経歴詐称で解雇は有効?賞罰欄の正しい書き方を解説

懲戒

「採用時に履歴書へ正直に書かなかった部分がある……」

そんな不安を抱えながら、毎日働いている方は少なくないはずです。

結論から言います。経歴詐称があっても、それだけで自動的に解雇が有効になるわけではありません。ただし、内容によっては懲戒解雇が認められることもあります。

現役の社会保険労務士として、判例をもとに解説します。「賞罰欄に何を書けばいいのか」という具体的な疑問にもお答えします。

  • 経歴詐称が解雇理由になる条件
  • 履歴書の「賞罰欄」に書かなくていい情報とは
  • 経歴詐称で解雇された場合に争えるポイント

経歴詐称とは?どんな嘘が問題になるのか

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経歴詐称とは、採用時の書類や面接で事実と異なる情報を伝えることです。

主な経歴詐称の例を見てみましょう。

  • 学歴を実際より高く、または低く書く
  • 職歴を改ざんする(空白期間を隠すなど)
  • 年齢・生年月日を変える
  • 確定した犯罪歴を隠す

会社が申告を求めることができる情報とは

採用の場面では、なぜ情報の正確な申告が求められるのでしょうか。雇用関係は継続的な信頼関係を基礎とする契約であるため、その出発点となる採用時の情報開示に誠実さが求められます。裁判所は、会社が業務能力に直接関わる情報だけでなく、職場環境の秩序維持に影響する情報についても、必要かつ合理的な範囲で申告を求めることができ、労働者はそれに対して信義則上の真実告知義務を負うという立場をとっています。

学歴はその典型例です。

⚠️ 注意:「逆詐称」(学歴を低く書くケース)も問題になります。「高くしたわけじゃないから大丈夫」とはなりません。裁判所は逆詐称でも職場秩序への影響を認めています。

職歴の詐称は特に重い

学歴と並んで問題になりやすいのが、職歴の詐称です。職歴は、その人の能力・適性に直結する情報です。そのため、職歴の詐称は「重大な経歴詐称」と判断されやすい傾向があります。裁判例でも、職歴詐称を理由とした解雇が有効と認められたケースが複数あります。

📌 ポイント:経歴詐称は「学歴・職歴・年齢・犯罪歴」など複数の種類があります。なかでも職歴は能力に直結するため、もっとも問題になりやすい分野です。

「賞罰欄」の「罰」とは何のことか

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ここが、多くの方が誤解しているポイントです。

履歴書の「賞罰欄」にある「罰」とは、確定した有罪判決のことを指します。逮捕歴や起訴歴、裁判中の状態は含まれません。

裁判中・逮捕歴は「なし」と書いていい

採用時点でまだ裁判が続いている場合はどうでしょうか。たとえば、逮捕・起訴されたが、まだ判決が出ていない状態です。

この場合、賞罰欄に「なし」と記載しても問題ありません。

炭研精工事件(東京高裁平成3年2月20日判決、最高裁平成3年9月19日でも支持)では、賞罰欄の「罰」は確定した有罪判決を意味し、判決が確定していない段階での刑事上の手続きはこの定義に当てはまらないという判断が示されました。

つまり、逮捕・起訴・裁判中であっても、それだけでは「罰あり」にはなりません。

✅ やること:賞罰欄に記入する前に「確定した有罪判決があるかどうか」を確認してください。逮捕歴・起訴歴・裁判中はすべて「なし」と書いて構いません。

自分から積極的に申告する義務はない

裁判所はさらに重要な点も示しています。質問に正直に答える義務と、聞かれていないことまで自ら申し出る義務は別のものです。会社から具体的に問われていない事項について、労働者が自分から進んで開示しなければならないという義務まではないというのが裁判所の立場です。

つまり、「聞かれていないことを黙っていた」だけでは、詐称にはなりません。

ただし、会社から直接質問された場合は、正直に答える必要があります。

【実践メモ】

面接では「聞かれたことに正直に答える」のが基本です。聞かれていない情報を自ら申告する義務はありません。賞罰欄については「確定した有罪判決=罰」という定義をきちんと理解した上で記入しましょう。

経歴詐称で解雇された場合、争えるか?

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「詐称はしたが、解雇には納得できない」という方も多いと思います。解雇を争える可能性はゼロではありません。

懲戒解雇が有効になる条件とは

経歴詐称があっても、それだけで自動的に懲戒解雇が有効になるわけではありません。有効性を判断する際には、以下のような要素が総合的に考慮されます。

  • 詐称した情報が職場秩序に実際に影響するものか
  • 詐称の程度が重大か(軽微な誤記とは異なる)
  • 詐称の内容が就業規則上の懲戒事由に明確に対応しているか
  • 就労期間中に他の問題行動があったか

つまり、詐称の事実だけでなく、全体の事情を見て判断されます。

📌 ポイント:懲戒解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法15条)。詐称の内容が軽微であったり、長年問題なく働いてきた実績があれば、解雇の相当性を争う余地があります。

長く働いた実績は有利に働くか

採用時の詐称が、10年・15年後に発覚するケースがあります。その間、職場で何も問題なく働いてきた場合はどうでしょうか。

採用時点の詐称のみを根拠に、その後の長期の就労実績を無視して解雇することの合理性については、法学上の議論があります。長期間にわたって問題なく勤務した実績は、解雇の「相当性」を争う有力な材料になります。諦める前に、専門家に相談することを強くお勧めします。

【実践メモ】

「経歴詐称を理由に解雇する」と会社から告げられたら、すぐに書面による解雇理由の明示を求めてください(労働基準法22条)。解雇理由証明書を取得することが、争う上での最初のステップです。

よくある疑問 Q&A

Q: 学歴欄を「高校卒業」と書いたが実際は中退でした。バレたら解雇されますか?
A: 解雇される可能性はあります。ただし、詐称の内容・重大性・就労実績などが総合的に判断されます。「就業規則に懲戒解雇事由として規定されているか」も確認が必要です。まずは社労士や弁護士に相談することをお勧めします。
Q: 逮捕されたことがありますが、賞罰欄に「なし」と書いていいですか?
A: 確定した有罪判決がなければ「なし」と書いて構いません。逮捕・起訴・裁判中の状態は「罰」には含まれないと裁判所は明確に判断しています。ただし、確定した有罪判決がある場合は正直に記載する必要があります。
Q: 前の職場でのトラブルは履歴書に書かなければなりませんか?
A: 会社から具体的に質問された場合は正直に答える必要があります。ただし、聞かれていないことを自分から積極的に申告する義務まではないというのが裁判所の立場です。
Q: 経歴詐称で懲戒解雇された場合、退職金は受け取れますか?
A: 就業規則の定め次第ですが、懲戒解雇の場合は退職金が不支給または減額となるケースが多いです。退職金の扱いを含め、詳しくは専門家への相談をお勧めします。

チェックリスト

確認項目 チェック
賞罰欄の「罰」が確定した有罪判決を指すと理解している
逮捕歴・裁判中の情報は「罰」に含まれないと理解している
聞かれていないことを自ら申告する義務はないと理解している
経歴詐称を指摘された場合は解雇通知書(解雇理由証明書)を取得する
解雇に納得できない場合は専門家(社労士・弁護士)に相談する

すぐやること 3 つ

  1. 賞罰欄の記載内容を確認する:確定した有罪判決がなければ「なし」で問題ありません。逮捕歴・起訴歴は含まれません。
  2. 解雇通知書・解雇理由証明書を取得する:経歴詐称を理由に解雇された場合は、すぐに書面での解雇理由の明示を求めてください(労働基準法22条)。
  3. 専門家に相談する:「詐称はあったが解雇は不当では?」と感じたら、社労士や弁護士に相談することで解雇が無効になる可能性もあります。

まとめ

  • 経歴詐称は、職場秩序に関わる重要な情報についての虚偽申告が問題になる
  • 賞罰欄の「罰」は確定した有罪判決のことで、逮捕歴や裁判中の状態は含まれない
  • 聞かれていないことを自ら申告する義務はなく、質問された場合に正直に答えれば足りる
  • 学歴を「低く」書く逆詐称でも、懲戒解雇の対象になりえる点に注意
  • 解雇の有効性は、詐称の内容・重大性・就労実績などを総合的に判断する
  • 経歴詐称で解雇されても、争える余地は残っている

あなたには、不当な解雇に対して異議を申し立てる権利があります。「どうせ詐称したから負ける」と諦める必要はありません。一人で抱え込まず専門家に相談することが、あなたとご家族の生活と未来を守る、最初の一歩です。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Brett Jordan on Unsplash

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