60代の職場事故は3割超?改正安衛法で会社に求められる高年齢労働者への安全対策






60代の職場事故は3割超?改正安衛法で会社に求められる高年齢労働者への安全対策

「体が以前より疲れやすくなった」と感じていませんか。60代で働き続けるあなたにとって、職場の安全は最優先の問題です。2026年4月、会社に新しいルールが生まれました。

高年齢労働者を守ることが、会社の正式な義務になりました。

現役の社会保険労務士として、改正安衛法の内容をわかりやすく解説します。あなたが職場で安全対策を求めるための知識として、ぜひ読んでください。

この記事では、60代の労働災害がなぜ多いのか、2026年の法改正で会社に何が求められるか、そしてあなたが職場で使える権利と具体的な相談先を順に説明します。

60代の職場事故は「他人事」ではない

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まず、現実のデータを見てください。令和6年の統計では、60歳以上の労働者は全雇用者の約5人に1人(19.1%)です。しかし、4日以上の休業を要する職場事故のうち、60代以上が約3割(30.0%)を占めています。人数の比率をはるかに上回る事故の多さは偶然ではありません。

⚠️ 注意:加齢によって体の反応速度や注意力は少しずつ変化します。個人差は大きいですが、職場環境が整っていなければリスクは一気に高まります。

会社が60代の働き方に配慮していない場合、事故リスクは確実に上がります。でも、これはあなたのせいではありません。会社には安全な職場をつくる義務があります。

2026年4月、会社のルールが変わった

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2026年4月1日に、改正労働安全衛生法が施行されました。この改正で、高年齢労働者への安全対策が大きく強化されています。

これまでのルールと何が違うのか

以前の法律にも、高年齢労働者に関する条文はありました(安衛法62条)。ただ、その内容は「心身の状態を考慮して適切な場所に配置すること」にとどまっていました。つまり「どこで働かせるか」を考えれば足りた。職場の環境そのものを整えることまでは、明確に求められていませんでした。

📌 ポイント:改正後は「高年齢者の特性に配慮した作業環境の整備」と「適切な作業管理」が会社の努力義務になりました。配置先を選ぶだけでなく、職場そのものを改善することが会社に求められています。

「努力義務」ってどういう意味?

「努力義務」と聞くと「やらなくてもいい」と思うかもしれません。でも実際には「やることが前提の方向性」を示す法律用語です。会社は「うちには関係ない」とは言えない状況になりました。さらに、厚生労働大臣が指針を定め、会社を指導・援助する仕組みも整いました。「やるかどうか」ではなく「どうやるか」を考えよ、と国が会社に求めています。

【実践メモ】

「うちの会社は高年齢者への安全対策をしていますか?」と職場の安全担当者や上司に聞いてみましょう。答え方で、会社の意識がわかります。「知らない」という反応なら、後述の対処法を参考にしてください。

会社に求められる対策の具体的な中身

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2026年2月、厚生労働大臣の指針(「高年齢者の労働災害防止のための厚生労働大臣指針」)が公表されました。会社が取り組むべき方向性が、具体的に示されています。これを知ることが、「会社に何を求めていいか」を判断する第一歩です。

体力・健康状態の個別把握

定期健康診断の結果だけでなく、体力面の変化も把握することが求められます。あなたが体調の変化を会社に伝えやすい仕組みをつくることが必要です。正直に伝えたことで不利益な扱いを受けるのは、あってはなりません。

個人の状況に合わせた仕事の割り振り

60代だからといって一律に扱うのは間違いです。体力・経験・健康状態は人によって大きく異なります。指針では、一人ひとりの状態に応じた対応が求められています。「高齢だから軽作業だけ」ではなく、その人に合った合理的な配慮です。

✅ やること:「この業務は体力的につらい」と感じたら、遠慮せず上司や産業医に伝えましょう。今後は、会社側がこれを受け止める体制を整える義務があります。

職場の物理的な安全環境の整備

照明の明るさ、床の滑りやすさ、段差の有無。こうした物理的な環境が、事故の引き金になることがあります。加齢によって視力や平衡感覚が変化するのは自然なことです。それに対応した環境を整えるのは、会社の役割です。あなたが「この職場は危ない」と感じたら、声に出して伝えてください。

安全衛生教育の継続実施

「慣れているから大丈夫」という油断が事故を招くことがあります。指針では、高年齢労働者向けの安全衛生教育も会社の対応事項として明示されています。

【実践メモ】

職場に「安全衛生委員会」がある場合は、高年齢労働者対策が議題に上がっているか確認してみましょう。50人以上の事業場では委員会の設置が義務付けられています。

会社が動かないとき、あなたにできること

「うちの会社は何もしていない」という方も多いと思います。では、どうすればいいか。具体的な方法をお伝えします。

まず会社に声を上げる

「安全対策について相談したい」と上司や総務・安全担当に伝えましょう。この段階でのやり取りは、書面やメールで記録に残しておくと後で役立ちます。個人で言いにくければ、労働組合を通じた交渉も有効です。労働組合がない場合でも、外部のユニオン(合同労働組合)に加入して交渉することができます。

万が一、職場で事故が起きたら

仕事中のケガや病気には、労災保険が適用されます。会社が「労災申請はするな」と言っても、それはあなたの権利への侵害です。労災申請は、会社の許可なく自分で手続きできます。最寄りの労働基準監督署に相談してください。

⚠️ 注意:「労災を使うと会社に迷惑がかかる」という言葉は誤りです。労災保険は労働者全員に認められた権利であり、申請すること自体で会社に直接的な不利益はほぼ生じません。

労働基準監督署への申告

会社が安全衛生上の対応を怠っていると思われる場合、労働基準監督署に申告できます。申告を理由に会社から不利益な扱いを受けることは、法律で禁止されています。

【実践メモ】

労働基準監督署への相談は無料です。「匿名で相談したい」という場合も対応してもらえます。相談前に、「いつ・どこで・どんな状況だったか」をメモしておくとスムーズです。

よくある疑問

「努力義務」だから、会社が対策しなくても罰則はないのでは?
改正安衛法上の直接的な罰則はありません。ただし、安全配慮義務(労働契約法5条)の違反は別の問題です。事故が起きた後に「会社が対策を怠っていた」と認定されれば、損害賠償を求められる可能性があります。
体力的につらいと伝えたら、給与を下げられたり仕事を干されたりしませんか?
健康・安全に関する正当な申告を理由とした不利益扱いは、法的に問題になりえます。もしそのような扱いを受けた場合は、労働基準監督署か社会保険労務士に相談することをお勧めします。
職場で事故に遭った場合、どんな補償が受けられますか?
労災保険から、治療費全額(療養補償)、休業中の収入補填(給付基礎日額の約60%)、障害が残った場合の補償などが受けられます。さらに会社に重大な過失がある場合は、民事上の損害賠償請求も可能です。
職場の安全対策が不十分だと感じたとき、最初にどこへ相談すればいいですか?
まずは職場の安全衛生担当者か産業医への相談が第一歩です。会社が動かない場合は、管轄の労働基準監督署に相談しましょう。社会保険労務士への相談も、状況整理に役立ちます。

チェックリスト:あなたの職場は大丈夫?

確認項目 チェック
職場の照明は十分に明るいか
床面が滑りにくい状態に保たれているか
段差や障害物への対策がされているか
体力的につらいと感じたとき相談できる窓口があるか
定期健康診断が実施され、結果に基づいた業務配慮がされているか
安全に関する研修・教育が定期的に行われているか
労災が起きたとき申請サポートを受けられる体制があるか

今日からできること

まず、上のチェックリストで職場の安全環境を点検しましょう。気になった箇所はメモしておいてください。後で相談する際の材料になります。

次に、職場の安全担当者か産業医に「高年齢者への安全対策の状況」を確認してみましょう。「どんな取り組みをしていますか?」と一言聞くだけで構いません。

そして、万一の事故に備えて、最寄りの労働基準監督署の連絡先をメモしておきましょう。「地名+労働基準監督署」で検索すると見つかります。無料で相談できます。

まとめ

60歳以上の労働者は全体の約19%ですが、4日以上の休業を伴う職場事故の約30%を占めています。2026年4月施行の改正安衛法(安衛法1条・同62条改正)で、高年齢労働者への環境整備と作業管理が会社の努力義務になりました。「高年齢者の労働災害防止のための厚生労働大臣指針」(2026年2月)では体力把握・個別対応・物理環境の整備・安全教育の実施が求められています。会社が動かない場合は労働組合・ユニオン・労働基準監督署・社労士への相談が有効であり、職場事故が起きたら会社の許可なく労災申請ができます(労働者の正当な権利)。

正しい知識を持つことで、会社に適切な安全配慮を求め、自分の権利を守ることができます。「体の変化に寄り添った職場環境を求めること」は決してわがままではありません。まず声に出してみてください。なお、高年齢労働者の安全対策は具体的な内容が多岐にわたるため、またどこかでより詳しく解説できればと思います。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。


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