ある日突然、会社に呼び出された。
「起訴されたので、裁判が終わるまで休職してください」と告げられた。
でも、逮捕も勾留もされていない。普通に出勤できる状態のはずです。
結論から言います。逮捕・勾留されていない「在宅事件」での起訴休職は、正当な理由がなければ違法になります。
現役の社会保険労務士として、起訴休職の正しい知識をお伝えします。不当な休職命令への対処法も、具体的に解説します。起訴休職とはどんな制度か、在宅事件で起訴休職が認められにくい理由、そして不当な休職命令への具体的な対処法を順に説明します。
起訴休職とは?まず基本を整理する
起訴休職の意味をわかりやすく
起訴休職とは、刑事事件で起訴された社員を、会社が就労から外す措置です。就業規則にこの規定を設けている会社は少なくありません。ただし、規定があれば何でも使えるわけではありません。要件を満たさない限り、命令は違法になります。
「身柄事件」と「在宅事件」——何が違うのか
刑事事件の起訴には、大きく2つの種類があります。ひとつは「身柄事件」で、逮捕・勾留されたまま起訴されるケースです。身体が拘束されているため物理的に出勤できず、起訴休職が認められやすい状況にあります。もうひとつは「在宅事件」で、逮捕も勾留もされずに起訴されるケースです。身体の自由は保たれており、普通に働けます。この「在宅事件」の場合、起訴されただけでは休職の理由になりません。
【実践メモ】
まず確認してほしいのは、自分が「在宅事件」か「身柄事件」かという点です。現在、逮捕・勾留されていないなら在宅事件です。その場合、次のセクションで解説する2つの要件を会社が満たしているか確認しましょう。
在宅事件で起訴休職が認められるのは限られたケースだけ
裁判所が示した判断の考え方
全日本空輸事件(東京地判平成11年2月15日・労判760号46頁)という裁判例があります。この裁判で裁判所は重要なことを示しました。「起訴された事実だけで、自動的に起訴休職が認められるわけではない」という考え方です。職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など、個別の事情を踏まえた判断が必要とされたのです。
つまり、会社は「起訴があった」という事実を理由にするだけでは足りません。就労を制限せざるを得ない具体的な事情を示す必要があります。これはあなたにとって重要な権利の根拠となる考え方です。
なぜ「起訴されただけ」では不十分なのか
在宅事件では、あなたは物理的に出勤できます。仕事を続けることに物理的な障害はありません。だからこそ、休職を正当化するには「なぜ働かせてはいけないか」という理由が必要です。また、在宅事件は比較的軽微な事案であることが多く、起訴休職が認められるケースは現実には限られています。
会社が越えなければならない2つの要件
在宅事件で起訴休職を正当化するためには、会社は大きく2つの観点から要件を満たす必要があります。どちらか一方でも欠けると、命令は違法となり得ます。
就労継続による具体的な害があるか
まず、あなたが働き続けることで会社に具体的な害が生じるかどうかです。たとえば、業務内容や公訴事実の内容から見て、就労継続が会社の対外的な信用を著しく傷つける場合があります。または、職場秩序が客観的に維持できなくなると判断できる場合です。ただし「可能性がある」「イメージが悪い」程度では不十分です。
一般的な事務職・技術職・製造業などでは、このハードルは高くなります。起訴事実が軽微であれば、なおさら認められにくいといえます。
処分の重さが釣り合っているか
もうひとつは「処分の均衡」です。仮にあなたが有罪になったとして、その場合に想定される懲戒処分と比べて、起訴休職が重すぎていないかが問われます。たとえば、有罪でも「戒告(口頭または文書による注意)」程度で済む軽微な事案に長期の休職を命じると、処分の重さが釣り合いません。こうした起訴休職は、違法と判断される可能性が高まります。
【実践メモ】
就業規則の起訴休職条項を確認しましょう。「いつまで続くか」「給与はどうなるか」「どんな条件で復職できるか」の3点をチェックしてください。不明な点は会社に書面で質問することをおすすめします。口頭での説明には必ずメモを残しましょう。
不当な起訴休職命令への具体的な対処法
まず「命令の根拠」を確認する
起訴休職を命じられたら、まず落ち着いて確認しましょう。就業規則に起訴休職の規定が実際にあるかどうか、規定があるとしてあなたの状況がその要件に該当するかどうか、そして会社が示した理由が具体的かどうかという3点が確認のポイントです。
「就業規則に規定があるから命令できる」は間違いです。規定があっても、要件を満たさなければ命令は無効になります。
記録を残して、専門家に相談する
会社から言われた内容を必ず記録しておきましょう。日時・場所・誰が言ったか・内容の4点をメモしてください。可能であれば、会社に書面での命令通知を求めましょう。
次に、専門家への相談を検討してください。労働基準監督署や「総合労働相談コーナー」への相談は無料です。弁護士・社会保険労務士への相談も、状況を整理するうえで有効です。
【実践メモ】
不当な起訴休職に異議を唱える場合、まず書面で「休職命令の根拠と具体的な理由をお示しください」と会社に求めましょう。会社がこれに答えられない場合、命令の正当性が弱いことを示します。この書面のやり取りが、後の対抗手段の証拠になります。
よくある疑問 Q&A
- Q: 在宅事件で起訴されたら、会社は必ず休職させられますか?
- A: いいえ。在宅事件では、起訴の事実だけで休職命令は認められません。会社は、あなたが働き続けることで具体的な害が生じると示す必要があります。その立証ができない場合、休職命令は無効となる可能性があります。
- Q: 起訴休職中の給与はどうなりますか?
- A: 就業規則の定めによって異なります。無給となるケースも多いですが、起訴休職命令自体が違法と判断された場合は、休職期間中の賃金を請求できる可能性があります。まず就業規則の記載を確認しましょう。
- Q: 起訴休職命令を拒否することはできますか?
- A: 正当な理由のない起訴休職命令は、法的に無効となり得ます。ただし、独断で拒否するとトラブルに発展することもあります。まず労働基準監督署・弁護士・社労士に相談したうえで対応することをおすすめします。
- Q: 不起訴や無罪になったら、復職できますか?
- A: 原則として復職できます。起訴休職の前提(起訴されている事実)がなくなるため、会社は復職を認める必要があります。会社が不当に復職を拒む場合は、法的な対抗手段があります。専門家に相談しましょう。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 自分が在宅事件(逮捕・勾留なし)か確認した | □ |
| 就業規則の起訴休職条項の内容を確認した | □ |
| 会社に休職命令の具体的な理由を確認した | □ |
| 休職中の給与の扱いを確認した | □ |
| 命令の内容を書面でもらった(または記録した) | □ |
| 総合労働相談コーナー・専門家への相談を検討した | □ |
今すぐはじめる3つのアクション
まず就業規則の起訴休職条項を確認してください。規定があるかどうか、どんな条件が書いてあるかを確かめることが最初の一歩です。条件を知っておくだけで、会社の説明が正当かどうかを自分で判断できるようになります。
次に、会社に「休職命令の根拠と理由」を書面で求めましょう。口頭でのやり取りには必ずメモを残してください。書面での回答を求めることで、会社が具体的な理由を示せるかどうかが明らかになります。
そして、最寄りの総合労働相談コーナー(無料)に相談してください。一人で悩まず、まず話を聞いてもらうことから始めましょう。早く動くほど、選択肢は広がります。
まとめ
起訴休職は、就労が困難であることを裏付ける客観的な事情がある場合にのみ認められる制度です。全日本空輸事件(東京地判平成11年2月15日・労判760号46頁)が示すように、起訴の事実だけで形式的に適用されるものではありません。
逮捕・勾留されていない在宅事件では、会社は「就労継続による会社の信用や職場秩序への具体的な害」と「有罪となった場合の懲戒処分との均衡」という2つの要件を満たす必要があります。在宅事件は軽微な事案が多く、これらを満たせるケースは限られています。
不当な休職命令と思ったら、記録・書面化・専門家相談が基本の対処法です。刑事事件に巻き込まれ、さらに仕事まで失う不安は深刻です。でも、正しい知識があれば戦えます。不当な起訴休職命令から自分のキャリアと家族の生活を守るために、一歩踏み出してください。あなたには働く権利があります。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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