「来月からテレワークを廃止します」
会社からそう告げられ、不安を感じていませんか。通勤時間の削減、育児や介護との両立。在宅勤務は、あなたの生活を支える大切な働き方になっているはずです。
状況によっては、テレワーク廃止を断ることができます。
この記事では、雇用契約書・就業規則の確認ポイント、拒否できるケースとできないケースの違い、育児中・介護中の方への特別な保護ルール、「同意書にサインして」と言われたときの注意点を順に説明します。
まず確認!あなたのテレワークはどこに根拠がある?
テレワーク廃止に対抗できるかどうかは、あなたのテレワークの「根拠」によって大きく変わります。まず、雇用契約書(または労働条件通知書)と就業規則(テレワーク規程・在宅勤務規程を含む)を確認してください。
契約書に「勤務場所:自宅」「変更範囲:自宅のみ」と書いてある場合
これは最も強い保護です。「勤務地限定合意」と呼ばれる状態で、自宅以外では働かないという合意が成立しているということです。この場合、会社は就業規則を変更しても、あなたを出社させることはできません(労働契約法10条ただし書)。
東京地裁(令和4年11月16日・労判1287号52頁)では、雇用契約書に「事務所勤務」と明記されていたにもかかわらず、実際の就労実態が在宅中心だったケースで、裁判所は書類の文言より働き方の実態を優先し、「勤務場所は原則として自宅」と判断しています。つまり、書類に「出社」と書いてあっても、実態が在宅中心なら守られる可能性があります。
【実践メモ】
今すぐ雇用契約書を確認してください。「就業場所」と「変更の範囲」の欄を見ましょう。「自宅」「変更なし」などの記載があれば、それがあなたの武器です。採用時のメールや求人票も保存しておきましょう。
就業規則に「テレワークを行う権利」が書いてある場合
たとえば「未就学児を養育する従業員は、月〇日を限度として在宅勤務を行うことができる」という規定がある場合、「できる」という権利を従業員に与えている規定は、会社が一方的に廃止することはできません(労働契約法9条)。廃止するには「就業規則の不利益変更」のルールに従う必要があり、合理的な理由と従業員への周知が必要です(労働契約法9条ただし書・10条)。
「会社が命じることができる」という書き方になっている場合
「業務上の必要に応じて在宅勤務を命じることができる」という規定は会社の命令権を定めたものです。そのため廃止しても、原則として不利益変更にはなりません(労働契約法12条)。ただし、実態をよく確認することが大切です。次のセクションで説明します。
書類がなくても守られる場合がある
就業規則に明確な規定がなくても、長期間にわたってテレワークが続いてきた実態があれば、「労使慣行」が成立している可能性があります。労使慣行とは、長年の慣習として職場に定着したルールのことです。法的な効力を持つ場合があります。
テレワークを続けてきた期間の長さ、利用してきた社員の範囲の広さ、会社が積極的に認めてきたかどうか、業務の性質(在宅でも支障なく完結できるか)などが、労使慣行の判断材料になります。
【実践メモ】
業務指示のメール、上司からの「在宅で対応を」というチャット、勤怠システムの記録。これらは後から消えることがあります。今すぐスクリーンショットや印刷で手元に保管してください。
育児・介護中の方は特別に守られています
お子さんを育てながら、または家族を介護しながら働いている方には、追加の保護があります。
2025年4月施行:3歳未満の子を育てている方
改正育児・介護休業法(2025年4月施行)により、3歳未満の子を育てている従業員については、会社がテレワークを選択肢として提供する「努力義務」が課されました。努力義務とは必ずしなければならない義務ではありませんが、この法律の趣旨からすると、テレワークを廃止する場合には相当な理由が求められます。
2025年10月施行:3歳〜小学校就学前の子を持つ方
2025年10月からは対象がさらに広がります。3歳から小学校就学前の子を育てている従業員に対して、会社はテレワークを含む複数の制度から2つ以上を提供しなければなりません。これは努力義務ではなく「義務」です。テレワークを廃止する場合、会社は別の制度で代替する必要があります。
【実践メモ】
育児中にテレワーク廃止を通告された場合は、「育児・介護休業法に基づく対応はどうなりますか」と人事部門に書面で確認することをお勧めします。口頭ではなく、メールなど記録が残る形でのやり取りを心がけてください。
「同意書にサインして」と言われたときの注意点
会社が就業規則の変更だけでなく、個別に同意を求めてくることがあります。注意してほしいのは、「自由な意思に基づく同意」でなければ無効になる可能性があるということです(山梨県民信用組合事件・最二小判平成28年2月19日・民集70巻2号123頁)。
裁判所は、あなたが受ける不利益の大きさ、同意に至るまでの状況(圧力や強要がなかったか)、会社から十分な説明を受けたかどうかを確認して「本当に自由な意思だったか」を判断します(同事件参照)。
テレワーク廃止によって引越しが必要になるなど、大きな不利益を受ける場合は特に慎重に判断してください。会社が費用の負担や賃上げなどの代償措置を提示してこない場合は、一方的な不利益変更として後から争える余地があります。
【実践メモ】
同意書を求められたら「少し考えさせてください」と伝える権利はあなたにあります。内容を十分に理解してから判断しましょう。不安な場合はサインの前に、社労士や弁護士に相談することをお勧めします。
会社がテレワーク廃止を強行できない場合
会社がテレワークの廃止・縮小を指示できる根拠がある場合でも、権利の濫用(労働契約法3条5項)と判断される場合は実施できません。配転命令に関する最高裁判決(東亜ペイント事件・最二小判昭和61年7月14日)を踏まえると、業務上の必要性が存在しない場合、不当な動機・目的をもってなされた場合、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利濫用と判断されることがあります。
また、健康上の理由で通勤が困難な場合(例:メニエール病による長時間通勤が困難な事例・京都地判平成12年4月18日・労判790号39頁)も権利濫用と判断されることがあります。健康状態を理由に通勤が難しい場合は、医師の診断書を準備して会社に説明することをお勧めします。
実際に起きたテレワークトラブルから学ぶ
過去の裁判例を見ると、テレワークをめぐるトラブルは増えています。ここでは、労働者に参考になる2つの事例をご紹介します。
ルール違反を長期間続けて降格処分に(東京地判令和5年4月26日)
在宅勤務中に勤怠管理ルールを1年以上にわたって破り続け、調査への協力も拒んだ管理職について、裁判所は会社の降格処分を有効と判断しました。在宅勤務でも、職場と同じルールを守ることは大前提ということです。
「サボっている」と疑われたが裁判で労働者が勝訴(東京地判令和5年4月27日)
PCの作業ログを根拠に「業務を怠けていた」と判断した会社が給与の返還を求めた事例があります。裁判所は、仕事と仕事の合間に生じる待機時間は労働時間に含まれると判断しました。会社の請求は認められませんでした。作業ログだけで怠業と決めつけることはできません。
【実践メモ】
「在宅でサボっている」と言われた場合は、業務内容とその時間配分をメモしておくと反論材料になります。メール・チャットの送受信履歴なども証拠として使えます。
よくある疑問
- 就業規則にテレワークの規定がなくても、2年以上使っていれば廃止を拒否できますか?
- 期間の長さだけで決まるわけではありませんが、会社が積極的に認めてきた実態があり、業務がテレワークを前提に組まれていた場合は、労使慣行の成立を主張できる可能性があります。具体的な状況を整理したうえで専門家に相談することをお勧めします。
- 「廃止に同意しないと評価を下げる」と言われました。これは問題ありませんか?
- 正当な理由のない不利益な扱いをほのめかして同意を迫る行為は、自由な意思に基づく同意とは言えません(山梨県民信用組合事件・最二小判平成28年2月19日)。このようなやり取りは必ず記録に残してください。パワーハラスメントに該当する可能性もあります。
- フルリモートで採用されたのに突然出社を命令されました。断れますか?
- 採用時に「フルリモート」を前提とした合意があった場合、勤務地限定合意が成立している可能性があります(大阪高判平成17年1月25日・労判890号27頁参照)。採用面接の記録、求人票、入社時の説明メールなどが証拠になります。今すぐ保存しておきましょう。
- 育休復帰後すぐにテレワーク廃止を告げられました。どうすれば?
- 育児・介護休業法による保護が使える可能性があります。お子さんの年齢に応じて会社に対応を求める根拠があります。まず人事部門に書面で確認し、不当な対応をされた場合は都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料)に相談しましょう。
チェックリスト:あなたは拒否できる?確認表
| 確認項目 | チェック | 拒否の可能性 |
|---|---|---|
| 雇用契約書に「変更範囲:自宅のみ」と書いてある | □ | 高い |
| 就業規則にテレワークを「行うことができる」権利規定がある | □ | 高い |
| フルリモート採用として入社した経緯がある | □ | 高い |
| 3歳未満の子を育てている(2025年4月〜) | □ | 中〜高 |
| 3歳〜就学前の子を育てている(2025年10月〜) | □ | 中〜高 |
| 2年以上継続してテレワークを利用し、会社も認めてきた実態がある | □ | 中 |
| 廃止により引越しや多大な通勤負担が発生する | □ | 交渉材料になる |
今日からできること
まず、雇用契約書と就業規則を確認してください。「勤務場所の変更範囲」「テレワークに関する規定」を探し、コピーを手元に保管してください。
次に、テレワーク利用の記録を整理してください。いつから使っているか、会社に承認された記録(メール・チャット等)を今すぐ保存しておきましょう。
そして、一人で抱え込まず、専門家に相談してください。社労士・弁護士への相談、または都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料・予約不要)を活用しましょう。
まとめ
テレワーク廃止への対抗力は、雇用契約書・就業規則の内容によって大きく変わります。「勤務場所:自宅のみ」の合意があれば会社は一方的に変更できず(労働契約法10条ただし書)、就業規則がテレワークを「権利」として認めている場合は廃止に合理的な理由が必要です(労働契約法9条・10条)。育児中・介護中の方には改正育児・介護休業法による特別な保護があり、同意書へのサインを迫られても自由な意思でない場合は無効になりえます(山梨県民信用組合事件・最二小判平成28年2月19日)。また業務上の必要性がない廃止や著しい不利益を負わせる廃止は権利の濫用として争えます(労働契約法3条5項・東亜ペイント事件・最二小判昭和61年7月14日)。
正しい知識を持つことで、テレワークに関する自分の権利を正確に把握し、会社との交渉や専門家への相談を適切に進めることができます。まず契約書と就業規則を確認し、記録を整理して、必要であれば専門家に相談してください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
Photo by Светлана Химочка on Unsplash

