月給でパートをしているけれど、最低賃金を下回っていないか不安。そう感じたことはありませんか?
結論から言います。月給制でも、最低賃金の違反を自分でチェックできます。
現役の社会保険労務士として、この記事では月給制パートが最低賃金違反かどうかを確かめる手順を解説します。
この記事では、最低賃金と「比較できる賃金」の見分け方、月給から時給に換算する計算の手順、そして違反が疑われるときの次の一手を順に説明します。
なぜ月給制パートは最低賃金がわかりにくいのか
時給制なら比べるだけです。でも月給制は「時給に換算」しないと最低賃金と比べられません。月給13万円だから大丈夫、と思っていても要注意です。実際に時間換算してみると最低賃金を下回っていた——そんな事例は珍しくありません。
最低賃金には2種類あります。地域別最低賃金は都道府県ごとに設定され、雇用形態に関係なくすべての労働者に適用されます。特定産業別最低賃金は、鉄鋼や電子部品などの一部業種に上乗せされる基準です。両方が適用される場合は、高い方が優先されます。
【実践メモ】
自分の都道府県の最低賃金は厚生労働省の「最低賃金制度特設サイト」で確認できます。「最低賃金 ○○県」で検索してもすぐ出てきます。まず現在の金額を調べることが最初のステップです。
「最低賃金と比べる賃金」は月給のどの部分か
ここが最大の落とし穴です。月給の「全額」を最低賃金と比べるわけではありません。一定の手当を差し引いた金額が比較の対象になります。
比較から除外される手当・賃金
最低賃金との比較に使えないのは、結婚祝い金など臨時に支払われるもの、賞与など1か月を超える周期で支払われるもの、所定時間を超えた残業代の割増分、休日出勤手当の割増部分、深夜割増賃金のうち通常賃金を超える部分、そして通勤手当・家族手当・精皆勤手当です(最低賃金法4条3項・同法施行規則1条)。
つまり、通勤手当が月1万円含まれていても、その1万円はないものとして計算します。月給の総額が大きく見えても、除外される手当が多いほど比較対象額は小さくなります。
【実践メモ】
給与明細を手元に出してください。「基本給」「職務手当」「通勤手当」「家族手当」「皆勤手当」などの内訳があるはずです。通勤手当・家族手当・皆勤(精皆勤)手当の合計を月給から引いてみましょう。その金額が、最低賃金と比べる金額です。
月給から時給を計算する手順
難しくありません。3段階で終わります。
比較対象の月給を出す
月給総額から、除外される手当を差し引きます。通勤手当・家族手当・精皆勤手当が主な対象です。
1カ月平均所定労働時間を出す
計算式はこうです。(年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間) ÷ 12カ月
年間所定労働日数は労働契約書か就業規則に書いてあります。見当たらない場合は会社に確認してください。「就業規則を確認したい」と伝えるのは労働者の権利です。
時間換算額を計算して最低賃金と比べる
比較対象の月給 ÷ 1カ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金(時間額)
この式が成立していれば問題ありません。下回っていれば最低賃金違反です。
具体的な計算例
年間所定労働日数250日、1日4時間勤務、月給105,000円(通勤手当6,000円を含む)の場合で計算してみます。まず比較対象額は105,000円から通勤手当6,000円を引いた99,000円です。次に1カ月平均所定労働時間は(250日×4時間)÷12か月で約83.3時間になります。時間換算額は99,000円÷83.3時間で約1,188円です。
2025年度の東京都の最低賃金は1,226円なので、この例では1,188円となり、最低賃金を下回るため違反となります。
【実践メモ】
電卓でいいので、今すぐ計算してみましょう。手順は「(月給 − 通勤・家族・皆勤手当)÷(年間所定日数 × 1日の時間 ÷ 12)」です。出た数字と、厚生労働省サイトで確認した自分の都道府県の最低賃金を比べてください。
違反が疑われたときの対処法
計算してみて「下回っている」とわかったら、どうすればよいのでしょうか。最初にやるべきことは記録の保全です。給与明細・労働契約書・就業規則のコピーを手元に保管してください。メールやLINEで届いた勤務条件の通知も、スクリーンショットで保存しましょう。
次に相談先を選びます。労働基準監督署は最低賃金違反の申告窓口で無料で相談できます。都道府県労働局は労働条件全般の相談を受け付けています。社会保険労務士・弁護士は個別の状況に応じたアドバイスが得られます。
賃金の未払い分を請求できる時効は原則5年・当面3年(労基法115条)です。「長い間払われていなかった」という場合でも、過去にさかのぼって差額を請求できます。
【実践メモ】
労働基準監督署の管轄は「労働基準監督署 ○○市」と検索するとわかります。電話相談も受け付けています。「違反かどうか自信がない」という状態でも、まず連絡してみましょう。
よくある疑問
- アルバイトでも最低賃金は適用されますか?
- はい、適用されます。正社員・パート・アルバイト・派遣など、雇用形態に関係なくすべての労働者が対象です。短時間勤務であっても例外はありません。
- 通勤手当が高いほど最低賃金違反になりやすいのですか?
- そのとおりです。通勤手当は比較対象から除外されるため、通勤手当が多いほど比較できる賃金が少なくなります。月給が同じでも、手当の内訳によって結果が変わります。
- 年間所定労働日数が契約書に書いていない場合はどうすればいいですか?
- 会社に就業規則の開示を求めてください。「就業規則を確認させてほしい」と伝えることは労働者の権利です。それでも教えてもらえない場合は、労働基準監督署に相談できます。
- 最低賃金違反の差額は取り戻せますか?
- 請求できます。賃金請求権の時効は原則5年・当面3年(労基法115条)です。過去にさかのぼって差額を請求する手続きが可能です。一人で進めることが難しければ、専門家への相談をお勧めします。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 給与明細を手元に用意した | □ |
| 通勤手当・家族手当・精皆勤手当の金額を確認した | □ |
| 月給から除外手当を引いた「比較対象額」を計算した | □ |
| 年間所定労働日数と1日の所定労働時間を確認した | □ |
| 1カ月平均所定労働時間を計算した | □ |
| 時間換算額(比較対象額÷月平均時間)を出した | □ |
| 自分の都道府県の最低賃金(最新額)を確認した | □ |
| 時間換算額が最低賃金以上であることを確認した | □ |
今日からできること
まず、給与明細と労働契約書を今すぐ確認しましょう。通勤手当・家族手当・皆勤手当の内訳をメモしておいてください。
次に、電卓で時間換算額を計算してみましょう。(月給 − 除外手当)÷(年間所定日数 × 1日の時間 ÷ 12)。スマホの電卓で十分です。
そして、自分の都道府県の最低賃金と比べましょう。厚生労働省の最低賃金制度特設サイトで最新額を確認してください。下回っていたら、一人で抱え込まず労働基準監督署か専門家に相談しましょう。
まとめ
最低賃金はすべての労働者に適用され、月給制のパートも例外ではありません。月給制の場合は「月給(除外手当を差し引いた金額)÷1か月平均所定労働時間」で時給換算し、最低賃金と比較します(最低賃金法4条3項・同法施行規則1条)。通勤手当・家族手当・精皆勤手当は比較対象から除外される点に注意が必要です。最低賃金は毎年上昇しており、以前は問題なかった給与額が今は違反になっているケースがあります。違反が確認できたら、記録を保全して労働基準監督署か専門家に相談しましょう。過去の未払い賃金は原則5年・当面3年分(労基法115条)さかのぼって請求できます。
正しい知識を持つことで、自分の月給が最低賃金を下回っていないかを確認し、適切な賃金を受け取ることができます。疑問があれば専門家に相談してください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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