採用時に「1年後は正社員」と言われた?有期雇用が試用期間とみなされる仕組みと証拠の残し方を社労士が解説






採用時に「1年後は正社員」と言われた?有期雇用が試用期間とみなされる仕組みと証拠の残し方

「採用のとき、『1年後には正社員』と聞かされた。でも1年が過ぎたら、突然話が変わっていた。」そんな状況で困っている方へ、この記事を届けます。

結論から言います。採用時の説明・約束は、法的な根拠になる場合があります。雇用契約書に「有期雇用」と書いてあっても、それだけで話は終わりません。現役の社会保険労務士として、最新の裁判例をもとに解説します。

この記事では、有期雇用が「試用期間」とみなされる仕組み、裁判所が採用の経緯をどう評価するか、そして今すぐできる証拠の残し方と次の一手を順に説明します。

「有期雇用が試用期間」って、どういう意味?

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有期雇用とは、期間が決まった雇用契約のことです。通常、期間が来れば契約は終わります。一見、会社に有利なルールに見えます。ただし、裁判所はこう考えます。「そもそも、なぜ有期にしたのか?」採用の目的が「相手の能力や適性を見極めるため」だった場合、話が大きく変わります。

📌 ポイント:有期雇用でも、採用の目的が「試し雇い」にあれば、裁判所はそれを「試用期間付きの無期雇用(正社員)」と判断することがあります。

これを「試用期間の代用」と呼びます。契約書の表面だけでなく、採用の実態が重視されるということです。

この考え方は、最高裁判所の判決(神戸弘陵学園事件・最三小判平成2年6月5日)で確立されています。裁判所は「採用の目的が適性評価にあるなら、期間満了で当然終了という合意が明確でない限り、それは試用期間だ」としました。つまり、「有期雇用」という形式だけで正社員の道が閉ざされるわけではないということです。

【実践メモ】

入社前後に「正社員候補として」「まず様子を見たい」などの話があったなら、それは重要な情報です。採用時の書類・メール・面談内容を、今すぐ手元に集めておきましょう。

裁判所が重視するのは「書類」よりも「採用の経緯」

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「雇用契約書に有期雇用と書いてある。だから負ける。」そう思っていませんか?実は、裁判所はそんな単純な判断をしません。裁判所が見るのは「採用に至るまでの全体の流れ」です。

具体的には、採用の前後でどんな説明がなされたか、求職者がどんな前提で応募・入社したか、会社がどういう運用を日常的に行っていたか、採用担当者が何を伝え求職者がどう理解したかを総合的に評価します。

⚠️ 注意:「言った・言わない」の争いになることがほとんどです。採用時のやりとりをメール・メモで残しておくことが非常に重要です。

口頭の説明があった場合でも、それを裏付ける間接的な証拠があれば、裁判所に認めてもらえる可能性が高まります。採用担当者からのメール、エージェント経由のメッセージ、第三者の証言などです。「書いていないから無効」とは限らない。これが日本の労働裁判の現実です。

【実践メモ】

採用担当者とのメール・チャットは今すぐスクリーンショットで保存してください。転職エージェントを介していた場合、エージェントとのやりとりも重要な証拠になります。

最新判例:口頭の「正社員約束」が裁判で認められた事例

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2025年4月、東京高裁で注目の判決が出ました。TBWA HAKUHODO事件(東京高判令和7年4月10日・上告受理申立て)です。一審(東京地判令和6年9月26日)から一貫して、労働者側が勝訴しています。

何が争点になったか

ある労働者が転職エージェントを介して会社に採用されました。採用面談の際、「この期間は正社員になる前の準備段階のようなもの」という趣旨の説明がなされたとされています。しかし会社は「そのような説明はしていない」と真っ向から否定しました。

裁判所はどう判断したか

決め手になったのは、転職エージェントを通じたやりとりでした。採用面談の後、エージェント経由で「ほぼ確実に正社員への道がある」という趣旨の会社側のコメントが労働者に伝えられていたことが確認されました。このやりとりが、採用担当者の面談時の説明内容を裏付ける証拠として機能したのです。

📌 ポイント:裁判所は「採用担当者が面談内容をよく覚えていない」という会社側の主張を退けました。面談直前の社内外のやりとりを踏まえれば、その主張自体が不自然だとしたのです。

結果として、この労働者は正社員(期間の定めなし)としての地位が認められました。つまり、採用時の経緯・第三者とのやりとりが揃えば、口頭の約束でも法的に有効になり得るということです。

【実践メモ】

転職エージェントを使って入社した方は特に注意してください。エージェントと会社の間でどんなやりとりがあったか、エージェントに確認・記録の開示を求めることが、有力な証拠につながる場合があります。

自分の権利を守るために今すぐできること

裁判で勝つためには「証拠」が命です。気づいたときから始めても遅くありません。

採用時の書類をすべて集める

内定通知書・労働条件通知書・雇用契約書を手元に置いてください。「正社員登用制度あり」などの記載があれば、重要な証拠になります。

✅ やること:書類が手元にない場合は、会社に「労働条件通知書のコピーをください」と請求できます。労働基準法に基づく権利です。

採用時のやりとりを記録・保存する

面談でどんな説明を受けたか、記憶があるうちにメモしてください。日付・場所・誰が・何を言ったかを具体的に書き残します。メールやSNSのやりとりはスクリーンショットで保存してください。

一人で抱え込まず専門家に相談する

「言った・言わない」の争いは、一人で解決しようとすると限界があります。労働基準監督署・労働局、または社会保険労務士・弁護士への相談を検討してください。初回無料の相談窓口も多くあります。

⚠️ 注意:賃金請求権の時効は労基法115条により原則5年(当面は3年)です。時間が経つほど証拠も失われます。「もう少し様子を見よう」が一番のリスクです。

よくある疑問

雇用契約書に「有期雇用」と書いてあれば、正社員にはなれませんか?
必ずしもそうとは限りません。採用時の説明内容・経緯によっては、裁判所がその有期契約を「試用期間」と判断することがあります。書類の形式だけで結論が出るわけではありません。
「正社員登用制度あり」と求人に書いてあったのに、実際はほぼ登用されない場合は?
「制度あり」と明記されていても、具体的な約束がなければ即座に法的権利にはなりにくいです。ただし、採用時に「ほぼ全員が正社員になっている」などの説明があれば話が変わります。採用時の説明を記録しておくことが重要です。
会社が「言っていない」と言い張ったら、どうすればいいですか?
間接的な証拠が有効です。エージェントとのやりとり・採用担当者からのメール・入社直後の上司の発言メモなどが、裁判で証拠として機能した例があります。一人で悩まず専門家に相談してください。

契約更新を断ったら解雇になりますか?
更新を断っても、すぐに解雇にはなりません。雇用継続の意思を示しながら正社員地位の確認を求めることは法的に可能です(労契法19条2号参照)。ただし状況に応じた対応が必要なため、専門家への相談をおすすめします。

採用時の確認チェックリスト

確認項目 チェック
採用時に「試用期間」「正社員登用」などの説明を受けたか
内定通知書・労働条件通知書を手元に保存しているか
採用担当者とのメール・チャットを保存しているか
エージェント経由の場合、エージェントとのやりとりを保存しているか
採用時の説明内容をメモとして記録しているか
会社の就業規則(試用期間・契約社員規定)を確認したか

今日からできること

まず、採用時の書類をすべて手元に集めましょう。内定通知書・労働条件通知書・雇用契約書を確認してください。会社に請求する権利があります。

次に、採用時のやりとりをメモ・スクリーンショットで保存してください。面談の内容、エージェント経由のメッセージ、口頭の説明をできる限り記録しましょう。

そして、社労士・弁護士・労働局に相談しましょう。一人で抱え込まないことが最大の武器です。初回無料の窓口を積極的に活用してください。

まとめ

有期雇用(契約社員)でも、採用目的が「適性の見極め」なら試用期間とみなされる場合があります(神戸弘陵学園事件・最三小判平成2年6月5日)。裁判所は「書類の形式」より「採用に至る全体の経緯」を重視します。採用時の口頭説明も、第三者とのやりとりなど裏付けがあれば法的な証拠になり得ます(TBWA HAKUHODO事件・東京高判令和7年4月10日・上告受理申立て)。賃金請求権の時効は労基法115条により原則5年・当面3年です。

正しい知識と証拠を持つことで、採用時の約束に基づいて正社員としての地位を求めることができます。採用書類・メール・メモを今日から保存し、疑問があれば早めに専門家に相談してください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。


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