再雇用でも労災は使える?高齢労働者の安全配慮義務と対処法

安全配慮義務

「重い荷物を持ち上げようとして、腰を痛めてしまった。」
「階段で足がよろめいて、ヒヤリとした。」

60代で再雇用や継続雇用で働くあなた。会社には、あなたを安全に働かせる義務があります。

現役の社会保険労務士として、定年後も働くシニア労働者の相談を数多く受けてきました。この記事では、会社の安全配慮義務の具体的な中身と、対応してもらえない場合の行動をお伝えします。

  • 60代の労働災害リスクが実際にどれほど高いか
  • 会社がやらなければならない安全対策の中身
  • 会社が動いてくれない場合に取れる行動

60代の労働災害リスクは、若手の何倍にもなる

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厚生労働省が公表している統計があります。雇用されている人全体のうち、60歳以上の方は約5人に1人(18.7%)です。ところが、仕事中のケガで4日以上休んだ人のうち、60歳以上が占める割合は約3割(29.3%)にのぼります。人数の割合に比べて、被災者の割合がはるかに高い。それが現実です。

⚠️ 注意:厚労省の令和5年統計によると、男性の高所からの転落事故では60代以上の発生率は20代の約3.6倍。女性の転倒による骨折等では、60代以上の発生率は20代の約15.1倍にのぼります。

なぜここまで差が出るのでしょうか。加齢とともに、筋力・バランス感覚・反射神経が低下していきます。これは避けられない体の変化です。だからこそ、職場環境と業務内容を年齢に合わせて調整することが、会社の法律上の義務になっているのです。

【実践メモ】

厚生労働省が公開している「転倒等リスク評価セルフチェック表」は、無料で使えます。自分の状況を客観的に把握したうえで、会社に必要な配慮を伝える際の材料にしましょう。

「安全配慮義務」とは何か——再雇用でも同じように守られる

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労働契約法5条に、こんな規定があります。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法第5条)

つまり、会社はあなたが安全に働ける状態を整える義務がある、ということです。大切なのは、この義務が雇用形態や年齢にかかわらず適用される点です。定年後の再雇用でも、1年更新の有期契約でも同じです。「正社員じゃないから」「60代だから」——そういった言い訳は通用しません。

📌 ポイント:安全配慮義務は「労働契約法5条」で定められた法律上の義務です。会社がこれを怠り、あなたが体を壊した場合、損害賠償請求の根拠になります。

【実践メモ】

「自分は再雇用だから仕方ない」と思う必要はありません。安全配慮義務は正社員と同じように、あなたにも適用されます。体に負担を感じている場合は、上司や人事に遠慮なく伝えましょう。

会社があなたにやるべき4つの安全対策

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厚生労働省は2020年3月、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、会社側への指針です。裏を返せば、あなたが会社に対応を求める際の「根拠資料」として活用できます。

① 転倒・転落など職場の物理的なリスクをなくすこと

転倒・転落は最も多い事故類型のひとつです。段差の解消や手すりの設置など、物理的な危険をなくすことは会社の責任です。暑い季節の熱中症対策として、涼しく休める場所の確保も求められています。

✅ やること:職場の危険箇所(手すりのない階段・段差・滑りやすい通路など)を写真やメモで記録しておきましょう。会社に改善を申し出る際の具体的な証拠になります。

② 体力や健康の現状を定期的に確認する機会を持つこと

健康診断の結果やセルフチェックなどを通じて、あなたの現在の状態を把握することも会社の役割です。「体力のチェックを一切しない」という会社は、ガイドラインが求める対応を怠っているといえます。

📌 ポイント:健康診断の結果は、あなたの業務調整を求めるための重要な材料です。異常値が出た際には、その記録を手元に残しておきましょう。

③ 健康状態や体力の変化に応じて業務を見直すこと

健康診断などで懸念が出た場合、産業医等の意見をもとに業務内容や労働時間を見直すことが会社に求められています。つまり、「体への負担が大きい業務から外してほしい」という申し出は正当な要求です。会社が一方的に無視することは許されません。

④ 加齢による体の変化に気づくための教育機会を提供すること

高齢になると骨折リスクが高まるなど、自分自身が気づいていない体の変化があります。会社には、そうした変化を理解できるよう、教育や研修の機会を提供する義務があります。

【実践メモ】

「会社は何もしてくれない」と感じたら、ガイドラインの存在を会社に伝えてみましょう。「厚労省のガイドラインに基づいて、○○の対策をお願いしたい」という形で申し出ると、会社側も無視しにくくなります。

会社が動いてくれない場合——あなたに使える3つの手段

「お願いしても、何も変わらない……」そんな状況でも、諦める必要はありません。

手段① 社内で記録を残す

会社に安全対策を求めた日時・内容・相手の返答を、メモや日報に残しましょう。後から問題が起きた際、「会社が対応を怠っていた証拠」になります。可能であれば、メールで申し出を伝えると記録として残りやすいです。

手段② 労働基準監督署に相談する

職場の安全対策が不十分だと感じた場合、最寄りの労働基準監督署に申告できます。労基署は、事業所への立ち入り調査や是正指導を行う権限を持っています。相談は無料です。基本的に匿名での相談も受け付けてもらえます。

手段③ ケガをしたら必ず労災申請を

仕事中にケガをした場合、労災保険で治療費と休業中の補償が受けられます。「再雇用だから労災は使えない」は誤りです。雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。会社が申請してくれない場合でも、自分で申請することが法律上認められています。

📌 ポイント:安全配慮義務違反が原因でケガや病気になった場合、会社に対して損害賠償を求めることも可能です。まずは社会保険労務士や弁護士に相談するのが安心です。

【実践メモ】

労働基準監督署への相談に「会社にバレるかも」と心配な方へ。基本的に匿名で相談できます。まずは気軽に電話してみてください。全国どこでも無料です。

よくある疑問 Q&A

Q: 65歳以上でも安全配慮義務の対象になりますか?
A: はい、対象です。安全配慮義務に年齢の上限はありません。70歳まで継続雇用する制度のある会社であれば、その期間中もずっと会社の義務は続きます。
Q: 健康診断で異常が出ても、会社は何も対応してくれません。どうすれば?
A: 産業医等の意見をもとに業務を調整することは会社の義務です。対応がない場合は、会社に書面で対応を求めましょう。それでも変わらない場合は、労働基準監督署への相談が有効です。
Q: 体力的にきつい業務を断ることはできますか?
A: 健康上のリスクがある場合は、医師の意見書などを添えて配慮を求めることができます。正当な申し出を会社が無視した場合、安全配慮義務違反となる可能性があります。
Q: 仕事中に転んでケガをしました。再雇用でも労災は使えますか?
A: はい、使えます。業務中のケガは雇用形態を問わず労災保険の対象です。治療費と休業中の補償が受けられます。会社が手続きしない場合も、自分で申請できます。

チェックリスト

確認項目 チェック
職場に段差・手すりなし・滑りやすい床などの危険箇所はないか
体力や健康状態をチェックする機会が会社から提供されているか
体に無理のある業務について会社に伝えられる環境があるか
健康診断の結果を踏まえた業務調整が行われているか
万が一のときに相談できる窓口(産業医・人事等)があるか
労働基準監督署の連絡先を把握しているか

すぐやること 3 つ

  1. 職場の危険箇所を写真・メモで記録する——改善を申し出る際の具体的な根拠になります。
  2. 体力的に不安な業務を上司や人事にメールで伝える——記録が残る形で伝えることが大切です。
  3. 労働基準監督署の連絡先を手帳に控えておく——いざというとき、すぐ動けるよう準備しておきましょう。

まとめ

  • 60代の労働災害リスクは若い世代と比べて格段に高く、統計がそれを裏付けている
  • 定年後再雇用・有期契約でも、会社の安全配慮義務(労働契約法5条)はまったく変わらない
  • 厚労省ガイドラインには、会社がやるべき対策が明記されており、対応を求める根拠として使える
  • 会社が動かない場合は、記録を残したうえで労基署への相談が有効
  • 仕事中のケガは雇用形態を問わず労災保険が使えるので、泣き寝入りしないこと

長年積み重ねてきたキャリアと経験を、定年後も活かして働き続けたい——そのための舞台は、安全でなければなりません。体が資本です。あなたには、安全な職場を堂々と求める権利があります。今日から、遠慮しないでください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Austin on Unsplash

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