定年後にグループ会社へ移された:高年法の継続雇用と偽装請負の見分け方

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定年後にグループ会社へ移された:高年法の継続雇用制度と派遣・偽装請負の見分け方

「定年になったら、グループ会社に行ってほしい」

そう会社に言われたとき、どうすればいいか迷いませんか。受け入れるしかないのか、条件は変わるのか、断ったら解雇されるのか……不安は当然です。

結論から言います。グループ会社での再雇用は法律上認められた制度です。ただし、不当に不利な条件を押しつけることには限界があります。

現役の社会保険労務士として、今回は「定年後のグループ会社再雇用」を労働者の視点から解説します。グループ会社での再雇用が成立するための条件、派遣・請負で再雇用されるときに注意すべきこと、そして偽装請負を見抜いて自分の権利を守る方法を順に説明します。

定年後も働き続けるために、まず知っておくこと

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日本では、65歳までの雇用確保が会社に義務づけられています。根拠は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)」です。定年を迎えても、65歳まで働ける環境を会社が用意しなければなりません。

ここで注意してほしい点があります。「元の会社で必ず働き続けられる」とは限りません。法律は、グループ会社(特殊関係事業主)での再雇用も認めているからです。そのため、定年後に別の会社へ移るよう求められることがあります。これ自体は違法ではありません。ただし、どのグループ会社でも対象になるわけではなく、条件があります。

📌 ポイント:高年法9条2項は、定年後の継続雇用をグループ会社(特殊関係事業主)で実施することを認めています。ただし、元の会社とグループ会社の間で、雇用を約束する書面による契約を結ぶことが必要です。

「特殊関係事業主」に当たるかどうかの判断基準

「グループ会社ならどこでもいい」というわけではありません。法律が認める「特殊関係事業主」には、明確な基準があります(高年法施行規則4条の3第2項・第4項)。

親子関係にある会社(支配力基準)

議決権の過半数を保有するなど、経営を実質的に支配している関係です。元の会社の子会社・親会社などがこれに当たります。

関連会社(影響力基準)

議決権の20%以上を持つなど、一定の影響力がある関係です。いわゆる「関連会社」がここに含まれます。

⚠️ 注意:「グループ会社です」と言われても、法律上の要件を満たさない場合があります。移動先の会社が本当に条件を満たしているか、資本関係(出資比率など)を書面で確認することが大切です。

【実践メモ】

「グループ会社で働いてほしい」と言われたら、すぐに「元の会社との間に書面による合意はありますか?」と確認しましょう。この書面がない場合、法律上の継続雇用措置として認められない可能性があります。

派遣・請負で再雇用されるときに注意すること

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グループ会社での再雇用には、直接雇用のほか、派遣や請負という形もあり得ます。それぞれに異なる注意点があります。

派遣の場合:「常時雇用」かどうかを必ず確認する

グループ会社の派遣会社に再雇用され、元の職場に戻る形があります。見た目には働く場所が変わらないように感じますが、雇用主が変わるため、労働条件や権利の内容が変わります。

重要なのが「常時雇用」という条件です。常時雇用とは、雇用の安定性が継続的に保障されている状態のことです。具体的には期間の定めなく雇用されること、または再雇用の時から見て1年を大幅に超えた継続雇用が見込まれることが必要とされています。短期契約を繰り返すだけでは、法律上の継続雇用とはみなされません。

✅ やること:派遣での再雇用を提案されたら、契約期間を必ず書面で確認しましょう。「3ヶ月ごとの更新」などの短期契約は、常時雇用に当たらない可能性があります。

同一労働同一賃金のルールを見落とさない

派遣社員には「同一労働同一賃金」のルールが適用されます。同じ仕事をしている社員と比べて、不当に低い賃金は認められません。定年前とほぼ同じ業務なのに、賃金だけ大幅に下がる場合は交渉の余地があります。

📌 ポイント:高年法は「労働者の希望通りの条件を出す義務」まで会社に課していません。ただし、法律の趣旨に明らかに反する条件の提示は認められません。条件に大きな疑問がある場合は専門家に相談しましょう。

【実践メモ】

派遣での再雇用を提案されたら、契約期間が常時雇用の条件を満たすかどうか、担当業務の具体的な内容、賃金額と各種手当の有無という3点を書面で確認しましょう。口頭だけで話が進むことのないよう、必ず書面にしてもらいましょう。

「偽装請負」という罠を見抜く方法

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再雇用の形として「請負」が提案されることもあります。請負とは、仕事の成果に対して報酬が支払われる働き方で、指揮命令はあくまで雇用主(請負会社)の側にあります。

ここで問題になるのが「偽装請負」です。書類上は「請負契約」になっているのに、実態は元の会社から指示を受けて働いている状態を偽装請負といいます。これは労働者派遣法に違反する違法行為です。

偽装請負かどうかを見分けるポイント

次のような状況が続いている場合、偽装請負の疑いがあります。元の会社の担当者から日常的に直接業務指示が来る、元の会社の就業ルールに従うよう求められている、作業の進め方・スケジュールを元の会社が細かく管理している、元の会社の設備・場所・道具をそのまま使っているといったケースです。

⚠️ 注意:偽装請負は会社側の違法行為ですが、気づかないまま続くケースもあります。「請負のはずなのに、元の会社から直接指示が来る」と感じたら、労働基準監督署や社会保険労務士への相談を検討してください。

【実践メモ】

「請負です」と言われながら、元の会社の担当者からメールや口頭で業務指示が届いている場合は、そのやりとりの記録(メール・チャット履歴など)を保存しておきましょう。後から状況を証明するうえで重要な材料になります。

よくある疑問 Q&A

Q: グループ会社への再雇用は拒否できますか?
A: 継続雇用の制度として提案されている場合、拒否すると「継続雇用を辞退した」と扱われる可能性があります。ただし、著しく不合理な条件を一方的に押しつけられた場合は交渉の余地があります。条件の内容をよく確認し、疑問があれば専門家に相談しましょう。
Q: 定年後の賃金はどこまで下げられますか?
A: 法律は「希望通りの賃金を保障する」ものではありません。ただし、業務内容が定年前とほぼ変わらないのに著しく低い賃金を提示するなど、高年法の趣旨に反する条件は認められない可能性があります。条件に納得できない場合は、記録を残して専門家に相談しましょう。
Q: 偽装請負になっているか確認する方法はありますか?
A: 「誰から業務指示を受けているか」が最大のポイントです。書類上の雇用主(請負会社)ではなく、元の会社の担当者から日常的に直接指示が来ている場合は、偽装請負の疑いがあります。状況をメモや記録として残しておきましょう。
Q: グループ会社での再雇用に必要な書面とは何ですか?
A: 元の会社とグループ会社の間で、定年後の雇用を約束する契約書が必要です。また、あなた自身も再雇用後の労働条件通知書または雇用契約書を書面で受け取る権利があります。口約束だけで進んでいる場合は、必ず書面化を求めましょう。

チェックリスト:グループ会社再雇用で確認すること

確認項目 チェック
移動先の会社が法律上の「特殊関係事業主」に当たるか確認した
元の会社と移動先会社の間に書面による合意があるか確認した
再雇用後の雇用形態(直接雇用・派遣・請負)を書面で確認した
派遣の場合、契約が「常時雇用」の条件を満たすか確認した
賃金・勤務時間・業務内容の条件を書面で受け取った
請負の場合、元の会社から直接業務指示を受ける状況になっていないか確認した
条件に疑問がある場合、専門家への相談を検討した

今すぐはじめる3つのアクション

まず提示された条件を書面でもらってください。口頭の説明だけで済まされないよう、雇用契約書・労働条件通知書を必ず書面で受け取りましょう。

次に、移動先会社と元の会社の関係を具体的に確認しましょう。「グループ会社です」という言葉だけを信じず、資本関係の具体的な内容(出資比率など)を確認することが大切です。

そして、交渉や相談の記録を残しておきましょう。条件交渉のやりとりはメールや書面で残す習慣をつけましょう。後から状況を証明する材料になります。

まとめ

高年法9条2項は定年後の継続雇用をグループ会社(特殊関係事業主)で行うことを認めていますが、対象となるグループ会社には議決権の保有割合などによって判断される法律上の条件があります(高年法施行規則4条の3)。また元の会社との書面による合意も必要です。派遣形態で再雇用される場合は常時雇用の要件と同一労働同一賃金のルールが適用され、書類上は「請負」でも元の会社から直接指示を受けているなら偽装請負として違法になります。

条件に納得できない場合は書面で記録を残し、早めに専門家に相談しましょう。定年後の働き方は、あなたとご家族の生活に直接影響します。「言われるままに受け入れる」のではなく、自分の権利をしっかり確認して、納得できるセカンドキャリアを手にしてください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Zulfugar Karimov on Unsplash



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