「上司の発言がセクハラだと思うけど、会社に言って大丈夫?」「相談したのに、会社が何もしてくれない…」こんな状況で困っていませんか?
結論から言います。会社にはセクハラ被害者を守る法的な義務があります。
現役の社会保険労務士として、多くのセクハラ被害の相談を受けてきました。この記事では、会社が何をしなければならないか、そして会社が動かなかった場合にどんな選択肢があるかをお伝えします。
この記事では、セクハラとは何か、会社が法律上やらなければならない対応、そして会社が動かないときにできることを順に説明します。
「これってセクハラ?」まず種類を確認する
セクハラには「対価型」と「環境型」の2種類があります。「対価型」とは、性的な要求を拒んだ結果、仕事上の不利益を受けるケースです(例:「断るなら昇進させない」)。「環境型」とは、性的な発言や行動によって職場で働きにくい状況になるケースで、直接的な脅しがなくてもセクハラにあたります。
「これくらいでセクハラと言っていいのかな」と自己判断で諦めないでください。あなたが働きにくいと感じさせている言動は、すでにセクハラになり得ます。
【実践メモ】
まず、いつ・どこで・何を言われたかをメモしておきましょう。日時・場所・発言の内容を書き留めておくだけで、後から相談するときに大きな力になります。
会社が法律上やらなければならないこと
男女雇用機会均等法11条1項という法律があります。つまり、「セクハラ対策は会社の義務」と法律で定められているということです。大企業だけでなく、すべての規模の会社が対象です。会社がやらなければならないことは大きく3段階に分かれます。これはあなたが「会社に求める権利がある」ことでもあります。
あなたが相談できる場所をつくること
会社には、セクハラの相談窓口を設置して周知する義務があります。「どこに言えばいいかわからない」「相談窓口が存在しない」という状態は、すでに会社の義務違反です。
相談を受けたらすみやかに調査すること
あなたが相談した後、会社はできるだけ早くヒアリング(聞き取り調査)を行う義務があります。「様子を見ましょう」「事実確認が難しいので…」という対応は不十分です。相談したのに放置されることは、会社の義務違反にあたります。
調査結果をもとに必要な手を打つこと
ヒアリングの結果、セクハラと判断された場合、会社は具体的な措置を取らなければなりません。加害者への注意・懲戒処分、あるいは配置の見直しなどが考えられます。「注意はした」「本人に気をつけるよう話した」だけでは不十分なケースもあります。
【実践メモ】
相談後に会社がどんな行動をとったか(またはとらなかったか)を、日付とともにメモしておきましょう。「いつ・何を求め・どんな回答があったか」の記録が、後で重要な証拠になります。
会社が動かないとき:別の責任を問える可能性がある
相談したのに会社が何もしなかった場合、どうなるでしょうか。加害者本人への責任追及とは別に、会社そのものに損害賠償を求められる可能性があります。
ある裁判例では、次のような判断が出ています。被害者が社内の担当者に被害を申し出たにもかかわらず、担当者は加害者を擁護するような言動をとり、適切な措置を何も講じませんでした。裁判所は、この担当者の不適切な対応を違法と認定しました。そして、セクハラ行為そのものへの慰謝料とは別に、会社側の不作為を理由とする慰謝料も認めています(Y市役所事件・横浜地判平成16年7月8日・判時1865号106頁)。
つまり、「会社が動かなかったこと」そのものが、法的な責任につながり得るということです。
【実践メモ】
会社が動かない場合は、都道府県の労働局(雇用環境・均等部)に相談する方法があります。行政による助言・指導・あっせんを、無料で受けることができます。会社を通さず直接持ち込めるので、社内に不信感がある場合は特に有効です。
相談した後の「二次被害」に注意してください
セクハラの相談をした後に、別の形で傷つくことがあります。これを「二次被害」といいます。
たとえば、「あなたの受け取り方の問題では?」と言われる、加害者をかばうような発言を担当者からされる、相談内容が本人に無断で職場に広まってしまう、相談後に職場内で孤立させられたり嫌がらせが増えるといった対応が二次被害にあたります。
二次被害を受けた場合も、内容と日付を記録しておきましょう。二次被害も、法的な責任追及の根拠になり得ます。
【実践メモ】
社内の相談窓口に不信感がある場合は、社外の窓口を使いましょう。「みんなの人権110番」(法務省・0570-003-110)や、都道府県の労働局は会社を通さず直接相談できます。専門家への相談も選択肢に入れてください。
よくある疑問
- 派遣社員でもセクハラ被害を訴えられますか?
- 訴えられます。派遣先企業も、派遣社員に対してセクハラ対策を講じる義務があります。被害があれば、派遣元と派遣先の両方に相談することができます。
- 証拠がなくても会社に相談できますか?
- 相談できます。ただし、会社の調査では証言だけでは判断が難しい場面もあります。「いつ・どこで・何を言われたか」をメモしておくと、相談がスムーズになります。
- 相談したことで報復されないか不安です。
- 法律上、セクハラの相談を理由とした不利益な取扱いは禁止されています(男女雇用機会均等法11条の2)。もし報復があれば、それ自体が新たな違法行為となります。記録を残しておきましょう。
- 会社が「問題なし」と判断したら終わりですか?
- 終わりではありません。会社の内部調査の結論に納得できない場合は、労働局への申告や弁護士・社労士への相談という選択肢があります。会社内の判断が最終決定ではありません。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 被害の内容・日時・場所をメモしている | □ |
| 社内の相談窓口(または不在)を確認した | □ |
| 相談した日付・方法・会社の回答を記録している | □ |
| 二次被害があった場合もその内容を記録している | □ |
| 都道府県労働局など社外の相談窓口を把握している | □ |
| 専門家(社労士・弁護士)への相談を検討した | □ |
今日からできること
まず、被害の記録を今日中に残しましょう。いつ・どこで・誰が・何をしたか、できるだけ詳しくメモしてください。時間が経つと記憶が薄れます。
次に、社内外の相談窓口を確認しましょう。社内の窓口を確認しつつ、都道府県労働局(雇用環境・均等部)の連絡先もメモしておきましょう。
そして、信頼できる人や専門家に早めに相談しましょう。一人で抱え込まないことで、状況が大きく変わることがあります。
まとめ
セクハラには「対価型」と「環境型」の2種類があり、働きにくいと感じさせる言動も該当する場合があります。会社には男女雇用機会均等法11条1項に基づき、相談窓口の整備・迅速な調査・必要な措置という3段階の法的義務があります。会社が動かない場合、加害者本人とは別に会社固有の損害賠償責任を問える可能性があります(Y市役所事件・横浜地判平成16年7月8日・判時1865号106頁)。相談後の二次被害も記録し、法的な対抗手段として活用できます。
正しい知識を持つことで、セクハラ被害に対して適切に対応することができます。社外の相談窓口(労働局・専門家)を使えば、会社を通さず対処できます。疑問があれば専門家に相談してください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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