「あなたには住居手当を払えない」。ずっとそう言われてきた。
でも調べてみたら、その格差は法律違反の可能性があるとわかった。
いざ声を上げようとしたとき、会社が先手を打ってきた。正社員の住居手当も廃止すると言うのです。
これは「逃げ得」になってしまうのでしょうか。状況によっては、まだ戦えます。
この記事では、住居手当の格差がなぜ「法律違反」になりうるのか、会社が「廃止」で格差解消する手口の仕組み、あなたが今すぐ取れる具体的な対抗策を順に説明します。
住居手当の格差は「違法」になりえる
契約社員やパート社員には住居手当がない。でも正社員には支給されている。この格差は法律で問題になる場合があります。根拠となるのは、パートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)8条です。この法律は、正社員と非正規社員の「不合理な待遇差」を禁止しています。
日本郵便(時給制契約社員ら)事件(最一小判令和2年10月15日・労判1229号58頁)では、転居を伴う配転等のない正社員(新一般職)に住居手当が支給されていた一方、時給制契約社員に支給されていなかった点が不合理と認定されています。住居手当の場合、問われるのは「その手当を支給する目的」です。転勤がない社員区分に住居手当を払うケースでは、「転勤がある正社員のための手当」という理由が通らなくなり、非正規社員への不支給が「不合理」と判断されることがあります。
会社が使う「廃止」という抜け道
格差が「不合理だ」と認定されると、会社は困ります。手当を非正規にも払うとコストが増えるからです。そこで一部の会社が使う手が「廃止」です。正社員の住居手当をなくしてしまえば、非正規との「差」がなくなります。差がなくなれば、「不合理な格差がある」とも言えなくなります。これが「水準を上げるのではなく、下げることで格差解消する」手口です。
パート有期法8条が禁止するのは「不合理な格差の存在」であり、格差そのものがなくなれば違反も成立しないとされています(ハマキョウレックス事件・最二小判平成30年6月1日・民集72巻2号88頁参照)。正社員の就業規則が正式な手続きを経て変更された場合、その後の比較対象となる正社員の労働条件は変更後の内容となり、格差がない状態が成立します。
【実践メモ】
もし今、住居手当の格差が問題になっているなら、できるだけ早く動くことが大切です。会社が就業規則を変更する前であれば、過去の格差について損害賠償を請求できる可能性があります。まず、現在の就業規則・給与規程を確認してください。就業規則は、社員なら会社に開示請求できます。
日本郵便事件(令和6年)が示した現実
2024年5月、東京地裁でひとつの判決が出ました。日本郵便事件(東京地判令和6年5月30日・労経速2566号3頁)です。この事件では、契約社員らが住居手当の格差について損害賠償を求めました。裁判所は、請求を認めませんでした。理由は「正社員の住居手当が廃止されたため、格差がなくなった」というものでした。正社員の手当を廃止して格差をなくしても、法律上は問題ないという判断です。
ただし、この判決はひとつの裁判例にすぎません。すべてのケースに当てはまるわけではありません。個別の状況によって、結論が変わることがあります。
【実践メモ】
格差が「不合理だ」と認定された時期がある場合、その期間についての請求は廃止後も可能性が残ります。賃金請求権の時効は原則5年(当面は3年)です。放置すると請求できる期間が縮んでいきます。今すぐ動いてください。
経過措置手当にも目を光らせて
住居手当廃止のとき、正社員だけに「経過措置手当」を払う会社があります。急な収入減を和らげるための一時的な補填です。問題は、この補填が非正規には支給されない場合があることです。
日本郵便事件でも、この経過措置が争われました。裁判所は「不合理とはいえない」と判断しました。ただ、この点には議論の余地があります。もともと非正規側に不合理な格差があると認定されていた場合、その後の廃止時に正社員だけ補填することが公平かどうかは、簡単に割り切れない問題が残っています。
あなたが今すぐ取れる対抗策
「廃止されたら終わり」ではありません。今からでもできることがいくつかあります。
廃止前の格差についての請求を検討する
住居手当の格差が「不合理だ」と認定された時期がある場合、その期間にさかのぼって損害賠償を請求できる可能性があります。賃金請求権の時効は原則5年、当面は3年です(労基法115条)。早めに動かないと、請求できる範囲が狭くなります。
就業規則の変更の有効性を確認する
就業規則の変更が有効になるには、変更に「合理的な理由」があること、そして労働者への適切な周知が必要です(労働契約法10条)。手続きに問題がある場合は、変更自体を争える余地があります。
他の待遇格差も同時に確認する
住居手当以外にも、不合理な格差がある可能性があります。賞与・通勤手当・食事補助・各種休暇など、さまざまな待遇を確認しましょう。複数の格差をまとめて指摘することで、交渉力が高まります。
【実践メモ】
まず、雇用契約書・就業規則・給与明細を手元に集めてください。次に、「正社員と比べてない待遇」をリストにします。そのうえで、社会保険労務士か弁護士に相談するのが最短ルートです。初回無料の相談窓口も多いので、気軽に問い合わせてみてください。
よくある疑問
- 住居手当が廃止されたあとでも請求できますか?
- 廃止後の期間は難しい状況があります。ただし廃止前に格差があった期間については、損害賠償を請求できる可能性があります。賃金請求権の時効(原則5年・当面3年・労基法115条)が切れる前に専門家に相談してください。
- 就業規則の変更を知らなかった場合はどうなりますか?
- 就業規則は会社が労働者にいつでも見られる状態にしておく義務があります(労基法106条)。変更の周知に問題があった場合は、変更の効力自体を争える可能性があります。
- 正社員と同じ仕事をしているのに手当がないのはおかしくないですか?
- その通りです。パート有期法8条は、仕事の内容・責任・配置の変更範囲などを考慮して不合理な格差を禁止しています。同じ仕事で待遇が異なる場合は、法的に問題になる可能性があります。
- 会社に待遇差について聞いたら、不利に扱われませんか?
- パート有期法14条などにより、待遇差についての申し出を理由にした不利益取り扱いは禁止されています。もし報復があれば、それ自体が違法です。記録を残したうえで相談してください。
チェックリスト:あなたの住居手当、確認できてる?
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 雇用契約書に住居手当の記載があるか確認した | □ |
| 正社員との待遇差の説明を会社に求めた(パート有期法14条) | □ |
| 最近、就業規則の変更通知が来ていないか確認した | □ |
| 過去3年分の給与明細を保存している | □ |
| 住居手当以外の待遇格差(通勤手当・賞与・各種休暇等)も確認した | □ |
| 社労士または弁護士に相談した(または予定している) | □ |
今日からできること
まず、給与明細・雇用契約書・就業規則を手元に集めてください。過去の格差を証明するために必要です。3年分以上あれば安心です。
次に、待遇差の説明を会社に求めてください。パート有期法14条に基づき、正社員との待遇差の説明を求める権利があります。口頭でも書面でも可能です。
そして、社労士や弁護士に相談してください。状況を整理するだけでも大きな前進です。初回無料の相談窓口を活用しましょう。
まとめ
非正規と正社員の住居手当格差は、パート有期法8条に基づき「不合理」と判断される場合があります。一方、会社が正社員の住居手当を就業規則変更により廃止した場合、廃止後の格差についての損害賠償請求は難しくなります(日本郵便事件・東京地判令和6年5月30日・労経速2566号3頁)。ただし廃止前に格差があった期間については損害賠償を請求できる可能性が残り、就業規則の変更手続きに不備がある場合は変更自体を争える余地があります(労契法10条)。また住居手当以外の待遇格差(賞与・通勤手当・各種休暇等)も合わせて確認することが重要です。
雇用形態に関係なく、あなたには正当な待遇を求める権利があります。賃金請求権の時効は原則5年(当面は3年・労基法115条)です。早めに専門家に相談することで、取れる行動の選択肢が広がります。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
