「外回りの仕事だから、残業代は出ない」
会社にそう言われていませんか?
「みなし労働時間制があるから残業代はゼロ」という会社は多くあります。
でも、それは間違いかもしれません。
この制度には、適用できる厳しい条件があります。条件を満たさなければ、あなたには残業代を請求する権利があります。
令和6年4月、最高裁判所がこの制度について重要な判断を示しました。
現役の社会保険労務士として、労働者目線でわかりやすく解説します。
この記事を読むとわかること:
- 「事業場外みなし労働時間制」とは何か
- この制度が適用される本当の条件
- 「残業代ゼロ」と言われたときの対処法
「みなし労働時間制」とは何か
外回り営業や在宅勤務では、何時間働いたか会社がわかりにくいことがあります。
そのような場合に使われる制度が「事業場外みなし労働時間制」です。
労働基準法38条の2に定められています。
この制度が適用されると、実際の残業時間は考慮されません。
「所定労働時間だけ働いた」とみなされるのです。
所定労働時間が8時間なら、実際に10時間働いても「8時間労働」扱いです。
つまり、2時間分の残業代が発生しなくなります。
この制度が生まれた背景
もともとは、外勤営業や出張などを想定して作られた制度です。
「会社の外では労働時間の管理が難しい」という前提がありました。
しかし現代は、スマホや業務システムで外にいてもつながれます。
「外で働いているから自動的にみなし制」は、もう通用しない時代です。
みなし制が使える「本当の条件」とは
では「算定し難い」とはどういう状況なのでしょうか。
裁判所は次のような点を総合的に見て判断します。
判断に使われる4つの視点
まず「仕事の内容・やり方」です。
業務内容が日によって大きく変わるか。自分でスケジュールを決めているかなどを見ます。
次に「指示・連絡の頻度」です。
上司から随時指示を受けているか。電話やメールでの連絡が頻繁かどうかです。
また「報告の内容と方法」も重要です。
業務後に詳細な報告をしているか。日報の内容が細かく確認されているかどうかです。
最後に「会社が勤務状況を把握できるか」です。
これらを総合的に見て、会社が具体的に勤務状況を把握できたかどうかで判断されます。
【実践メモ】
「上司から毎日連絡がある」「スケジュールが事前に決まっている」「業務後に詳しく報告している」なら、みなし制は使えない可能性があります。自分の働き方と照らし合わせてみてください。
令和6年最高裁判決が示したこと(協同組合グローブ事件)
令和6年4月16日、最高裁判所がみなし労働時間制について重要な判断を示しました。
どんな事件だったか
社外の複数の取引先を定期的に訪問する業務に就いていた労働者が、残業代を請求した事件です。
その労働者は毎月、業務内容を記録した日報を会社に提出していました。
会社は「みなし労働時間制にあたるから残業代は不要」と主張しました。
高等裁判所(高裁)は「業務日報があるから確認できる。みなし制は使えない」と判断しました。
会社はこれを不服として最高裁に上告しました。
最高裁の判断
最高裁は高裁の判断を覆し、審理をやり直すよう命じました。
その理由は2点あります。
1点目。「業務日報の記載を第三者に確認することができる」というだけでは不十分です。
実際にそれが可能だったか、実効性があったかを具体的に調べる必要があります。
2点目。会社が業務日報をもとに残業代を支払ったことがあったとしても、それだけでは日報の正確性が客観的に保証されたとはいえません。
つまり「業務日報を出しているから会社は把握できている」とは、自動的にならないのです。
【実践メモ】
毎日の業務日報・勤怠記録は、あなたの残業代請求を支える証拠になります。業務の開始・終了時刻、訪問先、業務内容をできる限り詳しく記録しておきましょう。スマホのメモアプリでも十分です。
みなし制が「使えなかった」過去の判例
みなし制の適用が否定された過去の最高裁判例もあります(阪急トラベルサポート(第2)事件・最高裁平成26年1月24日判決)。
この事件では、業務のスケジュールが事前に詳細に決まっていました。
会社はそのスケジュールに基づいて具体的に指示を出していました。
業務終了後には詳細な報告が義務付けられていました。
最高裁は「会社が勤務状況を具体的に把握できた」として、みなし制の適用を認めませんでした。
スケジュールが事前に決まっており、詳しい指示と報告の仕組みがある場合は、みなし制は使えません。
テレワークにもみなし制は使えるのか
在宅勤務やモバイルワークが広がる中、「テレワークだからみなし制」という会社もあります。
しかしこれも、多くの場合は間違いです。
厚生労働省の「テレワークガイドライン」(令和3年3月25日)も、テレワーク中の労働時間管理を会社の責任として明記しています。
「在宅だからみなし制」と言われたら、まずこのガイドラインの存在を確認してみてください。
【実践メモ】
テレワーク中に上司とチャットやメールでやり取りしている場合、その記録を保存しておいてください。「会社から指示を受けていた」という証拠になります。スクリーンショットや送受信履歴が有効です。
「みなし制だから残業代なし」と言われたときの対処法
ステップ1:自分の働き方を確認する
「上司から毎日業務指示がある」「スケジュールが事前に決まっている」「業務後に詳しく報告している」場合は、みなし制の条件を満たしていない可能性があります。
自分の働き方を客観的に振り返ってみましょう。
ステップ2:証拠を集める
残業代請求には証拠が必要です。
以下のものを収集しましょう。
- 業務開始・終了時刻の記録(手帳・スマホのメモ)
- 上司とのメール・チャットの送受信履歴
- 業務日報のコピー
- 会社から受け取った業務指示の記録
ステップ3:専門家に相談する
証拠が集まったら、社会保険労務士や弁護士への相談をおすすめします。
「自分のケースで本当に請求できるか」を判断してもらえます。
労働基準監督署への申告という手段もあります。
「匿名で相談したい」という場合にも対応しています。
よくある疑問 Q&A
- Q:みなし労働に同意する書類にサインしてしまいました。残業代はもう請求できませんか?
- A:サインをしていても、法律上の適用条件を満たしていない場合は、みなし制自体が無効となる可能性があります。まず社会保険労務士や弁護士に相談してみてください。
- Q:業務日報を提出していますが、残業代を請求できますか?
- A:請求できる場合があります。業務日報は労働時間の把握手段の一つにすぎません。令和6年の最高裁判決でも、日報の客観的な正確性が保証されているかどうかが重要な判断基準とされています。
- Q:テレワーク中の残業代も請求できますか?
- A:できます。オンラインでつながっている在宅勤務では会社は技術的に労働時間を把握できるため、みなし制は通常適用されません。実際の残業時間に応じて割増賃金を請求できます。
- Q:残業代を請求すると会社から嫌がらせを受けませんか?
- A:残業代の請求は労働者の正当な権利です。請求を理由とした不利益な扱いは違法です。不安な場合は、社会保険労務士や弁護士を通じて進める方法や、労働基準監督署への相談という手段があります。
みなし制チェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 上司から毎日または頻繁に業務指示を受けている | □ |
| 業務スケジュールが事前に細かく決まっている | □ |
| 業務終了後に詳細な報告書・日報を提出している | □ |
| スマホ・PCで会社と常時連絡が取れる状態にある | □ |
| 訪問先・業務内容があらかじめ決まっている | □ |
| 就業規則等で始業・終業時刻が定められている | □ |
チェックが多いほど、みなし制の適用は否定されやすくなります。
つまり、残業代を請求できる可能性が高いということです。
すぐやること3つ
- 今日から労働時間を記録する:業務の開始・終了時刻と内容をスマホのメモや手帳に記録しましょう。日付・時刻・場所・業務内容を書いておくと証拠になります。
- 会社との連絡・指示を保存する:上司からのメール・チャット・電話記録を保存してください。「会社から指示を受けていた」という証拠として使えます。
- 専門家への相談を検討する:「自分のケースで請求できるか」は専門家でないと判断が難しいです。社会保険労務士や弁護士、または労働基準監督署への相談を検討してください。
まとめ
- 「事業場外みなし労働時間制」は、外で働いているだけでは適用できない
- 「労働時間を算定し難い」状況かどうかが、適用の判断基準
- 業務日報を提出しているだけでは「会社が把握できている」とはならない(令和6年最高裁判決)
- テレワーク中にオンラインでつながっている場合、みなし制は適用されにくい
- 会社から頻繁に指示を受け、詳しく報告しているなら、あなたには残業代をもらう権利がある
- 残業代請求には時効がある。早めに記録を集めて行動しよう
毎日頑張って働いているあなたが、「みなし制だから」の一言で正当な対価を奪われることはあってはなりません。
残業代は、あなたと家族の生活を守るためのお金です。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

