどうかが問われます。交渉の場への参加を求め、それが拒否された事実も記録しておきましょう。
定年後再雇用で給与が激減した場合
60歳の定年後に有期契約で再雇用され、給与が大幅に下がった——そういう状況の方も多いと思います。
定年後再雇用であることは、一定の待遇差を正当化する「事情のひとつ」にはなり得ます。
これは長澤運輸事件(最高裁 平成30年6月1日判決)で示された考え方です。
ただし、それは「何でもOK」という意味ではありません。
基本給・賞与・各種手当のそれぞれについて、「この差額は合理的か」を個別に検討しなければならないのです。
「定年後だから全部まとめてOK」とはなりません。ひとつひとつの待遇に、説明責任が会社側に求められます。
正社員の給与を下げて「格差解消」とするのは原則NG
「パートにも手当を出すなら、正社員の手当を廃止して帳消しにしよう」——そういう対応をしている会社があります。
これは原則として、法改正の趣旨に反する対応です。
同一労働同一賃金の目的は、非正規労働者の待遇を「引き上げる」ことです。正社員を「引き下げる」ことで格差をなくしても、働く人全体の状況は改善しません。
なお、経営上のやむを得ない事情から手当の整理再編を行い、その過程で正規職員の一部手当が変更されたケースで、裁判所が変更の合理性を認めた事例もあります(社会福祉法人恩賜財団済生会事件・山口地判令5.5.24労判1293号5頁)。ただしこれは、法改正の趣旨に沿った非正規の待遇改善と一体のものとして、十分な協議・交渉を経たうえで判断されたものです。「合理的なら正社員を下げてよい」という意味ではありません。
やむを得ず正社員の労働条件を変更する場合には、労働契約法第9条・第10条が定める「就業規則の不利益変更の合理性」が必要です。これは簡単にクリアできるものではありません。
よくある疑問
- 「うちはパートと正社員で給与制度が別だから比較できない」と言われました。どうすればいいですか?
- 制度が異なっていても、パートタイム・有期雇用労働法第8条の適用は受けます。「制度が別だから」という説明だけでは法的に不十分です。各待遇について、その性質・目的に照らした客観的な根拠を示すよう、文書で求めることができます。
- 会社が「正社員組合と合意した内容だから問題ない」と言っています。パートの私の意見は関係ないですか?
- 関係あります。改正ガイドラインは、対象となるパート・有期労働者の意向を踏まえた交渉を求めています。正社員組合との合意だけでは不十分です。意見を聴く場が設けられなかった事実を記録しておくと、後の交渉に役立ちます。
- 定年後再雇用で給与が大幅に下がりました。これは違法ですか?
- 一概には言えません。定年後再雇用であることは差を正当化する事情の一つになり得ますが、手当・基本給・賞与ごとに個別に判断されます。「定年後だから全部OK」にはなりません。気になる方は社労士か弁護士に相談することをお勧めします。
- 「あなたへの期待が違うから給与が違う」と言われました。どうやって対応すればいいですか?
- まず「具体的にどのような業務内容・権限・経験の違いがあるのか」を書面で回答するよう求めましょう。口頭の返答はメモで記録します。実際の業務内容が正社員と同等であれば、日誌形式で記録しておくことが有力な証拠になります。
チェックリスト:会社の「給与差の説明」は合法か?
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 会社の説明が「期待が違う」「制度が違う」だけになっていないか | □ |
| 具体的な業務内容・権限範囲・訓練機会の違いの説明があるか | □ |
| 手当・基本給・賞与のそれぞれについて個別の説明があるか | □ |
| 待遇変更の交渉でパート・有期労働者が意見を述べる機会があったか | □ |
| 「正社員の手当廃止」で格差解消としていないか | □ |
| 会社の説明に疑問を感じたら、その記録を保存しているか | □ |
今日からできること
まずは、自分の業務内容を記録することから始めましょう。正社員と同じ作業をしている事実を日誌形式で残しておくと、後の交渉で重要な証拠になります。
次に、給与差の根拠を会社に質問しましょう。できればメールなどの書面で「どのような客観的事実に基づく差ですか」と尋ね、回答内容とその日時を記録します。
回答が曖昧であれば、社労士や弁護士への相談も選択肢のひとつです。初回無料で受け付けている窓口も多くあります。一人で抱え込まず、専門家に状況を伝えてみましょう。
まとめ
パート有期法第8条は、客観的・具体的な根拠のない給与格差を禁止しています。「期待が違う」「制度が違う」という抽象的な説明だけでは法的に不十分であり、給与の見直し交渉ではパート・有期労働者の意見を踏まえることが求められます。
定年後再雇用の場合も手当・賃金ごとに個別の検討が必要であり、正社員の待遇を引き下げることで格差解消とするのは原則として法改正の趣旨に反します。「なぜ差があるのか」を具体的に説明するのは会社の責任であり、あなたにはその説明を求める権利があります。
待遇差について疑問を感じたときは、まず記録を残すことから始めましょう。正当な賃金を受け取ることは、あなた自身の生活と、家族の未来を守ることにつながっています。法律に定められた権利を正しく理解し、必要に応じて活用してください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
