解雇されたが、裁判所から「その解雇は無効だ」と判断された。
なのに会社は「もう職場に来るな」と言い続けている。
あなたは、職場に戻ることを会社に要求できるのでしょうか。
結論から言います。「働かせてください」と会社に要求する権利(就労請求権)は、原則として労働者には認められていません。ただし、働けない期間の給料を受け取る権利は、しっかり守られています。
現役の社会保険労務士として、この問題をわかりやすく解説します。この記事を読むとわかることは以下の3点です。
- 就労請求権がなぜ原則認められないのか
- 職場に入れてもらえなくても給料を守る方法
- 例外的に就労請求権が認められる条件
就労請求権とは何か──「働かせろ」という権利
就労請求権とは、労働者が会社に「働く機会を与えてください」と要求できる権利のことです。
つまり、「私を職場に来させてください」「仕事をさせてください」と求める権利です。
一見、当然の権利のように思えますよね。
でも、法律の世界では原則として認められていません。
その理由を次に説明します。
なぜ就労請求権は原則として認められないのか
労働契約の基本を確認しましょう。
労働者が働く⇔会社が賃金を払う。
この二つの義務が基本的な関係です。
働くことは、労働者の「義務」でもあります。
義務である以上、それを「権利」として主張するのは矛盾します。
この考え方から、就労請求権は原則として否定されてきました。
読売新聞社事件(東京高裁昭和33年8月2日決定)では、こうした就労請求権を原則として否定する考え方が示されました。この立場は今も基本的なルールとして維持されています。
働けなくても給料は守られる──賃金請求権という強い武器
解雇が無効だと認められた場合、とても重要な結果が生じます。
会社は、あなたが働けなかった期間の賃金を支払わなければなりません。
理由はシンプルです。
会社が「来るな」と言ったことで、あなたは働けなくなりました。
これは会社の都合による問題です。
民法536条2項は、こうした状況でも賃金請求権を守っています。
つまり、職場に入れてもらえなくても、給料をもらう権利は消えません。
「働けない間は無収入」ではないのです。
これは労働者にとって、とても重要な保護です。
【実践メモ】
解雇を告げられた日時・場所・発言内容をメモしておきましょう。
「職場に来るな」と言われた場合も同様に記録します。
メールやチャットでのやり取りが残っていれば、スクリーンショットで保存してください。
こうした記録が、未払い賃金の請求や裁判の場で重要な証拠になります。
例外的に就労請求権が認められる3つのケース
原則は「認められない」ですが、例外もあります。
あなたの状況が例外に当てはまるかもしれません。
3つのパターンを確認しましょう。
①契約書や就業規則に特別な定めがある場合
雇用契約書や就業規則に「就労を保障する」内容が記されている場合があります。
例えば、「正当な理由がない限り業務から外さない」という条項です。
そうした定めがある場合には、それを根拠に就労を求めることができます。
まず自分の雇用契約書と就業規則を一字一句確認しましょう。
会社に不利な条項が隠れていることがあります。
②実際に働かないと専門技術が落ちてしまう職種
料理人、演奏家、特殊機器のオペレーターなど、日々の業務を通じてのみ技術を維持できる職種があります。
こういった職種では、働けないことが直接的な実害につながります。
「就労が途絶えることで専門能力が損なわれる」という具体的な損害が生じます。
そのため、就労請求権が認められる可能性があります。
実際にそのような裁判例も存在しています。
③「キャリア権」という新しい考え方
最近、法律の研究者の間で注目されている考え方があります。
それは、すべての労働者に「職業上のキャリアを形成する権利(キャリア権)」があるというものです。
実際に職場で働くことが、最も効果的な能力開発です。
だから、専門職かどうかに関係なく、就労請求権を認めるべきだという議論が広がっています。
まだ裁判所の多数意見にはなっていませんが、今後の展開が注目されます。
理不尽な職場排除には慰謝料請求という手段もある
就労請求権が認められなくても、別の方法で会社の責任を追及できます。
会社が理不尽な形であなたを職場から締め出した場合、精神的損害(慰謝料)を請求できることがあります。
解雇が無効なのに職場への立ち入りを一方的に禁じられた場合を考えましょう。
その行為があなたの人格的な尊厳を傷つけるものであれば、不法行為(民法709条)が成立します。
慰謝料を求めることができます。
「賃金はもらえるのだからガマンしなさい」とはなりません。
職場から排除された精神的苦痛は、あなたの正当な権利として守られる場合があります。
【実践メモ】
職場から排除された状況を詳しく記録しておきましょう。
いつ、誰に、どんな言葉で、どんな方法で締め出されたかをメモします。
精神的なダメージが大きい場合は、早めに医師を受診して診断書を取っておきましょう。
こうした記録が、慰謝料請求の根拠になります。
よくある疑問 Q&A
- Q: 解雇が無効になれば、すぐに職場に戻れますか?
- A: 必ずしもすぐには戻れません。会社が就労を拒否した場合、強制的に戻ることは原則できません。ただし、賃金請求権は確保されます。職場復帰を求める場合は、労働審判や仮処分などの法的手続きを利用することが選択肢になります。
- Q: 自宅待機を命じられた場合、給料はもらえますか?
- A: 会社の都合による自宅待機であれば、原則として賃金または休業手当の支払い義務が会社に生じます。「仕事をしていないから払わない」という会社の言い分は通りません。
- Q: 就労請求権が認められやすい職業はありますか?
- A: 日々の実務を通じてのみ専門技術を維持できる職種(調理師・演奏家・特殊技術者など)では認められやすい傾向があります。ただし個別の判断が必要ですので、専門家への相談をお勧めします。
- Q: 弁護士と社労士、どちらに相談すべきですか?
- A: 賃金の計算・労使交渉の整理は社労士が得意です。裁判や法的手続きを視野に入れる場合は弁護士への相談が必要です。まず社労士に相談して全体像を把握し、必要に応じて弁護士を紹介してもらう流れが効率的です。
チェックリスト:解雇・就労トラブルで確認すべき項目
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 雇用契約書に就労保障の条項がないか確認した | □ |
| 就業規則を会社から取り寄せて確認した | □ |
| 解雇通知の日時・内容・方法を記録した | □ |
| 「来るな」と言われた状況をメモした | □ |
| 解雇日から現在までの未払い賃金を計算した | □ |
| 給与明細・タイムカードなど賃金証明を保管した | □ |
| 精神的ダメージがある場合は医師の診断書を取った | □ |
| 社労士または弁護士への相談を検討した | □ |
すぐやること3つ
- 雇用契約書と就業規則を確認する:「就労保障」に関する条項がないか探しましょう。会社に就業規則の開示を求めることができます。
- 未払い賃金を計算して記録する:解雇日から現在まで、本来受け取れるはずだった賃金を計算し、証拠書類(給与明細など)とあわせて保管してください。
- 専門家に相談する:状況を整理して、社労士や弁護士に相談しましょう。無料相談窓口(労働基準監督署・総合労働相談コーナー)も利用できます。
まとめ
- 就労請求権は、原則として労働者には認められていない
- ただし、解雇が無効なら働けない期間の賃金請求権はしっかり守られている
- 雇用契約に特別の定めがある場合や、専門技術職の場合は例外として就労請求権が認められることがある
- 職場から理不尽に排除された精神的苦痛は、慰謝料として請求できる場合がある
- 「働けない=泣き寝入り」ではない。給料と尊厳を守る手段が必ずある
職場でひとり孤立させられ、給料も職場への入り口も塞がれた。
そのつらさは、あなたの心と生活に深くのしかかっています。
でも、あなたには法律という武器があります。
一人で抱え込まず、専門家に相談することで、失われた収入と尊厳を取り戻す道が必ず開けます。
※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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