育休取得で昇格が遅れた:育児介護休業法が禁じる不利益取扱いと対処法





育休で昇格試験を受けられなかった:最高裁が示す違法の境界線と対処法

育休から戻ったら、昇格試験の受験資格がなくなっていた。そんな理不尽な思いをしていませんか?

結論から言います。育休を理由に昇格の機会を奪うことは、違法になる可能性があります。

この記事では、現役の社会保険労務士が育休中の不利益取扱いを禁じる法律の内容、昇格試験の受験機会を奪う行為を違法とした最高裁判決、そして会社に対して今すぐできる具体的な対抗手段の3点を解説します。

育休を取ると昇格に不利?法律はどう言っているか

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育児・介護休業法10条は、育休を取ったことを理由に解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。つまり、育休を取ったことを理由に昇格や評価で損をさせることは禁止されています。

📌 ポイント:この「不利益な取扱い」には、昇格・昇進の人事評価で不当に低い点数をつけることが含まれます。これは厚生労働省の指針(育介指針第2の11⑵リ)にも明記されています。

具体的にどんな行為が「不利益取扱い」にあたるかというと、育休取得者を休業期間を超えた期間にわたって昇格選考の対象外にしたり、育休の申出・取得という事実だけを根拠として当該育休をしていない者よりも不利に評価したりすることが該当します(育介指針第2の11⑶ホ)。あなたの会社で、似たようなことが起きていませんか?

✅ やること:まず育休前の人事評価の記録(評価通知書・査定シートなど)を手元に確保してください。これがすべての出発点になります。

「評価できないから受けさせない」は最高裁に否定された

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会社側からよく聞く言い訳があります。「休んでいる期間は評価できないから、試験の受験資格が得られないのは仕方ない」というものです。しかし、この考え方は最高裁判所によって否定されています。

最高裁が示した重要な判断

医療法人稲門会(いわくら病院)事件(最二小判平成27年12月16日)という判決があります。この事件では、一定期間以上の育休を取得した社員を人事評価の対象外とする制度のもとで、昇格試験の受験資格を得られなかった状況が争われました。

裁判所は、評価期間のうち一定以上勤務していれば人事評価の対象となる制度設計のもとでは、育休を取得した場合でも本来は昇格試験を受ける資格を得られる立場にあったと認定し、受験の機会を与えなかったことは違法であると判断しました。つまり、育休中は評価できないから試験を受けさせないという会社の論理は、最高裁に否定されたということです。

📌 ポイント:これは最高裁の判決です。下級裁判所だけでなく、すべての裁判所・会社に影響する最も重要な判断です。

【実践メモ】

この判決名「医療法人稲門会(いわくら病院)事件・最二小判平成27年12月16日」をメモしておいてください。会社の人事担当者に「最高裁の判例があります」と伝えるだけで、交渉の流れが変わることがあります。

就業規則に書いてあっても、法律違反は無効になる

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「就業規則にそう書いてある」と会社が主張することがあります。しかし、就業規則の内容が法律に反している場合、その部分は無効になります。

⚠️ 注意:就業規則は「法律の範囲内でのみ有効」です。どれだけ詳しく書いてあっても、育児・介護休業法に反する内容は通用しません。

労働契約法12条にも、就業規則が法令に違反する場合はその部分が無効になると定められています。「うちの会社の規則ではこうなっている」と言われても、怖じける必要はありません。法律は就業規則より上にあります。

✅ やること:会社に対して「育児・介護休業法に基づき、昇格試験の受験機会を求めます」と書面で伝えましょう。口頭だけでなく、記録に残すことが大切です。

育休前の評価実績が、あなたの武器になる

育休を取ったことで昇格が遅れると、昇格・昇給・役職手当の受取りがすべて後ろにずれるという連鎖的な影響が生じます。これが、育介法が禁止する「不利益取扱い」の実態です。

評価期間が不足する場合はどう考えるか

たとえば、昇格要件が「4年連続A評価以上」だとします。育休で1年分の評価が欠けたとして、単純に「要件を満たさない」とすることは問題があります。育休取得前の実績が要件を満たしていたか、または十分に満たせていたと判断できる場合は、昇格の機会を与えるべきとされます。実務的には、育休前の評価水準をもとに標準的な評価を付与したり、育休前の実績をもとに判断したりといった対応が適切とされています。

【実践メモ】

育休前の人事評価の記録は必ず手元に残してください。「自分は○年連続でA評価を取得していた」という事実が、会社との交渉で重要な証拠になります。評価通知書、面談記録、メールなど何でも構いません。

よくある疑問 Q&A

Q: 育休中に昇格できなかった場合、会社に何か請求できますか?
A: 状況によっては損害賠償請求が可能な場合があります。昇格が遅れたことによる賃金差額や、精神的な損害について請求できる可能性があります。社会保険労務士や弁護士に相談してみてください。
Q: 男性の育休でも同じ保護はありますか?
A: はい、同じです。育児・介護休業法10条は性別を問わず適用されます。男性が育休を取得した場合も、昇格などで不利に扱うことは違法です。
Q: 会社が「あなたの能力が足りない」と言ってきた場合は?
A: 育休取得前の評価実績が良好であれば、その主張は通りにくいです。「育休取得前は問題なく高評価を取得していた」という記録を示せると、対抗できる可能性が高まります。
Q: 契約社員やパートでも保護されますか?
A: はい、育児・介護休業法の不利益取扱い禁止規定は、雇用形態を問わず適用されます。正社員以外の方も保護の対象です。

昇格を守るためのチェックリスト

確認項目 チェック
育休前の人事評価の記録(評価通知書・査定シートなど)を手元に保管している
会社の就業規則・昇格試験の受験要件を書面で確認した
「育休を理由に受験資格を与えない」と告げられた事実を記録に残している
人事担当者への問い合わせをメール等の記録に残している
育児・介護休業法10条の内容を確認した

今すぐはじめる3つのアクション

まず育休前の人事評価の記録を今すぐ確保してください。過去の評価通知書・面談記録・メールなどを探してコピーしておきましょう。これがすべての交渉の土台になります。

次に、会社の就業規則と昇格要件を文書で入手しましょう。就業規則の関連部分を手元に残し、自分の状況と照らし合わせてください。「就業規則を見たい」と申し出ることは、労働者の正当な権利です。

そして、一人で抱え込まず専門家に相談してください。「この扱いはおかしいのでは?」と感じたら、社会保険労務士や弁護士に状況を話してみてください。一回の相談で方向性が見えることがよくあります。

まとめ

育休を理由に昇格の機会を奪うことは育児・介護休業法10条で禁止されており、休業期間を超えた期間にわたって選考対象外にすることや育休の申出のみをもって不利に評価することも不利益取扱いに該当します(育介指針第2の11⑵リ・⑶ホ)。医療法人稲門会(いわくら病院)事件(最二小判平成27年12月16日)でも、受験機会を与えなかったことを違法と判断しています。就業規則に受験要件が書かれていても、育介法に反する内容は労働契約法12条により無効になります。

育休前の評価実績が良好であれば昇格の機会は守られるべきであり、評価記録を確保したうえで会社に書面で受験機会を求め、専門家に相談することが権利を守る最初の一歩です。育休を取ったことで、あなたのキャリアが不当に遅らされるいわれはありません。家族を守りながら、職場での正当な評価を受ける権利は、法律があなたに保障しています。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。



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