家政婦として働いているあなたへ。
もし仕事中に体調が急変したとき、労災は使えると思いますか?
実は、家政婦には労働基準法が適用されないケースがあります。
「家事使用人」という法律上の概念が、その理由です。
でも、あきらめないでください。
仲介会社を通じて働いている場合は、話が変わります。
現役の社会保険労務士として、あなたの権利をわかりやすく解説します。
- 「家事使用人」とは何か、なぜ労基法の対象外になるのか
- 仲介会社を通じている場合の労災適用の考え方
- 自分の雇用形態をチェックする方法と今すぐできること
「家事使用人」だと労働基準法が使えない?その仕組みを解説
まず、知っておくべき法律の話から始めます。
労働基準法116条2項には、こう書かれています。
「家事使用人については、適用しない」
つまり、個人の家庭に直接雇われて家事をする人は、労基法の保護を受けられません。
残業代の請求も、不当解雇に関するルールも、すべて外れます。
では、なぜこんなルールがあるのでしょうか。
家庭内の労働を国が監督するのは難しい。
また、プライベートな家庭生活に踏み込みすぎるのも適切でない。
こういった理由から、歴史的にこの除外規定が置かれてきました。
もっとも、家政婦だからといって、すべてのケースで保護がゼロになるわけではありません。
重要なのは、「誰に雇われているか」という実態です。
仲介会社を通じて働くとき、雇い主は誰になるのか
家政婦として働く場合、家政婦紹介所や家事代行会社などを通じることがあります。
このとき、「雇い主」は誰になるのでしょうか。
一般的には、仲介会社は「職業紹介」の役割を担っているとされます。
つまり、実際に雇うのは依頼者(個人の家庭)という整理になります。
この場合、家政婦は「家事使用人」として扱われやすくなります。
しかし、実態が「紹介」ではなく「雇用」に近い場合は話が変わります。
業務の指揮命令・報酬の支払い・契約内容などを総合的に見て、
実質的な雇い主が仲介会社だと認められれば、労基法が適用されます。
介護と家事が混ざって行われていたら?判例が示した答え
高齢者の家庭で家政婦として働く場合、介護と家事の両方を担うことがあります。
こうした働き方は、今の日本社会でよく見られます。
では、このとき「家事部分は家事使用人」「介護部分は労働者」と分けられるのでしょうか。
この問題が争われた重要な裁判があります。
渋谷労基署長(山本サービス)事件(東京高判令和6年9月19日)です。
この裁判で何が起きたか
介護福祉士の資格を持つ労働者が、仲介会社を通じてある家庭に派遣されました。
その家庭での業務は、介護と家事が混在していました。
業務中、その労働者は体調を急変させ、翌日に亡くなりました。
遺族が労災申請をしたところ、「家事使用人だから対象外」と不支給処分とされました。
遺族は納得できず、裁判に訴えました。
1審では遺族側が敗訴。しかし東京高裁は逆転勝訴を言い渡しました。
裁判所が判断の核心に置いたこと
東京高裁は、こう判断しました。
介護と家事の両方が、同じ生活空間の中で境界なく続けられていた。
そのような実態では、2つの業務を別々の契約として切り離すのは合理的ではない。
すべての業務が、仲介会社との雇用関係の中にあると認めるべきだ——。
つまり、仲介会社との雇用関係が実態だとわかれば、家事使用人の適用除外は当てはまらないということです。
【実践メモ】
「家事もしているから労災は無理かも」と思っているなら、一度立ち止まってください。
仲介会社を通じていないか?介護と家事が混在した業務ではないか?
その実態を整理した上で、労基署や社会保険労務士に相談することをお勧めします。
自分は「家事使用人」?働き方を確かめる4つの視点
「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったあなた。
以下の4つの視点で、働き方を確認してみてください。
① 誰と雇用契約を結んでいるか
契約書の「雇用主・使用者」欄を確認してください。
仲介会社の名前であれば、その会社があなたの雇い主です。
個人の家庭の名前だけであれば、家事使用人と見られやすくなります。
② 業務の指示・管理を誰が行っているか
日々の業務の指示は誰から来ますか?
仲介会社から来ているなら、実質的な雇用関係がある可能性があります。
依頼者(家庭)からだけなら、家事使用人として扱われやすいです。
③ 介護と家事が混在しているか
介護保険を使った訪問介護サービスも提供していますか?
そうであれば、介護業務は明確に「事業の一部」です。
家事と介護が一体となっているなら、全体を「家事使用人」とは切り捨てにくくなります。
④ 業務の状況を会社が把握しているか
シフトや業務報告書を会社に提出していますか?
会社が業務内容を把握・管理している事実があれば、
その会社が実質的な雇い主であるという証拠になります。
よくある疑問 Q&A
- Q: 家政婦紹介所を通じて働いています。労災は使えますか?
- A: 紹介所があなたを「紹介した」だけなら、雇い主は依頼者(家庭)になります。この場合、家事使用人として労基法の適用外になる可能性があります。ただし、紹介所が業務の管理や指揮を行っている実態があれば、話は変わります。まず雇用契約書の内容と実態を確認してみましょう。
- Q: 介護保険の訪問介護もしています。家事部分だけ労災対象外になりますか?
- A: 介護と家事が時間的・場所的に一体となっている場合、全体をまとめて判断されることがあります。渋谷労基署長事件の東京高裁判決では、明確に区分できない業務を無理に切り分けることは合理的でないという考え方が示されています。
- Q: 家事使用人でも労災保険に加入できる方法はありますか?
- A: はい、あります。現在では、家事使用人も労災保険の「特別加入」が認められています。特別加入することで、仕事中の事故や病気に対して保険給付を受けられます。詳しくは労働局や社会保険労務士にご相談ください。
- Q: 会社に「家事使用人だから労基法は適用されない」と言われました。本当ですか?
- A: 必ずしも正しいとはいえません。「家事使用人」かどうかは、雇用の実態によって決まります。会社を通じた業務管理や指揮がある場合は、たとえ家事をしていても家事使用人とは認められない可能性があります。すぐに専門家に相談してください。
チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 雇用契約書を持っており、雇用主の名前を確認している | □ |
| 業務の指示・管理が仲介会社から行われているか把握している | □ |
| 介護と家事の両方を担っている場合、その実態を記録している | □ |
| 労災保険の加入状況(特別加入を含む)を確認している | □ |
| 万が一のときに相談できる社労士・弁護士を把握している | □ |
すぐやること 3 つ
- 雇用契約書を確認する:雇用主の欄・業務内容の欄を確認してください。「家事のみ」なのか「介護も含む」のかを明確にしておきましょう。
- 業務の実態を記録する:誰からどんな指示を受けているか、どんな業務をしているかをメモや日報として記録しておきましょう。
- 労災保険の加入状況を確認する:仲介会社が労災保険に加入しているかどうか、または特別加入の案内を受けているかどうかを確認してください。
まとめ
- 家政婦は「家事使用人」として労働基準法の適用外になる場合があります
- ただし、仲介会社に実質的に雇用されている場合は、労基法の保護を受けられます
- 介護と家事が一体の業務となっている場合、「家事部分だけ適用外」とはいいにくくなります
- 渋谷労基署長事件(東京高判令和6年9月19日)では、家事と介護が一体だとして労災の業務起因性が認められました
- 現在では、家事使用人も労災保険の特別加入が可能です。必ず確認してください
- 「自分は家政婦だから仕方ない」とあきらめる前に、雇用の実態を確認しましょう
働くあなたの健康と命は、何より大切なものです。
そして、もし何かあったとき、あなたの家族が路頭に迷わないための仕組みは必ずあります。
「どうせ守られない」とあきらめず、今日、一枚の契約書を確認するところから始めてください。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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