内定後の健康診断費用は誰が払う?雇入時健康診断と法的根拠を解説

「内定が出たのに、また健康診断を受けてきてくれと言われた。費用は自腹で」

内定後に会社から求められた健康診断の費用は、会社が負担するのが原則です。

この記事では、内定後の健康診断が「雇入時健康診断」に該当する理由、会社が費用を負担しなければならない法的根拠、プライバシーを侵害する健康情報の要求は断れる点を順に説明します。

「いつ求められたか」で費用負担が変わる

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採用プロセスにおける健康診断には、内定を出す前(選考中)に受診を求めるケースと、内定が出た後に受診を求めるケースがあります。この違いが、費用を誰が負担するかを左右します。

📌 ポイント:「いつ受診したか」ではなく、「会社からいつ求められたか」が重要です。内定後に求められた場合は、雇入時健康診断として扱われます。

内定前に求められた場合——費用は自腹になることも

採用可否を決める前に健康診断結果の提出を求める場合があります。企業には採用の自由があり(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日)、採否の判断にあたり業務遂行に必要な身体的条件を確認する目的が認められます。そのため、この段階での費用を会社に全額請求することは難しいケースがあります。ただし、求められる健康情報には厳しい制限があります(詳しくは後述)。

内定後に求められた場合——これは会社負担が原則

内定通知を受け取った後に健康診断を求められた場合、話は変わります。その時点では採否を判断する目的での健康診断とは言えません。これは労働安全衛生規則43条が定める「雇入時健康診断」に該当し、費用は会社が負担すべきものになります。

【実践メモ】

内定通知書や採用連絡のメール・チャット等は必ず保存しておきましょう。「いつ内定をもらったか」を証明するものが、費用請求のカギになります。

会社が健康診断費用を負担すべき法的根拠

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労働安全衛生法66条1項は、事業者に健康診断の実施を義務付けています。そして労働安全衛生規則43条は、「常時使用する労働者を雇い入れるとき」に健康診断を実施すると定めています。これを「雇入時健康診断」といいます。厚生労働省の通達「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」(昭和47年9月18日基発第602号)は、雇入時健康診断の費用は「当然、事業者が負担すべき」ものと明示しています。

✅ やること:健康診断費用の領収書は必ず受け取り、保管しましょう。会社に費用を請求する際の証拠になります。

「会社のルールだから」は通じない

「うちでは応募者の自己負担がルールです」と言ってくる会社があります。しかし、法律に反する社内ルールは無効です。「労働安全衛生規則43条と昭和47年9月18日基発第602号に基づき、費用の精算をお願いしたい」と書面で伝えましょう。

⚠️ 注意:口頭での交渉は記録が残りません。メールや書面で「費用の負担について確認させてください」と伝えると、やり取りが証拠として残ります。

3ヶ月以内に健康診断を受けていれば再受診は不要

すでに別の機会で健康診断を受けている場合があります。直近3ヶ月以内の受診結果を提出すれば、新たに受け直す必要はありません(安衛則43条ただし書)。「もう一度受け直してきてください」と言われても、3ヶ月以内の結果があれば断れます。

📌 ポイント:定期健康診断の結果用紙は、受診後に必ず手元に保管しておきましょう。転職活動中に活用できることがあります。

健康情報の提供を求められたら——プライバシーを守る権利

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採用選考中に健康診断の結果を提出するよう求められることがあります。しかし、会社が自由に何でも要求できるわけではありません。健康情報はあなたの大切なプライバシーです。

業務に関係のない検査は断れる

会社が求めることができる健康情報は、採用後に従事することとなる職種や具体的業務の内容等に照らして客観的かつ合理的な必要性が認められるものに限られます。通常の業務に支障なく従事できる疾病の有無について、本人の了承なく検査を求めることは個人のプライバシーを侵害する違法なものと解されています(東京都(警察学校・警察病院HIV検査)事件・東京地判平成15年5月28日、B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件・東京地判平成15年6月20日)。担当業務と医学的に無関係な検査結果の提出は断ることができます。

【実践メモ】

「この検査は私が担当する業務に、どのような理由で必要ですか?」と確認することはあなたの正当な権利です。目的のわからない検査には、理由を尋ねてから応じましょう。

採用後の健康管理も会社の義務

入社後は、会社が定期的に健康診断を実施する義務があります(安衛則44条)。この定期健康診断の費用も、会社が負担すべきものです。「自分で受けてきて」と言われても、費用は会社に請求できます。

✅ やること:入社後も定期健康診断を受ける機会が与えられているか確認しましょう。実施されていない場合は、労働基準監督署に相談できます。

よくある疑問

採用前に健康診断を受けてほしいと言われました。費用は全額自腹ですか?
内定が出る前の選考段階であれば、費用の全額を会社に求めることは難しいケースがあります。ただし、内定通知が届いた後に求められた場合は、会社が費用を負担すべきです(安衛則43条・昭和47年9月18日基発第602号)。内定の時期を確認することが大切です。
特定の感染症の検査を受けてくれと言われました。断れますか?
担当業務との関係で医学的に必要でない限り、断ることができます。通常の業務に支障をきたさない感染症について、同意なく検査を求めることを違法と判断した裁判例があります(東京都(警察学校・警察病院HIV検査)事件・東京地判平成15年5月28日等)。「この検査は業務上どのような理由で必要ですか?」と確認しましょう。
先月、別の会社の採用選考で健康診断を受けました。新しい会社にも提出できますか?
受診から3ヶ月以内であれば、その結果を提出することで新たな受診を省略できます(安衛則43条ただし書)。
入社後に費用の精算を求めたら「採用前の費用だから払えない」と言われました。どうすれば?
健康診断を求められたタイミングが内定後であれば、会社の主張は正しくありません。内定の証拠(採用連絡のメール等)と健康診断の受診日を照合し、書面で再度請求しましょう。それでも対応しない場合は、労働基準監督署や社会保険労務士への相談を検討してください。

チェックリスト:健康診断費用で損しないために

確認項目 チェック
健康診断を求められた時点で内定が出ていたか確認した
内定通知書・採用連絡メールを保存している
健康診断の領収書を受け取り保管している
求められた検査内容が担当業務と関係あるか確認した
直近3ヶ月以内の健康診断結果がないか確認した
費用請求の意思をメール・書面で記録に残した

今日からできること

まず、内定通知の日付を確認してください。メールや書面で内定をもらった日を調べましょう。健康診断を求められた日付との前後関係が重要です。

次に、健康診断の領収書を探してください。すでに支払い済みでも、領収書があれば費用請求ができます。会社の担当者にメールで問い合わせてみましょう。

そして、求められた検査内容を整理してください。何の検査を求められたかをメモしておきましょう。業務内容と照らして不合理な検査は、今後断る根拠になります。

まとめ

内定後に求められた健康診断は「雇入時健康診断」に該当し、費用は会社負担が原則です(安衛則43条・昭和47年9月18日基発第602号「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」)。直近3ヶ月以内の健康診断結果があれば再受診を省略できます(安衛則43条ただし書)。また、採用後に従事する職種や業務内容に照らして合理的な必要性のない感染症検査は、本人の同意なく求めることはできません(東京都(警察学校・警察病院HIV検査)事件・東京地判平成15年5月28日、B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件・東京地判平成15年6月20日)。費用の請求はメール・書面で行い、記録を残すことが大切です。

正しい知識を持つことで、採用時の健康診断に関するお金とプライバシーを守ることができます。疑問な点は領収書・内定通知書を確認のうえ、労働基準監督署や社労士に相談してください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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