「紹介予定派遣で面接まで受けたのに、採用を断られた」
このような状況に直面している方はいませんか。
実はこの「採用拒否」、状況次第で法的に「解雇」と同じ扱いになる可能性があります。
現役の社会保険労務士として、紹介予定派遣における労働者の権利をわかりやすく解説します。
この記事では、紹介予定派遣で「面接」が許可されている法律上の理由、面接後に採用を断られた場合の法的な評価、そして採用拒否に対してできる具体的な対処法を解説します。
紹介予定派遣とは?普通の派遣との大きな違い
紹介予定派遣とは、最終的に派遣先に直接雇用されることを前提とした派遣形態です。
普通の派遣は「一時的な就労」にすぎません。でも紹介予定派遣は違います。
派遣として働きながら、ゆくゆくは正社員や契約社員として採用されることを目指す制度です。
労働者派遣法に明確に定義された制度で、2003年の法改正で正式に法制化されました。
普通の派遣と紹介予定派遣の主な違い
| 項目 | 普通の派遣 | 紹介予定派遣 |
|---|---|---|
| 最終的な目的 | 派遣就業のみ | 派遣先への直接雇用 |
| 事前面接 | 原則禁止(努力義務) | 許可されている |
| 履歴書の送付 | 原則禁止(努力義務) | 許可されている |
| 雇用契約の相手方 | 派遣会社のみ | 最終的に派遣先 |
なぜ普通の派遣では「面接」が禁止されているのか
普通の派遣では、派遣先が特定の労働者を指名・選別することが禁止されています。
これを「特定行為の禁止」といいます(労働者派遣法26条6項)。
事前面接・履歴書の要求・年齢を絞った選別などが、禁止される特定行為の具体例です。
この禁止には大きく2つの背景があります。まず、派遣制度では雇用責任は本来派遣会社が負います。しかし派遣先が面接を行うと、「この人を選んで採用した」という実態が生まれ、派遣先が実質的な雇用主と見なされるリスクが出てきます。法律上の責任の所在をはっきりさせるために、特定行為は制限されているのです。
もう一つは差別の防止です。事前面接が自由に行えると、年齢・性別・障害などを理由に労働者が選別されかねません。「若い人だけ」「特定の性別のみ」といった選別は許されない差別であり、特定行為の禁止は、派遣労働者を不当な差別から守るためのルールでもあります。
【実践メモ】
普通の派遣で「面接を受けてほしい」「履歴書を送ってほしい」と言われた場合は、日時・発言内容・誰に言われたかを記録しておきましょう。後で問題になったときの証拠になります。
紹介予定派遣では「面接」が許可されている理由
紹介予定派遣の目的は、最終的に派遣先に雇用されることです。
そのためには、派遣先もどんな人材かを知る必要があります。
だから、事前面接・履歴書の送付などの「特定行為」が例外的に認められています。
また、労働者自身にも「この職場で本当に働きたいか」を判断できるメリットがあります。
派遣が始まる前に職場の雰囲気や業務内容を確認できることは、ミスマッチを防ぐうえで大切です。
これは派遣先のためだけでなく、あなた自身のための権利でもあります。
要注意:面接の経緯によっては「採用内定」が成立することがある
ここが最も重要なポイントです。
紹介予定派遣で面接を受けた場合、その面接のやり取り次第で「採用内定」が成立することがあります。
採用内定が成立すると、それはすでに「始期付き労働契約」が始まった状態です。
採用内定とは何か
採用内定とは、企業が「あなたを採用します」という意思を明確に示した状態のことです。
判例(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)では、採用内定の時点で労働契約が成立するとされています。
専門的には「始期付き・解約権留保付きの労働契約」と呼ばれます。
「始期付き」とは、「一定の日から効力が発生する」という意味です。「解約権留保付き」とは、「一定の事由がある場合には解約できる」という意味です。
つまり、採用内定が出た時点で、すでに雇用関係は始まっているということです。
裁判例が示した現実:任天堂事件(京都地裁令和6年2月27日判決)
紹介予定派遣の特定行為と労働契約の成否が問われた裁判例として、任天堂事件があります。
この事件では、面接を受けて派遣就業を行った後に直接雇用を断られた労働者が、派遣先との間に労働契約が成立していたと主張して争いました。
結論として、裁判所はこの主張を認めませんでした。紹介予定派遣において特定行為(事前面接等)が認められているのは、直接雇用促進とミスマッチ防止のための制度的な例外であり、面接をしたこと自体で労働契約が成立するわけではないと判断されたのです。
さらに、直接雇用への期待の保護についても裁判所は踏み込んで判断しています。紹介予定派遣は制度上、直接雇用に至らない場合があることを前提としており、「直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理である」といった特別な事情がない限り、直接雇用への期待は法的保護の対象にならないとされました。
この裁判例が示す教訓は明確です。紹介予定派遣での面接はあくまで制度上認められた行為であり、「面接を受けた=採用内定」とはなりません。ただし、面接中の具体的な発言・業務の説明・処遇の提示など、内容次第では採用内定の成立が認められることがある点には注意が必要です。
【実践メモ】
紹介予定派遣で面接を受けたら、次のことをメモしておきましょう。面接の日時と場所、どんな内容を話したか、「採用する」「ぜひ来てほしい」「入社後はこの仕事をお願いする」など採用の意向を示す発言があったかどうか。これらは後で採用内定の成立を主張するうえで重要な手がかりになります。
採用拒否された場合にできること
紹介予定派遣で面接後に採用を断られた場合、まず確認すべきことがあります。
それは「採用内定が成立していたかどうか」です。
採用内定が成立していた場合、採用拒否は解雇と同じ法的評価を受けます。
採用内定が成立していた可能性がある状況
以下の状況が複数当てはまる場合は、採用内定が成立していた可能性があります。
- 派遣先から「採用したい」「ぜひ入社してほしい」と明確に言われた
- 入社後の担当業務や給与・待遇について具体的な説明を受けた
- 健康診断の受診を求められた
- 入社に必要な書類の準備を指示された
- 派遣期間中、正社員と同等の裁量や責任を持つ業務を任されていた
採用拒否を争う場合の法的根拠
採用内定取り消し(つまり解雇)が有効となるには、「客観的に合理的な理由」が必要です。
これは労働契約法16条に定められたルールです。
「他の人の方が良かった」「やっぱり採用をやめた」だけでは、解雇は認められません。
採用拒否後に取るべき行動
まず、採用拒否の理由を書面(メール)で求めてください。口頭のやり取りだけでは後から確認が難しくなります。「採用を断られた理由を教えていただけますか」とメールで一文送るだけで構いません。返答の内容が、その後の判断に大きく影響します。
並行して、これまでのメール・チャット等のやり取りをすべて保存し、面接中の発言内容をできるだけ詳しくメモに残してください。記憶が新鮮なうちに書き留めることが重要です。派遣会社の担当者にも状況を正確に報告しておきましょう。
「採用内定が成立していたかもしれない」と感じたら、一人で結論を出さず、社労士・弁護士・都道府県労働局のいずれかに相談してください。専門的な視点で状況を整理することで、取るべき行動が見えてきます。
【実践メモ】
採用拒否の理由は口頭ではなく、必ず書面(メール可)で求めましょう。「採用を断られた理由を教えていただけますか」とメールを送るだけでOKです。その返答内容が、後の法的な判断に大きく影響します。送ったメールと受け取った返信は必ず保存してください。
よくある疑問 Q&A
- Q: 紹介予定派遣の面接で不採用になりました。これは違法ですか?
- A: 面接後に不採用になること自体は、必ずしも違法ではありません。紹介予定派遣は制度上、直接雇用に至らない場合があることを前提としています。ただし、面接のやり取りの内容から採用内定が成立していたと認められる場合には、解雇として争える可能性があります。面接でどんな言葉があったかを振り返り、専門家に状況を相談してみてください。
- Q: 普通の派遣で事前面接を求められました。断っていいですか?
- A: はい、断ることができます。普通の派遣での事前面接は、労働者派遣法上の禁止行為(努力義務)です。おかしいと感じたら、まず派遣会社の担当者に相談してください。派遣会社が対応しない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談する方法もあります。
- Q: 紹介予定派遣で採用を断られた場合、損害賠償は請求できますか?
- A: 採用内定が成立していたと認定される場合、解雇無効や損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、個別の事情によって判断は大きく異なります。証拠を整理したうえで、社労士や弁護士に相談することをお勧めします。
- Q: 紹介予定派遣の面接で、年齢を理由に断られたようです。差別ではないですか?
- A: 紹介予定派遣においても、年齢・性別・障害などを理由とした差別的な選別は禁止されています。不当な理由で断られたと感じたら、その経緯を記録し、派遣会社や労働局に相談してください。
チェックリスト:採用拒否されたときに確認すること
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 面接の日時・場所を記録したか | □ |
| 面接中の発言内容をメモしたか | □ |
| 「採用する意向」を示す発言があったか確認したか | □ |
| 入社後の業務・待遇について説明を受けた事実を記録したか | □ |
| メール・チャット等のやり取りを保存したか | □ |
| 採用拒否の理由を書面(メール)で求めたか | □ |
| 派遣会社の担当者に状況を報告したか | □ |
| 年齢・性別など差別的な理由がなかったか確認したか | □ |
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まず記憶が残っているうちに、面接でのやり取りをすべて書き留めてください。相手の発言・業務の説明・「採用したい」などの言葉があったかどうか、具体的な内容をスマートフォンのメモアプリにでも残しておくことが、この先のすべての行動の土台になります。
次に、採用拒否の理由を書面で求めましょう。「採用を断られた理由を教えていただけますか」とメールで一文送るだけでOKです。返答の内容が、その後の法的な判断に大きく影響します。口頭でのやり取りだけで終わらせないことが重要です。
最後に、一人で結論を出さないでください。採用内定が成立していたかどうかは専門的な判断が必要です。「もしかしたら?」と思ったら、社労士・弁護士・都道府県労働局のいずれかに早めに相談してください。あなたの権利を守れるかどうかは、動き出すスピードにかかっています。
まとめ
紹介予定派遣は「派遣→直接雇用」を目指す制度であり、事前面接などの特定行為が例外的に認められています。一方、普通の派遣での特定行為は雇用責任の明確化と差別防止のために禁止されています。
紹介予定派遣での面接は制度上認められた行為であり、面接を受けたこと自体で採用内定が成立するわけではありません。任天堂事件(京都地裁令和6年2月27日判決)では、面接等の特定行為を経ても直接雇用への期待が自動的に法的保護を受けるわけではなく、「直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理である」といった特別な事情がなければ保護されないと判断されています。
ただし、面接中に採用の意向を明確に示す言葉があった場合など、状況によっては採用内定(始期付き労働契約)の成立が認められることがあります。その場合の採用拒否は労働契約法16条に基づく解雇として争える可能性があります。採用拒否後は理由を書面で求め、やり取りの記録を保存し、社労士・弁護士・労働局に早めに相談してください。年齢・性別・障害による差別的な選別も紹介予定派遣では禁止されています。
「派遣だから仕方ない」と一人で抱え込まないでください。誠実に働こうとしたあなたには、正当な評価を求める権利があります。記録をとり、声を上げることが、あなたの生活とキャリアと未来を守ることに直結します。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

