管理職が育休から戻ったら部下ゼロに|裁判で違法認定された配転の条件と育介法10条の使い方

育休から職場に戻ったとたん、突然「部署を変える」と告げられた。

そんな状況で、どうすればいいか途方に暮れていませんか?

結論から言います。育休を理由とした不利益な配転命令は、法律違反になる可能性があります。

現役の社会保険労務士として、こうした相談を多く受けてきました。この記事では、育休復帰後の配転が違法になる条件と、あなたが取れる対処法を解説します。

  • 育休復帰後の配転が違法になる条件
  • 裁判所が違法と判断した実際の事例
  • 不当な配転命令を受けたときの具体的な行動ステップ

育休復帰後の配転が「違法」になる理由

記事関連画像

会社には、社員を転勤・異動させる権限があります。

「配転命令権」といいます。就業規則で定められていれば、原則として会社はこの権限を行使できます。

しかし、育休の場合は話が別です。

📌 ポイント:育児・介護休業法(育介法)第10条は、育休の取得を理由とした「不利益取扱い」を会社に禁じています。

「不利益取扱い」とは何か。

降格、減給、そして不利益な配転がこれにあたります。

つまり「育休を取ったから別の部署に回す」という対応は、法律で禁じられた行為になり得るのです。

「業務上の必要性がある」だけでは違法を免れない

「就業規則に配転命令権がある」「業務上の必要があった」。

会社はこう主張するかもしれません。

しかし、それだけでは不利益取扱いの違法性は消えません。

裁判所は、不利益取扱いに該当しない場合は限られるとしています。本人が強制や誘導なく自由な意思で配転を承諾したと認められる合理的な理由が客観的に存在する場合、または業務上の真の必要性がありその内容・程度に照らして育介法の趣旨に実質的に反しない特段の事情がある場合に限られます。

この2つに当てはまらない限り、配転命令は違法になる可能性があります。

⚠️ 注意:「業務上の必要がある」という会社側の言い分をそのまま受け入れないでください。どんな必要性があったのか、あなたへの不利益とのバランスはとれているか——これが問われます。

【実践メモ】

配転を命じられたとき、まず「なぜこの部署に移るのか」理由を書面で求めてみましょう。口頭でなく文書で残してもらうことが重要です。理由の明示を求めること自体が、会社への牽制になります。

裁判で違法と認められた事例

これは実際に裁判で争われた事例です。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件(東京高裁令和5年4月27日判決)で、会社の対応の一部が違法と認定されました。

どんな事例だったか

育休を取得する前、30名以上の部下を持つセールスチームのチームリーダーとして活躍していた女性社員がいました。

育休中に会社の組織が再編され、彼女が担当していたチームが消滅しました。

育休から復帰したとき、与えられたポジションは部下がゼロのアカウントセールス部門のマネージャーでした。

さらにその後、新規販路の開拓業務、続いて電話営業に従事させられました。

裁判所はどう判断したか

裁判所は、チームリーダーのポジションに戻さなかった点については人事権の範囲内として会社の判断を認めました。

しかし、一人の部下もつけないまま新規販路の開拓業務・電話営業に従事させた点は違法と判断しました。

つまり、こういうことです。

「組織が変わったから仕方ない」という理由だけで、会社は何でもできるわけではありません。

実質的に見て育休前より明らかに不利な扱いになっているなら、それは違法になり得ます。

✅ やること:育休前の業務内容・役職・チームの状況などを今すぐ記録してください。復帰後と比較して明らかに格下げになっていれば、それが違法性を示す重要な材料になります。

【実践メモ】

育休前の役職・担当業務・チームの人数をメモしておきましょう。復帰後に変わった点を一覧にして残しておくと、後から「不利益があった」と説明しやすくなります。日付も必ず入れてください。

不当な配転命令を受けたときの3ステップ

実際に不利益な配転を命じられたとき、どうすればいいでしょうか。

具体的な行動を3つのステップで説明します。

ステップ1:事実を記録する

まず、事実をすぐ記録してください。

いつ・誰から・どんな内容の配転命令があったか。

育休前の業務と、配転後の業務の違いは何か。

日付・内容・相手の名前をメモに残します。

可能であれば、命令内容を書いた書面をもらいましょう。

ステップ2:会社に理由を確認する

次に、配転の理由を会社に確認します。

「なぜ私がこの部署に移るのか」。

「業務上の必要性はどこにあるのか」。

これを書面で出してもらうよう求めることができます。

⚠️ 注意:「育児のために負担を減らしてあげた」という言い方をする会社もあります。しかし、本人が望んでいないなら、それは配慮ではなく不利益取扱いです。

ステップ3:専門家に相談する

記録が取れたら、専門家への相談を検討してください。

相談先としては以下があります。

  • 労働局の総合労働相談コーナー(無料・全国に設置)
  • 都道府県の労働委員会
  • 社会保険労務士・弁護士

一人で抱え込まないでください。

専門家に話を聞いてもらうだけで、選択肢が見えてきます。

✅ やること:「総合労働相談コーナー + 都道府県名」で検索すると、最寄りの相談窓口が見つかります。電話一本で相談できます。費用はかかりません。

【実践メモ】

労働局への相談は無料です。会社に対してあっせんを申請する制度も利用できます。「とりあえず話だけ聞いてもらう」気持ちで連絡してみてください。相談したからといって、すぐに何かが動くわけではありません。

よくある疑問 Q&A

Q: 育休復帰後の配転命令は、すべて違法ですか?
A: すべてが違法なわけではありません。業務上の真の必要性があり、育休取得とは無関係な理由による配転は認められます。ただし「育休を取ったから」という事情が背景にある場合は、違法になる可能性があります。
Q: 配転命令を断ったら解雇されますか?
A: 違法な配転命令に従わなかったことを理由に解雇することは困難です。不当解雇として争える可能性があります。ただし、一人で判断せず、専門家に相談してから行動することをお勧めします。
Q: 「本人のための配慮」と会社は説明しています。これでも違法ですか?
A: 本人の意思を確認せずに行われた「配慮」は、法律上の配慮にはなりません。あなたが同意していないなら、不利益取扱いとして違法になる可能性があります。
Q: 育休前と同じ部署に戻る権利はありますか?
A: 原則として育休前と同じ業務・条件での職場復帰が求められます。組織変更などのやむを得ない事情がある場合でも、同等の条件の職に戻ることが必要です。明らかに格下げとなる配転には違法性が問われます。

チェックリスト

確認項目 チェック
育休前の業務内容・役職・チーム構成をメモしてある
復帰後の業務と比較して、不利な変化を記録した
配転命令の日時・内容・告知者を書き留めた
会社から配転理由の説明を受けた(書面があればなお良い)
自分が自由な意思で同意したわけではないことを確認した
労働局や専門家への相談を検討した

すぐやること 3 つ

  1. 育休前の業務内容・役職・チーム構成をメモする——記憶が新鮮なうちに残すことが大切です
  2. 配転命令の内容を書面で求める——口頭だけでなく、文書での確認を会社に求めてみましょう
  3. 労働局の相談窓口に連絡する——無料で相談できます。一人で悩まないでください

まとめ

  • 育休取得を理由とした不利益な配転は、育介法第10条で禁じられている
  • 「業務上の必要性がある」という言い分だけでは、違法性は消えない
  • 裁判でも、部下ゼロで新規販路開拓・電話営業への配転は違法と認定された
  • まず事実を記録し、会社に理由を確認し、専門家に相談する
  • 一人で抱え込まず、声を上げることが自分と家族を守る第一歩

育休から戻ったあなたには、子どもと向き合いながらキャリアを続ける権利があります。

職場に戻ったとたんに役割を奪われることは、あなたの将来設計を壊す行為です。

法律の知識を持つことで、あなた自身と大切な家族を守ることができます。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました