「会社ともめているけど、裁判は怖い」と感じていませんか?「弁護士に頼むお金もない。でも泣き寝入りはしたくない」と思っていませんか?
実は、無料で・弁護士なしで・短期間で解決できる制度があります。それが「あっせん」です。
現役の社会保険労務士として、多くの職場トラブルに関わってきました。この記事では、あっせんの基本から実際の使い方まで丁寧に解説します。
この記事では、あっせんとは何か・どんなトラブルで使えるか、無料で申請できる「労働局あっせん」の流れ、そして社労士会のあっせんと労働審判の使い分け方を順に説明します。
あっせんとは?「裁判なし」で解決できる制度
あっせんとは、中立の第三者が間に入り、労使の話し合いを助ける手続きです。裁判でも審判でもありません。お互いが合意すれば、それで解決です。強制力はない分、費用がかからず、素早く動けるのが最大の強みです。
あっせんを申請できる窓口は主に3種類あります。都道府県労働局の「紛争調整委員会によるあっせん」(行政型ADR)、社労士会が運営する「社労士会労働紛争解決センター」(民間型ADR)、そして裁判所の「労働審判」(より強制力のある手続き)です。
令和6年度の統計では、全国の総合労働相談件数は120万件を超えています。解雇トラブルだけでも毎年数百件のあっせん申請があります。あなたが一人で悩んでいる問題は、決して珍しいことではありません。
【実践メモ】
どの窓口を選べばいいか迷ったときは、まず「総合労働相談コーナー」に足を運んでください。予約不要・無料で相談できます。厚生労働省のウェブサイトで最寄りの窓口を検索できます。
無料で使える「労働局あっせん」の仕組み
労働局のあっせんは、申請費用が無料です。書類の記載もシンプルで、弁護士なしで申請できます。会社と直接交渉するのは精神的につらいですが、あっせんなら委員が間に立ってくれます。直接向き合わなくてすみます。
申請から解決までの流れ
まず「総合労働相談コーナー」に相談に行きます。担当者が状況を聞いてくれます。会社との間に実際に紛争が生じていると確認できれば、あっせん申請に進めます。注意が必要なのは「紛争状態にあること」が条件だという点です。会社への漠然とした不満があるだけでは、申請が受け付けられない場合があります。
手続き自体は原則1回・2時間程度で行われます。あっせん委員が双方の言い分を聞き、合意できる落としどころを探ります。
紛争調整委員会によるあっせん手続の流れ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① あっせんの申請 | 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)または総合労働相談コーナーに申請書を提出 |
| ② 委任・開始通知 | 都道府県労働局長が紛争調整委員会へあっせんを委任。両当事者にあっせん開始と参加意思を確認 |
| ③ あっせんの実施 | あっせん委員が双方の主張を個別に聴取(双方が直接対面することはありません)。必要に応じてあっせん案を提示 |
| ④ 結果 | 【合意の場合】あっせん案の受諾または話し合いによる合意→紛争の解決 【不合意・不参加の場合】あっせん打ち切り→他の紛争解決機関を案内 |
出所:厚生労働省ホームページ「紛争調整委員会によるあっせん手続の流れ」をもとに作成
会社が参加を断ったら?
これが行政型あっせんの最大の弱点です。会社側に手続きへの参加義務はありません。会社が不参加を選べば、あっせんはその時点で終わります。ただし、そこで終わりではありません。次の手があります。
【実践メモ】
申請の前に、トラブルの内容を時系列でまとめておきましょう。「いつ・何が起きたか・誰が何を言ったか」を書き出すだけでOKです。相談の場で話がまとまりやすくなります。
夜間・土曜も対応「社労士会のあっせん」
仕事を抱えながら手続きするのは大変です。そんな方に向いているのが、社労士会が運営するあっせん窓口です。たとえば東京の窓口では、平日夜間(17時〜20時)や土曜日(13時半〜17時)にも対応しています。申請費用は無料です。
労働局あっせんとの違い
社労士会のあっせんは原則として最大3回まで実施できます。時間の制限もありません。1回の話し合いが数時間に及ぶこともあります。つまり、1回で合意できなくても、もう少し話し合いを続けることができます。また、オンラインでの手続きも可能です。遠方の方や外出が難しい方も利用できます。
【実践メモ】
「社労士会労働紛争解決センター」は各都道府県の社労士会が運営しています。お住まいの都道府県の社労士会ウェブサイトで、窓口と受付時間を確認してみてください。
より強力な解決が必要なら「労働審判」
あっせんで解決できなかった場合、または最初から強い対応が必要な場合は「労働審判」があります。労働審判は裁判所で行われますが、通常の裁判よりはるかに早く終わります。過去のデータでは、申請から3か月以内に約6割の事件が解決しています。平均でも80日程度です。
あっせんと労働審判の決定的な違い
最も重要な違いは「参加の強制力」です。あっせんでは、会社が参加を断ることができます。しかし労働審判では、呼び出しを受けたら正当な理由なく欠席できません。欠席した場合は労働審判法31条により5万円以下の過料の制裁が課される仕組みがあります。つまり、会社が「無視する」という選択肢がなくなります。これは労働者にとって大きな違いです。
審判が出たあとはどうなる?
話し合いがまとまらない場合、裁判官が「審判」を下します。この審判に納得できない場合は、2週間以内に異議を申し立てることができます。異議が出ると、通常の訴訟に移行します。あくまで最終的な選択肢です。
【実践メモ】
労働審判に進む場合は、弁護士への相談を強くお勧めします。法テラスの「審査なし法律相談」は電話で予約でき、収入が一定以下なら費用がかかりません。0570-078374(平日9時〜21時)に電話してみてください。
あっせんが不調でも大丈夫「時効の完成猶予」という保険
あっせんが失敗に終わっても、すぐに権利が消えるわけではありません。重要な制度があります。それが「時効の完成猶予」です。
「時効の完成猶予」とは何か
時効とは、一定期間が過ぎると権利を主張できなくなる制度です。たとえば未払い賃金の請求権は、現在の法律では原則5年(当面は3年)で時効になります。でも、あっせんを申請していた場合はどうなるか。あっせんが打ち切りになった後も、一定期間は時効のカウントが止まります。つまり、その期間内に訴訟などの次の手を打てば、時効で権利が消えることを防げます。
「あっせんを試みた」という行動自体が、時効への対策にもなるということです。だから、「どうせ会社は応じないだろう」と思っていても、あっせん申請には意味があります。
【実践メモ】
あっせんが打ち切りになったら、その通知を大切に保管してください。次の手段(労働審判・訴訟)を選ぶ際の重要な書類になります。時効の猶予期間が残っているうちに、専門家に相談することを優先してください。
よくある疑問
- 解雇されましたが、あっせんで解雇の取り消しを求めることはできますか?
- あっせんでは、解雇に対する補償金(和解金)を求めることが一般的です。「解雇を取り消して職場復帰する」という形での解決を求めるなら、労働審判や訴訟のほうが向いています。まず相談窓口で状況を話してみてください。
- 会社があっせんに参加しないと言ったらどうなりますか?
- 労働局・社労士会のあっせんでは、会社に参加義務がありません。不参加の場合はあっせんが打ち切りになります。ただし「時効の完成猶予」が働くため、次の手段(労働審判・訴訟)に移る時間が確保されます。あきらめずに専門家に相談してください。
- あっせんにお金はかかりますか?
- 労働局のあっせんも、社労士会のあっせんも、申請費用は無料です。ただし、代理人(特定社労士・弁護士)に依頼する場合は別途費用がかかります。労働審判に進む場合も、裁判所への申立費用が発生します。
- 仕事を休まないと手続きできませんか?
- 社労士会のあっせん窓口では、平日夜間や土曜日に対応している場合があります。またオンラインで手続きできる窓口もあります。お住まいの都道府県の社労士会に確認してみてください。
あっせん申請前のチェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 会社との間で実際にトラブルが発生しているか(紛争状態にあるか) | □ |
| トラブルの内容(解雇・ハラスメント・未払いなど)を整理しているか | □ |
| いつ・何が起きたかを時系列でメモにまとめているか | □ |
| 関連書類(雇用契約書・給与明細・メール・やりとりの記録)を保管しているか | □ |
| 最寄りの相談窓口(労働局または社労士会)の場所・受付時間を確認しているか | □ |
| 時効の期限(特に未払い賃金は原則5年・当面3年)が迫っていないか確認しているか | □ |
今日からできること
まず、トラブルの内容を書き出しましょう。いつ・何が起きたか・誰が何を言ったか、時系列でメモにまとめてください。記憶はどんどん薄れます。今すぐ書いておくことが大切です。
次に、証拠になるものを保管してください。雇用契約書・給与明細・メール・LINE・メモ書きなど、手元にある書類をすべて安全な場所に保存しましょう。
そして、相談窓口に連絡しましょう。最寄りの総合労働相談コーナー、または都道府県の社労士会労働紛争解決センターに、まず電話か訪問をしてみてください。相談は無料です。
まとめ
あっせんは裁判なし・費用なしで職場トラブルを解決できる制度です。労働局のあっせんは無料・1回2時間程度・弁護士なしで申請可能で、社労士会のあっせんは夜間・土曜対応・最大3回まで実施できます。会社が参加を断っても労働審判という次の手があり、あっせん申請自体が時効の完成猶予(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律16条・裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律25条)を生むため、権利を守る時間を確保できます。
正しい知識を持つことで、職場トラブルに対して適切な手段を選び、権利を守ることができます。まず相談窓口に足を運んでみてください。
あっせんの世界はまだまだ奥が深く、実際の申請書の書き方や交渉のコツ、具体的な事例など、紹介したい内容がたくさんあります。またどこかでご紹介できればと思います。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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