査定の根拠を説明されずに年俸を下げられた!差額を請求できる3つの条件|令和4年東京高裁判例解説

年俸制

「頑張ったのに、年俸が大幅に下がった。」
「査定の基準も理由も説明されず、通知一枚だけ渡された。」
そんな経験をしていませんか?

結論から言います。会社が年俸を一方的に削減することには、法的な限界があります。

現役の社会保険労務士として、多くの年俸トラブルを見てきました。この記事では、年俸削減が違法になる条件と、あなたが差額を取り戻せる可能性について、具体的に解説します。

  • 会社の「年俸決定権」にはどんな制限があるか
  • 削減が「違法・無効」と判断される条件
  • 差額賃金を請求するための具体的な手順

年俸制と「会社が決める」という仕組みの落とし穴

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年俸制を採用している会社の多くは、就業規則に「年俸は会社が決定する」という規定を設けています。

この規定があれば、会社は何でも自由に決められると思いがちです。しかし、そうではありません。

📌 ポイント:「会社が年俸を決める」という規定は有効でも、その使い方が不公正なら違法になります。

労働契約法3条1項は、「労働契約は、労使が対等な立場で合意するものだ」と定めています。つまり、会社が一方的に不利な条件を押しつけることは、本来の趣旨に反します。

では、どのような場合に「やりすぎ」と判断されるのでしょうか。

「決める権限がある」と「何でもできる」は違う

裁判所は、会社に年俸決定権限を与えること自体は合理的だと認めています。

ただし、条件があります。その権限が恣意的(しいてき)に使えるものであってはならないのです。

恣意的とは、「気分や個人的な感情で自由に決めてよい」という意味です。つまり、基準も手続きもなく感情で給与を決めることは許されないということです。

⚠️ 注意:就業規則に「社長決裁で年俸を決める」と書いてあっても、それだけで自由に削減できるわけではありません。

東京高裁が示した「違法な年俸削減」の判断基準

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2022年、東京高裁は年俸制に関する重要な判決を下しました。

インテリム事件(東京高裁令和4年6月29日判決)です。

この事件で何が問題になったか

ある会社で、社員の年俸が一方的に引き下げられました。

問題だったのは、その手順です。その年は、業績を測るための目標がそもそも設定されていませんでした。社員が自分の実績を申告しても、会社はその内容を具体的な根拠を示さずに否定しました。さらに、社員が異議を申し立てても、会社は一切の説明をしませんでした。

📌 ポイント:期初の目標設定がなく、社員の業績申告を根拠なく否定し、異議にも向き合わなかった——この点が「合理性・透明性に欠け、公正性・客観性に乏しい」として権限の濫用と判断されました。

裁判所はどう判断したか

東京高裁は、会社の年俸削減を無効と判断しました。

裁判所の考え方を、かみ砕いて説明します。

合理的な評価手続きが整っている年度については、会社の年俸決定は認められました。目標設定・自己評価・査定面談という流れがあり、社員も特に異議を述べなかったからです。

しかし問題の年度は違いました。評価の土台となる目標が最初から存在せず、社員の主張を退ける根拠も示されず、異議にも向き合わなかったという点で、公正さと客観性を欠いていたと認定されたのです。

なお、年俸削減が無効となった場合、前年度の年俸額での据え置きになるというのが当事者の合理的な意思に適合するとされています。つまり「手続きの公正性を欠いた年俸削減は無効になり、前年度と同額が維持される」ということです。

【実践メモ】

年俸を下げられたとき、まず以下を確認してください。その年は業績目標が最初から設定されていたか。査定結果について、具体的な説明を受けたか。異議を述べたとき、会社はきちんと応答したか。これらのどれかが「ノー」なら、削減が無効になる可能性があります。

会社が年俸を下げるときに守るべき3つの要件

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インテリム事件の教訓をもとに、年俸削減が認められるために必要な要素を整理します。

要件① 評価の物差しが事前に示されているか

年度が始まる前に、業績目標や評価基準が明確に設定されていることが必要です。「後から遡って評価する」「何となく雰囲気で判断する」は認められません。評価の出発点となる目標がなければ、査定そのものが成り立ちません。

要件② 削減の理由が具体的に説明されているか

「業績が悪かったから」だけでは足りません。どの目標をどの程度達成できなかったのか、具体的に示す必要があります。理由を聞いても「会社の判断だ」と言うだけなら、それは不透明な手続きです。

⚠️ 注意:「あなたの業績が悪い」と言うだけで、根拠を一切示さない会社は要注意です。削減の正当性が問われます。

要件③ 社員の声に向き合っているか

社員が「納得できない」と主張したとき、完全に無視してよいわけではありません。話し合いの機会を持ち、説明をする手続きが求められます。一方的に通告して終わりでは、合理的な手続きとは言えません。

✅ やること:年俸を下げられたとき、「削減の根拠を書面で説明してください」と記録に残る形で求めましょう。回答の内容(または無回答)が後の証拠になります。

差額賃金を取り戻すための行動ステップ

年俸削減が違法と判断された場合、前年度と同じ年俸額を受け取る権利があります。削減された分の差額を請求できます。

Step 1:証拠をすべて手元に集める

以下の書類を今すぐ確認してください。雇用契約書・労働条件通知書、就業規則(賃金規程)のコピー、年俸通知書(削減前後の両方)、査定結果に関するメール・書面、異議を述べた記録(メール・メモ)。会社から書面をもらえない場合は、メールで「書面を送ってください」と依頼しましょう。その記録自体が証拠になります。

Step 2:書面で異議を申し立てる

口頭の抗議は証拠に残りません。「年俸削減の理由と根拠を書面で説明してください」と、記録に残る方法で伝えましょう。メールが最も確実です。送信日時と内容が自動的に記録されます。

Step 3:専門家に相談する

一人で抱え込まないでください。社会保険労務士・弁護士・労働組合・労働局の無料相談窓口など、相談できる場所は複数あります。「自分のケースが違法かどうか」を確認するだけでも、次の一手が明確になります。

【実践メモ】

差額賃金の請求権には時効があります。現行法では原則5年(当面の間は3年の経過措置あり)です。削減されたことに気づいたら、早めに動くことが大切です。時間が経つほど取り戻せる金額が減ります。

よくある疑問 Q&A

Q: 就業規則に「年俸は会社が決定する」と書いてあれば、何でも認められますか?
A: いいえ。規定があることと、権限を適正に使うことは別問題です。透明性・公正性を欠いた手続きでの削減は、違法と判断された判例があります。
Q: 異議を述べたら報復されそうで怖いのですが?
A: 異議の申し立ては正当な権利行使です。それを理由にした不利益取扱いは、それ自体が違法になる可能性があります。まず記録を残すことを優先しましょう。
Q: 差額賃金はいつまで請求できますか?
A: 賃金請求権の時効は原則5年です(当面の間は3年の経過措置あり)。減額された時点から起算されるため、早めの行動が重要です。
Q: 会社が「業績が悪かった」と主張してきたらどうすればいいですか?
A: 「具体的にどの業績がどう悪かったのか」を書面で求めましょう。曖昧な主張のままでは、裁判所は会社の削減を認めない傾向があります。

チェックリスト:あなたの年俸削減は違法かもしれない

確認項目 チェック
削減された年度に、事前の業績目標が設定されていなかった
削減の理由を聞いたが、具体的な説明がなかった
自分の業績を申告したが、根拠なく否定された
異議を申し立てたが、一切の対応がなかった
削減幅が大きく、生活に深刻な影響が出ている

2つ以上チェックがついた場合は、専門家への相談をおすすめします。

すぐやること 3 つ

  1. 年俸削減の通知・関連書類をすべて手元に集める(メール・書面の両方)
  2. 「削減の根拠を書面で教えてください」と会社にメールで伝える(送信日時が証拠になる)
  3. 労働局の無料相談、または社労士・弁護士に概要を話す(一人で抱え込まない)

まとめ

  • 年俸制でも、会社の削減権限には法的な限界がある
  • 評価基準の事前設定・削減理由の説明・異議への対応が欠けていれば、削減は無効になる
  • インテリム事件(東京高裁令和4年6月29日)は、手続きの透明性を欠いた年俸削減を無効とした重要な判例
  • 削減が無効な場合、前年度の年俸額での据え置きになる
  • 差額賃金は時効(原則5年)の範囲内で請求できる
  • 異議申し立ては必ず記録に残る方法で行う

正当な評価を受け、適正な報酬を得ることは、あなた自身と家族の生活を守ることに直結します。「どうせ勝てない」と諦める前に、一度専門家に話してみてください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Photo by Van Tay Media on Unsplash

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